表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移!  作者: 中原
2章 初仕事は迷い猫探し
9/67

4話

「オーナーでしたら宿に帰りました」


 動物園のスタッフにゲイリーさんに会わせて欲しいと言うと、そう返答された。


「本当は明日動物を買う予定だったんですけど、どうしても今日欲しいんです。帰ったのなら宿を教えて頂けませんか?」

「すみません。それが私どもも知らないもので……」

「誰か知ってる人はいませんか?」

「すみませんが」

「だったら明日の何時くらいにゲイリーさんが来るか教えて貰えませんか?」

「それがオーナーは明日以降来れなくなりまして……」

「どうしてですか?」

「急用ができたそうで、今日にはここを発つと。ですので申し訳ありませんが、動物の受け渡しはできません」


 従業員は申し訳なさそうに腰を深々と折った。


「そうですか……ありがとうございます」


 俺がお礼を言うと、スタッフの人は自分の仕事に戻って行った。


「マズイね。逃げられる」

「幸いこの街からの出口は1つしかないわ。門の前で待ちましょう」

「でもさ、こんなに用意のいい人が普通に逃げると思う? 変装したり荷物に混ざったりして逃げそうじゃない?」

「確かに。荷物に紛れられたらお手上げね。いちいち出る人の荷物をチェックできないし」

「となると宿を見つけるしかない、か。宿ってたくさんあるの?」

「ええ。点在してるし、部屋を1つ1つ探すのなら丸1日かかるわ」

「厳しいね……」


 このままだと逃げられてしまう。

 何かあるはずだ。ゲイリーさんを探す方法が。





 街の出口に1番近いホテル。ゲイリーはそのホテルで1番高価な部屋を取っていた。

 その部屋に帰り、ゲイリーは急いで荷造りをしていた。


「クソッ! あのガキどもめ。勘付いてやがったな!」


 悪態をつけながら、洋服や金と言った物を雑にトランクの中に詰め込んで行く。


「はぁはぁ……まあいい。金は十分稼げたし、猫も手に入れた。ちょうど潮時だったんだ」


 ゲイリーは自分に言い聞かせるよう言って、トランクの蓋を閉めた。


「さーて、それじゃあ子猫ちゃーん。次の街へ行きましょうかー」

「シャー!!」

「コラ! 逃げるな!」


 ゲイリーが猫をペットケースに入れようと、追っていた時だった。

 コンコンコン。

 ドアがノックされた。

 ドクン! ゲイリーの心臓が跳ねる。


(ま、まさかヤツらが来たのか!? )


ゲイリーは息を呑み、ドアを見つめる。 

  コンコンコン。

  再度ドアがノックされた。


(……いや、奴らのはずないか。ここは誰にも教えていない。バレるはずないんだ。きっとホテルのスタッフだ。きっとそうだ)


 速鐘を打つ心臓を鎮めるべく、ゲイリーは恐る恐るドアを開けた。

 ドアの隙間から見えたのは……


「あの、お客様……」


 ホテルのスタッフだった。

 ゲイリーはホッと胸を撫で下ろした。


「なんだ?」

「こちらの御二方が用があるそうです」


 ゲイリーが扉を大きく開け、スタッフの横に目を向ける。


「あ、どうも。イオリです」


 ゲイリーは眼球を飛び出させ驚いた。






「あ、どうも伊織です」


 名乗ると、ゲイリーさんは目を大きく見張った。

 そんな変な顔になるほど驚くんだ。


「チッ!」


 我に返ったゲイリーさんがドアを閉めようとした。

  俺はドアの隙間に足を滑り込ませ閉められるのを防いだ。

 そして強引にドアを開ける。


「クソッ! どうしてお前たちがここに!」

「あら、知りたい?」


 何故か勝ち誇り、もったいぶるアリアさん。

 その横から俺が答えを言う。


「その服、目立んですよ。結構街の人から覚えられてましたよ」


 街の人に聞いて回ったらすぐにこのホテルに入って行ったとわかった。


「ちょっと! どうして先に言うのよ」

「いやだってもったいぶる程の理由じゃないじゃん」


 それに、気づいたの俺だし。


「さあ、観念しなさい」

「くっ……」


 諦めの悪いゲイリーさんは部屋の中へと逃げる。


「逃がさないよ!」


  俺は猛スピードで駆け、すぐにゲイリーさんを捕まえた。


「離せ!」

「牢屋に入れたら離しますよ」

「わかった! 金ならやる! お前ら猫の飼い主に雇われてこんな事しているんだろ? だったらそいつらの報酬の2倍……いや、3倍出す。だから見逃してくれ!」


 子供のように暴れるゲイリーさん。


「だってよアリアさん。どうする?」

「牢屋行きね」

「わかった! 10倍だ! それでどうだ!?」

「牢屋行き」

「100倍!」


 その言葉を聞き、アリアさんはふぅ、とため息を吐いた。


「あのねぇ、いくら上げても一緒よ。悪い事をしたら捕まるのは当たり前でしょ」

「悪い事!? 私のした事のどこが悪い!!」

「はあ?」

「あの猫の飼い主達! あいつらは猫の価値を何一つわかっていない! この猫は3万匹に1匹しか生まれないような希少な猫なんだ! なのにあいつらは普通の猫と同じように飼いやがって!」


  ゲイリーさんは本気で自分は悪くないと思っているようだった。

 アリアさんは話にならないと呆れて言葉も出ないようだった。


「つまり、ゲイリーさんは価値がわかっている方が飼うべきだと思っているんですね」


 俺はゲイリーさんに聞く。


「そうだ!」

「だったらこの猫は返さなくちゃですね」

「何!?」

「だってそうでしょ? あなたはこの猫を3万分の1の価値としか見てない。でもあの家族は猫をかけがえのない存在だと思っているんです。全ての猫の中の1匹なんですよ。代わりはいないんです」

「そ、そんなの詭弁もいいところだ! 価値をわかってるとは言えん!」

「確かにあなたの言う価値とは違うかもしれません。でも大事にしている事には変わりありません。それなのに自分が思う価値と違うから奪うっていうのは違いませんか?」

「ち、違わん!」


 ゲイリーさんはまるで認めようとしない。


「イオリ。言っても無駄よ。彼に自分の非を認める気がないんだから。ま、後は牢屋でじっくり考えることね。本当に自分が正しいかどうか。もしイオリの言葉が正しいと思うのなら改心しなさい。今ならやり直しが効くわ」


 諭すように話していたアリアさんは最後に釘を差す。


「でも、もし改心せず悪事を働き続けると言うのなら、絶対私が捕まえるから。覚悟しておきなさい」


 ゲイリーさんは観念したのか反論はなかった。

 アリアさんがゲイリーさんを連行していく。

 改心……してくれるといいな。





  ゲイリーさんを軍に引き渡した後で、俺たちはティガを連れてミアちゃんの家を訪れた。

 トビラをノックすると、ミアちゃんが飛び出してきた。


「はーい!」


 ミアちゃんはアリアさんが抱えているティガを見つけると、目を大きく見開いた。


「わーっ! ティガちゃんだー! 」

「はい。ティガよ」


 ミアちゃんの手に渡ると、ティガは嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らした。

 うれしそうな両者の顔を見て、ティガを救えてよかったなあとしみじみ思った。

 ミアちゃんの声を聞き、両親も出てきた。


「見つけてくれたんですね。ありがとうございます」


  出てきた両親が深々とお礼をした。


「ほら、ミアもお礼を言いなさい」


 父親に促され、ミアちゃんは満面の笑みのままアリアさんの方を向いた。


「ありがとう! アリアちゃん!」

「いいのよ」

「それと……」


 ミアちゃんは、俺の方を向いて首を傾げた。

 俺の名前がわからないようだ。


「伊織だよ」

「ありがとう! イオリくん!」


  笑顔で言われ、釣られて俺も笑ってしまった。




 これにて一件落着……とは行かなかった。

 まだ残されている問題があった。

 それを解決するため、ジョンさんの家を訪れた。


「ありがとう。あなたの情報のお陰でゲイリーを捕まえれたわ」

「そうか。捕まえくれたか」

「それで、この子よね。あなたの友人のペットって」


  ペットケースに入れたうさぎを確認してもらう。


「ああ。こいつだ」


 ジョンさんがうさぎを受け取ろうと手を伸ばした瞬間、アリアさんが手を引いた。


「何のつもりだ?」

「うさぎの救出代は貰ってないと思って」


 アリアさんが笑顔を振りまく。


「……いくらだよ」

「実はあの動物園は廃園になって行き場のない動物達がたくさんいるんです。どうにかしてくれませんか?」


 と俺。


「それが報酬の代わりってか?」

「はい」

「どうにかってどうしろと」

「できれば元の飼い主のところに返してやりたいです。ただ全ては難しいと思うので、動物園を続けるなり、ペットショップにするなり、ジョンさんの好きなようにして下さい」

「そんなんアリかよ」

「アリよ。許可も取ったから」

「いいのかよ。俺に全部任せて。ゲイリーみたいなことするかもだぜ」

「大丈夫よ。私、人を見る目には自信があるけど、あなたはそんなことする人じゃないわ」

「よく言うぜ。あんた最初俺を疑ってたよな」


 そう言うジョンさんの言葉に俺は付け加える。


「そういえば俺も疑われてた……」

「どっちも最初だけだから! 5秒話したら信用できるって思ったわ!」


 何か言ってるよと、俺とジョンさんは苦笑いする。


「それでどうするの! 引き受けてくれるの、くれないの!?」


 ジョンさんは少し考えてから


「……わかった。引き受ける」


 と言ってくれた。

 まあ、動物好きのジョンさんなら絶対そう言ってくれると思ってたけどね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ