3話
「キャメロンさんは誰に攫われたんですか?」
少し落ち着いた頃合いを見て、聞いた。
「見知らぬ男達が数人屋敷に乗り込んで来て……それでキャメロン様を連れ去って行きました」
「どうしてキャメロンさんが……」
「わかりません。しかし彼らは私にこれをイオリ様に渡せと」
執事さんが汗でよれた手紙を懐から取り出した。
俺は手紙を受け取り開く。
手紙には文が2行と地図が書かれていた。
……読めない。文字は読めないんだった。
『キャメロンは預かった。返して欲しければここに来い……だとよ』
(なるほどね。俺らに用があるのか)
『ああ』
「危険だとは思います。ですが、どうか……どうか力を貸して下さい!」
執事さんは頭を下げて頼み込んで来た。
「もちろんです。元々こうなった原因は自分にあるみたいなので。だからそんなに頭を下げないでください」
「ありがとうございますっ」
「執事さんは屋敷で待っていてください。キャメロンさんを助けて来るので」
「どうかお願いします」
俺は執事さんから離れ、2人に事情を話すためアリアさん達のいるドアを開けた。
「アリアさん! キャメロンさんがさら……われた」
途中で言葉に詰まった。
その時の俺は焦っていて、だからノックをするという基本的な動作を忘れていた。
勢いよくドアを開けるとアリアさんは着替えの途中で、上着をたくし上げており真っ白でキュッと細いお腹が目に飛び込んで来た。
「きゃー! 何入って来てるの!?」
アリアさんが急いで服を下げる。
「ご、ごめん!」
バタン! 慌ててドアを閉じた。
どうすればいいのかわからずドアを背にして待っていると、ドアが開きその隙間からアリアさんが顔を出した。
「……何か用?」
ドアの隙間からアリアさんが少し赤い顔を出す。
申し訳ないと思いつつ、事情を説明した。
「キャメロンさんが攫われたんだ。それで攫った人達が俺らに来いって言ってる」
説明するとアリアさんの表情がいつものキリッとした顔に変わった。
「どうして私たちを?」
「もしかしたら攫ったのはクレスかもしれない。俺たちの邪魔するために」
「だとしたら厄介ね」
先日クレスにやられたばかりだ。
「でも行かないわけにはいかないよ」
「そうね。ちょっと待ってて。ジルを起こすから」
「お願い」
アリアさんに頼みジルさんを起こして来て貰った。
まだ微睡みの中にいるのかぼーっとしている。
「何ですか。こんな朝早くから」
目をこすりながら不満を口にするジルさんに現在の状況を教える。
「キャメロンさんが攫われたんだ。助けに行くから力を貸して欲しい」
「……わかりました。行きましょう」
緩んでいた顔が一気に引き締まった。
俺たちは急いで準備をしてキャメロンさんが攫われた家まで向かう。
「あの家ね」
アリアさんが地図と照らし合わせながら言う。
見た目は普通の2階建ての家だ。
だけど入り口には柄の悪そうな男達が大きな笑い声を響かせながらたむろしていた。
門兵のつもりだろうか。
俺たちは柄の悪い男達がいる家に向かって進む。
家の庭に入るとドアの前にいた2人の内の1人、箒のような頭をした男がこちらに気がつき立ち上がってガンを飛ばしてきた。
「なんだてめえらは? ここがどこかわかって入って来てんのか!?」
「うるさいわね。大声出せば怖がるとでも思ってるの?」
そんなゴリゴリのヤンキーの罵声にアリアさんはまるで怯む様子はない。
「ああ!?」
額に青筋を浮かべながら箒男はアリアさんを睨む。
と、もう1人のモヒカン頭の方も立ち上がった。
「おい、もしかしてコイツらオーカン様が言ってた奴らじゃねえか?」
オーカン?
もしかしてキャメロンさんを攫ったのはクレスじゃない?
「あ? あのイオリとかいうやつらか? そんなわけねーだろ。弱そうだぞ」
「確かに弱そうだ。じゃあ違うか」
「伊織ですけど」
俺が名乗ると2人は顔を見合わせ、一拍おいて爆笑した。
「あーははは! 強いって話だったけど、こんなガキかよ!」
「本当にな! しかも2人は女ときた 人質取った意味ねー!」
俺らを見てゲラゲラと声を出して笑う2人。
「中に入りましょう。ここにいても無駄みたいよ」
「だね」
俺達は爆笑しているヤンキー2人の横を通り抜けドアを開けて家の中に入った。
「ちょっと待て!」
俺達を追いかけてヤンキー達も中に入って来た。
「馬鹿にしやがって、てめえら……」
「馬鹿だから馬鹿にされるのよ」
アリアさんは人を逆上させる言い方をする。
「調子に乗んなァ!」
モヒカン頭がアリアさんに殴り掛かろうと腕を引く。
俺はその人とアリアさんとの間に割って入った。
「何だてめえは!」
勢いそのままに殴りかかって来る。
俺はモヒカン頭のパンチを左手で受け流し、右手でみぞおちを殴る。
拳が鳩尾に食い込む。
「ぐふっ!」
モヒカン頭は腹を押さえながら床に倒れた。
「てめえ! やりやがったな!」
もう1人も突進して来る。
今度は上段回し蹴りを頭部に決めると1発で倒れた。
「さすが。頼りになるー」
「どうも」
相手が弱いしこれくらいはね。
さて、キャメロンさんはどこにいるんだろうか。
俺は腹を抑えうずくまってる男に聞いた。
「キャメロンさんはどこ?」
「……」
男は無言で2階の部屋を指差した。
「上か。行ってみよう」
階段で2階まで上がり、男が指差した部屋の前で止まる。
中から話し声が聞こえる。
2人に準備はいいか目配せをすると、2人は頷いてくれた。
俺はドアを蹴破り中に突入した。
それまで響いていた笑い声がピタリと止まり、数十の目が一斉にこちらを向いた。
キャメロンさんは……いた!
部屋の隅で縄で縛られている。
俺が救いに駆け寄ろうとしたところで怒号が飛んだ。
「動くなっ!」
ドスの利いた声を出され、思わず足が止まってしまった。
「動いたらあのおっさん殺すぞ」
低く冷たい声。
その声の主は部屋の奥にある玉座のような椅子に座っていた。
真っ白な髪に下卑た笑みをしたそいつは、1人だけ異質なオーラを放っている。
彼がリーダー?
俺が足を止めている間にキャメロンさんの近くにいた男がナイフを取り出し喉元に突きつけた。
「くっ……」
これで完全に手が出せなくなってしまった。
「教育のなってないガキ共だな。勝手に人の家に入って来やがって……そういや家の前にいた奴らはどうした?」
「下で寝てるよ」
「チッ。使えねえ奴らめ」
男は吐き捨てるように言った。
「てめえがイオリか?」
「そうだよ。あなたは?」
「俺はシュバルツナイツ四天王の1人、オーカンだ」
シュバルツナイツ?
「クレスは?」
「ここにはいねえよ」
クレスはいないのかよかった。
でも単独ではなく組織で動いているのか。厳しいな。
「しっかし噂ってのはやっぱり尾ひれがつくんだな。クレスから聞いた話じゃそこそこやるって話だったんだが、ガキ供じゃねえか」
「人質がいるから大きなことも言えるわね」
アリアさんが挑発するとオーカンの顔から笑みが消えた。
「勘違いすんな。人質なんかいなくてもお前らには負けやしねえよ」
「なら解放しなさいよ。それとも口だけなの?」
「底の浅い挑発だな。そんな挑発に乗るほど俺は馬鹿じゃねえ。それにこっちはお前らを殺すのが目的じゃねえんだよ」
「ではどうしてキャメロンさんを攫ったんですか?」
とジルさん。
「やって貰いたい事がある」
「やって貰いたい事?」
俺は眉をひそめた。
「ああ。それをしてくれたらこのおっさんは解放してやるよ」
「何をしたらいい?」
「土の剣を取ってこい。それと交換でこのおっさんを解放してやる」
「わかった。その間キャメロンさんには手を出さないでよ」
俺が言うとオーカンはいやらしく口端を上げた。
「さっさと取ってこなきゃ自信ねえな」
「……行こう2人とも」




