最終話 いつまでも一緒に
今回で最後となります。
「でも、なおくん、ごめんなさい……」
「ん、どうしたの?」
「私、なおくんにずっと酷い事をしてきたから。
それも、転生してまで会いたかった、なおくんに……」
「良いよ、そんな事」
「ううん、私は絶対そばに居て、あなたを慰めるつもりでいたのに。
逆に、なおくんを苦しめてしまった……」
涙をポロポロと流す、千早ちゃんコト水樹ちゃんを、思わず抱き締める。
ほっそりとしてるが柔らかくて、とても抱き心地の良い感触は、変わらなかった。
「私、なおくんに別れを突き付けた後。
色んな男の子と付き合った事が有ったけど、長続きしなかった」
「えっ?」
別れを突き付けられた後、全くの没交渉だったし。
中学以降は、学校も全く変わってしまったので、そんな事は全く知らなかった。
「格好いいと思っていた子が、付き合うとタダの軽薄なチャラ男だったり。
男らしいと思っていた子と付き合うと、粗暴な俺様だったりと。
誠実でも無ければ、謙虚でも無いし、思いやりも無かった相手ばかりだった」
「そうだったの……」
以前の冷たい彼女でも、クールビューティ的な魅力があったので。
多分、モテていただろうとは思っていたけど。
実際に聞くと、軽くショックを受けた。
「だから、最近は恋愛に関心を失いつつ有ったんだけど。
でも、心の何処かで引っ掛かっていたの、“誠実で、謙虚で、思いやりを持った、本当に私を愛してくれる相手”。
そして、“私が本当に愛さないといけない相手”が、居るんじゃないかと」
「……」
「そして思い出したの、“本当に愛してくれて、愛さないといけない相手”を。
それも、酷い別れ方をした、あなただった」
「水樹ちゃん……」
「だから、ごめんなさい、ごめんなさい」
(なで……、なで……)
嗚咽を漏らしながら、涙を流す水樹ちゃんを抱き締めつつ。
しばらくの間、背中を優しく撫でて慰めていたのあった。
・・・
しばらく慰めて、落ち着いた頃。
「私、小さい頃は、前世の記憶なんて無かったけど。
なおくんの事が大事だと、朧気ながら覚えていた。
でも、その感覚が成長して行くに従い、次第に無くなって。
それと同時に周りから、“あんなツマンナイ奴なんか勿体無いよ”と言われ始めた。
最初は、“そんなの関係ない”と思っていたけど。
周りからの見下す話を聞いている内に、私もそれに流され始め。
そんな意識が芽生えると、次第になおくんの事が詰まらなく見え出したし。
そんなあなたと、一緒に居ると噂されるのが恥ずかしくて、とうとう別れを切り出してしまった」
「そうだったの」
まだ涙に濡れた顔で、後悔に満ちた言葉で話を続ける。
大体、予想していた事だが、概ね正解だった様だ。
「それに、なおくんの家庭の事情なんて余り良く知らなかったし。
特に中学になってからは、別の学校になってしまったから。
なおくんが、そんな状況になってたなんて、私、分からなかった」
元々から、この住宅地は新興である所為で、横の繋がりが希薄な上。
母親が消える前から、深い付き合いが有ったとは言えなかったし。
母親が消えてからは、最低限の近所付き合いしか、していなかったので。
恐らく、僕の家がどういう風になっているか、詳しくは知らないはずだ。
「でも安心して。
これからはずっと一緒に居て、なおくんに優しさと温かさを与え続けるから。
私が長くは生きられない上、人並みの恋も出来ないと絶望していた時。
なおくんが私の前に現れて、短い間だけど私に沢山の思い出を与えてくれて、とても幸せだった。
だから今度は、私がなおくんに、生きている喜びを与えてあげたいな」
まだ涙に濡れる頬のまま。
笑顔で僕に言いながら、僕の頬を撫でる水樹ちゃん。
その言葉を聞いて、僕は心の奥からの歓喜に包まれる。
自分が愛する人から、心からの愛情を受け。
親からも味わった事の無い感覚に、生きていて一番の喜びを感じた。
(ギュッ)
「う、うぅぅ……」
(トン……、トン……)
彼女からの愛に満ちた言葉を聞き、思わず水樹ちゃんを抱く腕に力を込め。
今度は、僕の方が枯れてしまっていたはずの涙が溢れたので。
逆に彼女が、僕の背中を優しく叩いてくれたのである。
・・・
僕の方が落ち着いた頃。
おもむろに、水樹ちゃんが顔を向き合わせ。
「前世の事を思い出してみて、私が“恐怖の大王の事”を言ってた時。
なおくんは、この時代の事を嘆いていたよね」
「うん、そうだったね」
「今なら分かるよ、力が有る人間が横暴を極めて、力の無い人間が割を喰い。
若ければ若いほど馬鹿を見る社会」
「うん、そう」
「そして、先が見えない未来」
「お先真っ暗な未来だね」
「でも、そんな未来でも、私はなおくんとずっと一緒に居るから安心して」
「……水樹ちゃん」
そう語り掛けた彼女を、何回目か分からない位、抱き締める。
「あ、それとなおくんに、お金貸していたよね」
「えっ!」
「確か、四十年分の利子も有るんだよね〜」
「ははは……」
イキナリ水樹ちゃんが、悪戯っぽい笑顔で、前世で貸していた金の事を言い出した。
利子の話は全く聞いてないが、それを言い出せる雰囲気でも無かった。
「色んな所にデートに行ったり、色々な服を買って貰ったり。
それから、色んな食べ物を奢って貰おうかな〜」
「……一つ、お手柔らかにお願いします」
「うふふ、何も、一度に返して欲しいとは言わないよ」
「へっ?」
「これから一生、一緒に居るんだから、少しづつ返せば良いよ♡」
「一生?」
「そう、まさか嫌なの〜?」
「とんでもない、どんでもない」
突然の発言に、僕が驚いたが。
僕の反応が不満な彼女に、必死になって否定した。
「なおくん、私の為に、あの時代に残ってくれるって、言ってたね」
「うん」
「あれ、本音を言うと、とても嬉しかったんだよ」
「そうだったんだ」
「つまり、あれは、私の為に命を捧げてくれるって事だよね。
だから、私もなおくんの為に、一生、一緒に居たいの」
「僕も、水樹ちゃんと一緒に居たい」
お互いに、聞き様によっては、プロポーズの様な言葉を交わしていたら。
(ピカッ!)
早朝の、晴れた空の一角が光り。
(ヒラヒラヒラ)
黄色い羽が舞い降りて来ると、同時に。
ーー二人とも、幸せにならんねよ〜。
何処からとも無く、声が聞こえてきた。
あの独特の訛った声、間違い無く、あの精霊の声である。
「はい、幸せになります」
「幸せになるよ」
僕たちは、光った空の方向に向かい。
それぞれ、返事を返していたのだった。
************
これからの僕たちの未来は、砂漠を宛もなく彷徨う様な未来になって行くだろう。
歩き続けても、明日が有るかどうかも分からない。
しかし、歩かなければ倒れてしまう。
これからは、そんな時代になって行くだろう。
しかし、少なくとも、二人で歩むのなら。
宛もなく彷徨う恐怖も、怖くは無い。
そう、水樹ちゃんと二人で歩むのならば。
やっと、あなたに出会えた! 終わり
今回、難産の末、何とか完結まで漕ぎ着けました。
ちなみに最終回の話は、構想自体は、作った当初から有りましたが。
一昨年に、某CMでTHE BOOMの“風になりたい”を聞いた事をキッカケに。
全曲聞いた所、共通する物を感じたので参考にしました。
(流行っていた当時は、何故かマトモに聴いた事が有りませんでしたが)
・風になりたい
https://www.utamap.com/showkasi.php?surl=55779
https://www.youtube.com/watch?v=hPFDsVT035I
この作品は普段だと、ある程度見通しが付いた状態で、投稿する所。
見切り発車で投稿したのが裏目に出て、途中で、何回もエタり掛けてしまったのですが。
そんな誘惑を何とか跳ね除け、どうにかこうにか最終回まで行く事が出来ました。
それでは、最後までご覧になった皆様へ感謝をしつつ。
この話を終了させて頂きます。




