第二十九話
俺と組長が戦ってから一週間後。応援に行った俺の少し後に、彼が悔しそうにしながら組に帰ってきた。
「お疲れ様。いい試合だったじゃないか」
「そうだが、やはり悔しいものは悔しい……」
「そう思えるならば、まだお前は成長できるな」
「本当か?」
「ああ」
「そうか、ありがとう」
俺との試合で勝ちあがった後に次の試合では勝ったのはいいが、ブロック代表選だった今日、善戦をしたもののあと一歩のところで負けてしまった。俺も同じように負けず嫌いだからわかるが、やはり勝ちたかったのだろう。唇を噛みしめて、悔しそうにしている組長の姿がそこにあった。
「いつまでそんな顔してるんだよ」
「あ、いや…… すまない」
「ほら、シャキッとしろ。組員達に、そんな顔見られたら笑われるぞ?」
「そんなに酷いか?」
「だいぶ」
ため息を一つ吐いてから、組長の背中を叩いた。
「よし、今日は家に帰ってゆっくりしてこい。組長」
「だけど」
「いいから。こっちは俺と組員達で、別にどうにでもなるからよ」
「わかった…… そうさせてもらおうか」
「ああ、しっかりと嫁に癒されてこい」
彼の背中を押して組から追い出し、シリンが待っているマンションへと帰らせる。放っておくと組にいる時間の方が長く、妊娠しているシリンを一人にさせてしまっているようで、俺としてもそれは心配で仕方なかった。だから多少強引でも、組長を家へと帰したかった。その方が家で待っている彼女も、少しは安心できるだろう。
「まあ、俺も家にいる時間は短いけどな……」
俺も他人の事を言えるはずもなく、なかなか帰れずにいることもあった。そんな俺のことを咎めることなく「おかえり」と迎えてくれる相方には、とても頭が上がらなかった。
「今日はお帰りになりますかい?」
「俺まで帰ったら、この組は大丈夫なのか?」
「いつもより今日は静かですし、大丈夫だと思います。それに、組長もそうですが、もう少し俺達も頼ってくださいよ」
「悪かった…… それじゃあ、後を頼むよ。何かあれば、連絡をくれ」
「へい!」
組員達に気を遣われ、俺も家に帰ることにした。まだ昼前だから、二人でどこかへ行くこともできるし、二人でのんびりと家で過ごしても良い。外に出るのは彼が面倒臭がる気がするから、家で過ごすことになりそうだが。
「ただいま」
「おかえり、今日は早いな」
「うん、今日は早めに帰ってきた」
「そうか、それはよかった。日々の疲れを癒すと良い」
「ありがと。今日は家でゆっくりするよ」
帰ってきた俺にココアを入れて渡し、自分の分も用意して座って飲み始める。
「ごめんね、いつも一人にして」
「仕方ないさ、忙しいんだろ?」
「そうなんだけど……」
「いつもお疲れ様だよ、コトリ」
隣に座っていたら軽く頭を撫でられ、肩を抱き寄せられた。
「頑張るのも程々にな?」
「ありがとう、そうするよ」
今日は彼の優しさに甘えよう。そう考えて、肩に頭を預けた。
「ねえ、何読んでるの?」
「推理小説」
「へえ、珍しいね」
「そうか?」
「うん、ちょっとね。面白い?」
「ああ、面白いよ。コトリは読まないのか?」
「俺はほら、読むのが大抵魔法関係だし……」
困ったように笑いながら、そう答える。
「読んでみれば良いじゃないか。面白いぞ」
「うん、今度読んでみる」
「なんか眠そうだな?」
「少し眠いかも……」
「眠いなら少し寝てていいからな」
「ありがとう。少し寝ることにするよ……」
そんな会話をしながら本を読んでいる彼の肩に頭を乗せていたら、眠くなりそのまま夢の中に落ちていった。




