4話
「ッガアアアアア!!!!!」
雄叫びとともに、気を失っていたと魔物が起き上がり襲って来た。
クレスを追いかけようとしていた俺は急いで振り返った。
もう起きたかっ!
「イオリ! もう一度さっきの攻撃を!」
「くっ!」
急いで剣に力を貯める。
マズい。力の配分を間違えた。この威力の衝撃波が当たれば魔物は死ぬ。
少し躊躇っている間に魔物はすぐそこまで接近していた。
走馬灯は見なかった。
でも世界の流れがスローモーションに感じた。
ゆっくりと魔物が近づいてきて、手を振り下ろす。
ああ、終わった。
諦めかけた時だった。
地面から数多の土の槍が出現し、魔物の身体を貫いた。
魔物の身体から血しぶきが顔に飛んできて、獣の匂いが鼻についた。
だがそんな事が気にならないほどショッキングな光景が眼前には広がっていた。
魔物は土槍に全身を貫かれ、もがき苦しんでいる。
やがて動きは鈍くなり、ゆっくりとまぶたを下ろした。
それを見た瞬間、黒く重たい得体の知れないものが体に入り込んだみたいに俺の胃と心臓をキュッと締め上げた。
「うっ……」
匂いも相まって吐き気を催す。
口に手を当て、串刺しの魔物から目を逸らしどうにか堪えた。
「無事か?」
すんでのところで俺を救ってくれたのは、セシル団長だった。
「……ありがとうございます」
絞り出すようにお礼を言う。上手く口が動かず声が震えてしまった。
「戦いはできるだけ避けるように言っていたはずだが?」
セシル団長がアリアさんに睨みを効かせる。
「すみません。ですがあの人が魔物に連れて行かれていたので戦うしかありませんでした」
団長は倒れている人を認め、フゥーと重い息を吐いた。
「なるほどな。それは英断だった。しかしこの森にこんな魔物まで住んでいるとはな。どうなっているんだか」
「その事なんですが、いいですか?」
アリアさんはセシル団長に近づく。
「どうやら魔物を操っている人物がいるようです」
「そうか」
「驚かないんですね。もしかしてご存知だったのですか?」
「いや。ただその可能性もあると思っていただけだ。確証はなかった。だが今回その証拠を掴んだのだろ?」
俺は2人の話を右から左に聞き流し、受け入れ難い現実を前にボーッとしていた。
「はい。ねえイオリ」
「え?」
話を聞いてなかった俺は聞き返した。
「クレスよ。彼が魔物に乗って去って行ったの見てたでしょ」
「あ、うん」
「では、最近の騒ぎはその男が原因であると」
「おそらくですが」
「特徴を教えて貰ってもいいかな?」
「180cmくらいの青年で、髪は金髪……」
アリアさんがクレスの特徴を説明してくれていた。
「わかった。こちらで似たような風貌の男を探しておこう」
「お願いします。これからどうしますか?」
「怪我人が出てしまった。それにソイツはこの森からは逃げただろうから今日のところは街へ引き上げよう」
「わかりました。私達も引き上げましょう……イオリ?」
俺の様子がおかしいと思ったのか、アリアさんが話しかけてきた。
「顔色悪いけど、大丈夫?」
「……アリアさんはさあ。魔物を殺すのって平気なの?」
聞くと予想外の質問だったようで目をパチクリさせた。
けれどすぐに納得顔になった。
「そうね。あなたよりは平気よ」
「ということは全く平気ではない、と?」
「当たり前よ。ていうか私、魔物ならどれだけ殺しても平気って思うようなそんな冷酷な人に見える?」
「見えない。じゃあ……」
「じゃあどうして殺せるのかって? 決まってるじゃない。殺さないと殺されるからよ」
ゾクッ。
俺はさっき魔物に殺される寸前だったことを思い出し、背筋を凍らせた。
「だからって平気なわけじゃない。でも誰かがそういう仕事をしないといけないの」
「……だろうね」
「なら誰もしたくないであろう仕事をやるべきなのは私のように力のある人じゃない?」
その通りだと思う。けど、実際にその光景を見るとキツイ物があった。
ゲームの世界とは全然違う。
「後は覚悟の問題よ。殺すという行為を逃げたりせず受け入れる事ができるか」
「受け入れる……」
同い年くらいなのに、アリアさんがえらく大人びて見えた。
地球でのほほんと暮らしていた自分が恥ずかしくなるくらいだ。
「まあ、そうそう魔物を殺す事なんてないから大丈夫よ。それより今日は疲れたでしょ。帰りましょう」
「……そうだね」




