五年後の俺達の日常
「多賀、こいつを運んでくれないか?」
廊下を歩いているとたまたま、書類を運ぼうとしている担任に頼まれた。
以前この人は、腰痛で学校を休んだ事もあったため、おそらく腰が痛くて運べないのだろう。
授業終わりに用を足そうとしたのだが、急用でもないので手伝うことにした。
「はい。どこまでですか?」
「悪いな…。職員室まで頼む」
ここは四階で職員室は二階にある。この書類は意外と重かったが、やるしかない。これで評価が上がればいいのだが、そんなうまくいくような世界ではない。
しかし、些細な悪い事でも評価が大きく下がってしまうのがこの世界の常である。
それに面倒なのは、教師の話し相手をする事だ。運んでいるとき、教師はなんらかの話題をふってくる。無視するわけにもいかないので、無理してでも答えなくてはならない。
猛勉強して入った学校なのに、そんな事で評価を下げては元も子もない。
書類を持ち上げ、教師の隣を歩いた。
「若いときは、これくらい運んでも重いだけであとはなんにもならなかったのになー…」
出た出た。若い時って、そんな昔話したって若返るわけでもないのに馬鹿らしい。
「すまないな。ここで充分だ。」
担任教師の机に書類を乗せ、
「いえいえ。」
と愛想笑いをした。
「お前は親がいなくて苦労してるはずだ。まあ、金銭的なサポートは奨学金くらいしかできんが、俺は応援してるからな。困ったら相談しろよ?」
「お気遣い感謝します」
と一礼し、職員室を出た。
昼休みになると、待ってましたとばかりにクラス内、いや校内が騒がしくなる。
購買に飯を買いに行く者、教室で友達と弁当を食べるもの、彼女と二人きりになる者など様々ある。
俺は屋上へ続く階段の所に澄川と座って飯を食べるのが日課だ。屋上は立ち入り禁止なので、屋上入り口の前にある階段に座っている。
別にここでなくてもいいのだが、俺と澄川はクラスが違っている上に、この学校では自分のクラス以外には大事な用がある時以外入ってはいけない決まりがある。
そのため、こうしてここに集まっているわけだ。
飯はいつも俺が手作り弁当で、澄川は登校する時にコンビニで買ってくる。
「あ、そういやーメロンアイスでうまそうなのあったぞ」
コンビニおにぎりを一口かじった澄川が、そう言った。
「あ、あれもう出てたのか…。帰りでも行くか…」
「俺もマンガ新しいの出たから一緒に買いに行こうぜ」
「おう。」
もう8月になった。あの時からまた更に1年、時が過ぎようとしている。
その時、ふと思い出した。花火大会だ。あの時、俺は澄川とハルで花火を見た。あの時の花火大会は今までの中でも、断トツで鮮明に覚えている。
「もうすぐ花火大会だなー」
弁当を食べ終え片付けをしていると、ふと口からその事が漏れた。
「だな。最近あんまり見てないから、久しぶりに見に行くか」
「そうするか」
今年の花火大会は、久々に澄川と見に行く事になった。思えば本当に久しぶりである。中学の一年の時に3人で見たあの日以来、もう見ていない。
時間が無いわけではない。もしかしたら、あの日の事を他の花火大会の記憶に邪魔されないようにしたかったのかもしれない。
そう、忘れないように…。
花火を見たことがそんなに感動したわけではない。俺は今でも、あの黒髪ショートの少女が言った、『あとでわかる』といった言葉が未だに気になるのだ。
きっと、澄川もそうだろう。
「なぁ澄川。お前さ、あの時の女の子が言った事、覚えてるか?」
俺は今まで聞かなかった事を、今聞いた。ただの少女の妄想なのか、それとも真実なのか。あの後一度も少女を見ていないというのも、気になってしまう1つの要因なのかもしれない。
「――ああ…。あれは一概に冗談とは言い切れないと思う。俺達はあの子がどんな子かわからない。だから、本当に何かが起こるのかもしれない。でもただの中二病なら、嘘だろうな。」
「少なくとも俺は、あいつが中二病には見えなかったけどな」
澄川は「俺もだ」と言い、携帯で時間を確認した。そろそろ昼休みが終わる。
俺達は、またいつもの日常に戻った。




