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54そこじゃないだろう



 ほどなくして、熊の頭に生えた推定剣は引っ込んだ。

 調べてはいないが、そこにはきっと穴が開いているのだろう。刃物が通った痕跡はあるのに、刃物はない。そういう状況に収まっている筈だ。


 倒れ込んだ熊は、総て生命反応を失っている様子だった。

 瞳に映り込んだ殺意は焼失し、正しく瞳の色から一変している。それが熊の死を示す大切な合図である。故に熊に理解のある戦闘者は、奴らの視界を総て塞ぐよりも脳への攻撃を優先する。視界を潰してしまっては、その合図が見られないから。

 その点、アオイは熊に疎いというか、熊の存在を最近になるまで知らなかった。視界を塞いだことが功を奏したところもあるので、一概に失策と呼べるほどでもないが、無知は自身の首を絞めることの正しい図とも言えた。


「姫優先は構わないけど、『皮剥』をほっといたら、また姫がおんなじように誘拐される危険があるってこと、忘れないでほしいね」

 皆、頭上から降ってくるのが好きなのだろうか。

 ローガ達が現れた二階席とはまた別の二階席から、その男は緩い動作で現れた。

 この場にいない、残り二人。

 その内、指揮権を譲渡された男。少し息が上がっていた。


「根幹を断つ。将を射るには馬から、なんて言うけど、将を見逃がしたら意味がないよ」

 音もなく着地し、通りで友人に出会ったかのように手を振りながら近寄る男。

「レネー殿! 御無事で御座ったですますか!」

「うん、まぁ。伊達に指揮権を貰ってないよ」

 眩い笑顔でレネーに駆け寄ったローガに、レネーは弟を可愛がる兄のような動作で彼の肩を軽く叩いた。ローガは一瞬複雑そうな表情をしたが、小さく一つ頷くと、通りすぎたレネーを追って集団の方へと戻って来る。


「とりあえず、ここから退散しようか。どうやら、大本に近いらしい。大本の方はオレらみたいな弱小じゃ相手にならない。ローガくんならどうにかできるかもだけど――」

「拙者っすか!?」

「――まぁ魂由来で無理なのと」

「無理でござるんですか」

「流して良いから――優秀なローガくんに離れられたらアウトなんで、オレたちはとっととこっから退散する。なるべく狭い廊下を通れば、キルベアたちも襲わないはず。キルベアにしては弱いのが特徴でね。中々ラッキーだよオレたち。各自対策を立てながら捜索に励む事。ハイ、解散」

 手を二回打ち鳴らし、レネーは素早く事を進めようとする。指揮官ならば、進行が大事なのだろうか。だが、先を急ごうとする彼を止めたい人間は多かった。


「レネー殿、先程の熊を倒した技は……」

「あ? あぁ……技って程じゃない。刺青の、魔術の応用。今回のは弱いから、三匹程度なら一人でちまちま片付ける気も起きるけど、あんだけ集まってたら面倒でね。次から次へと湧いて収拾がつかなかったろうし」

 事も無げに言うが、彼は武器を持ってすらいない。酷く身軽なものだ。

 と言う事は、熊の頭から生えた刃物ですら、彼の身に刻む魔法に因るものなのだろう。

 この場で、魔法を扱えるのはデリク、ローガのみだ。デルボは簡単な魔石を幾つか持ってはいるが、刺青と魔石では精度も威力も桁違いだし、彼の素質も魔法向きではない。だが、それにしても。その内の誰も、敵の頭に行き成り刃物を生やす魔法など、存じてはいない。


「……一体、どんな複雑怪奇な式を組んだ魔法でござるか……」

「安かったよ? 施術も数分で終わったし」

「あの高等魔法がか!?」

 ローガが呟き、その質問の回答にデリクが驚愕する。

 デリクの見立てでは最低二日、肌を大きく使っての大施術となるはずなのだが。


 刺青の真髄を知る二人が、若いお父さんと孫のようにすら見える二人が、何がどうなっているのかと話し込む。ローガは《刺青師》でこそないが、魔術に対する知識は深い。ここに来て、二人の間に謎の友情が芽生えた。どちらかと言えば、研究者の性、だろうか。

「刃の生成が、本物ではなく魔力に影響を受けた唯の魔力体っていう説で……」

「その場合、魔力反応で淡く発光が有る筈……」

「熊の血っぽいもので汚れていたでござるからして、それが隠されて……」

「だが、同時に何カ所にも生成するには些か……」

「その辺は、使い手の手腕では……」

「ハイハイハイハイ。そういうのは後でやって。あーとーでー」

 また熊が来るかもしれない、とレネーが告げる。

 レネーが倒した熊の死骸たちは転がったままだが、新たな奴らが来ないとは限らない。寧ろ、先程の湧き方を思うと、今湧いてこないことのほうが不思議なくらいだ。


「敵側の熊のストックが切れた可能性は」

 バートルミーが聞く。デルボがうんうんと頷き、ジルエットはそっぽを向いた。

 レネーは瞳に映る感情を一切も動かさず、事実だけを淡々と述べた。

「ないね。皆無で絶無。あの熊はね、案外単純な構造でぼこぼこ生まれてくるんだよ。細胞分裂みたいにね。……まぁ、手順はあるんだけど。とにかく、いなくなったという楽観はせず、まだまだいると思って気を引き締めなね。オレはもう行く。あんたらも、熊より姫の心配をしなよ」

 言いながら、レネーは皆に背を向け、手をひらひらと振りながら本当に歩きだしてしまった。扉も、熊が開けた穴もない場へと歩むレネー。皆が疑問に、アオイが馬鹿なのかと思いながら視線を送っていると、彼は適当な座席の背に足をかけ、足の力だけで二階席の手すりへと手を届かせてしまった。否、魔法の力は働いているのかもしれない。アオイに判断のしようはないのだが。

 そのまま肩腕だけで自身の身体を持ち上げ、来たところとは違う二階席の奥へと歩んで行く。

 彼の姿が見えなくなってから、やっと集まった六人は進むことを決めた。


 なるべく早く、とレネーが急かしていたのは、恐らくこれも要因なのだろう。

「…………ぐざい」

「でずね」

「ござ……」

 鼻を抓んだり、息を止めたり。

 文句を言いながら、どの道を行くかを決める。一階は熊に会う可能性が格段に上がるかもしれない、という予想から、避けては通れぬ道としても、逃げることに易い一階は後回しとなった。予想の根底は、熊の到来がほぼ一階のホール出入り口や、熊が突き破った一階の壁からだったことに由来する。

 二階でも襲われたという報告もデルボから受けたが、ホールの事態を思えばマシな方だろうと推測された。

 そんな会話を続けていたところで、アオイが先程の口火を切った。


 何の臭いか、という疑問は、彼らの内にはない。

 解りきっていることだった。周囲にあるのは熊の死骸。しかも、ただの熊ではない。その名もキルベア。どこをとっても使えない、骨折り損の草臥れ儲け。腐臭の強いその肉は、決して食えたものではない、という話は案外有名なのだが。

 死して数分。それだけで、このような刺激臭を発するものなのか。

 アオイは鼻を抓み、眉間にがっつりと皺を刻んだ。

 皆も似たような表情で、立ち込める腐臭に耐える。

「もう面倒でずがら、でぎどーに、ぐぞ野郎のりょうわぎのにがいぜぎをわだりまじょう」

 言葉が濁りに濁った音を立てるが、全員気にしない。アオイが男だらけのこの場で建設的な意見を述べたのだ。そのくらい、その臭気がただ事ではないのだと語る。


 両脇の左右に関してはバートルミーが右側を指差した事で決定した。デルボも頷いたことだし、何も問題はないだろう。ローガがジルエットの肩を叩くと、ぐらりとジルエットの身体が揺れ、倒れる寸前で足を踏ん張った。どうやら、立ったまま気絶していたらしい。そのままローガに背を押され、ローガは言葉を紡がないまま涙目でジルエットを促す。

 決まったのを良いことに、バートルミーは呼びかけもなく二人を手招いた。心なしか眉間の皺は深まり、いつもの引き締まった表情ながらも苦みが窺える。

 アオイもデリクも、こんな場所はたくさんだった。小走りに彼に駆け寄り、周囲の瞳の黒くなった熊の様子を窺いつつ、歩むべき二階席の下へと足を運んだところで、


「…………えっ…………」


 浮遊感。

「アオイ!?」

「は?」

 バートルミーの焦った呼び声と、デリクの全く気付いていないらしい間抜けた声を聞きながら、アオイは突如失われたホールの床のおかげで、暗い底の見えない穴へと、飲み込まれていった。


 後に、気付くこととなる。

 確かに、そのホールは一階にあったはずだ、と。



   □■□



「さて……あとはあちらの魔法をどうにかするだけなんだが……」

 長い廊下を駆け廻り、恐らく随分と離れた場所に至った所で、ケイネは一度オリヴィエを床へと降ろした。薬の作用が未だ抜けきっていないのか、オリヴィエは傾ぎ、ケイネはそれを受け止める。立たせるのも歩かせるのも難しそうであることを悟り、壁に背を預けさせ、「座ってろ」と労わりも何もない口調で述べた。

 オリヴィエは蟠ったような息を長く吐き出し、その間ケイネは、長く長く伸びる石造りの廊下を見やる。


 やって来た方向も、これから行くであろう方向も、只管暗く、燭台も配備されていない。けれども自身が居る場所から半径一メートル程は視界が確保されている。そういう魔法が掛っているのだろう。

 ――否。

(……敵の魔法の発動に応じて場を閉じる結界――ドドギラの『ギーラ』、か)

 ケイネは頭を掻いた。長い廊下は、ケイネがあの全員集合部屋へ至った時にはこれほど長いものではなかった。

 魔法の発動に応じて場を閉じる結界――言葉通り、である。

 ケイネが張った魔法結界は、犯人三人を閉じ込めるために作ったものではなく、ケイネとオリヴィエを内に守るものだった。単純に、核となるオリヴィエの《刺青》が結界の内にあるほうが安定がいいからだ。未だ封印の《刺青》も作動しているため、ケイネの力で無理矢理発動させた結界は調整が難しい。寝起きの《刺青》を叩き起こして夢うつつのまま働かせている状態なのだ。無茶はできない状況だったが、ケイネの腕もなまってはいない。相手方を閉じ込めておく方が良かったと、ケイネは冷めた瞳で暗闇をにらんだ。距離が離れれば調節は難しくなるが、魔力を置いて己と切り離してしまえば対抗策もあっただろう。


 長い廊下は、魔法結界に因る効果。犯人に対する結界であれば、きっとこれは意味をなさなかった。

 解決法は単純で、発動されたこちらの結界魔法を解けば、周囲の結界も解けるのだが、それでは敵側の攻撃を警戒しなくてはならなくなる。

「……面倒極まりない。俺は安全圏で物を言うのが好きなのに」

 失策か、とケイネは溜息を吐きながら、ならばとオリヴィエの隣に腰を下ろした。

 結界を解く必要があるのならば、走り回って魔法を行使して失った体力を回復することも大切である。


 オリヴィエの隣で、ケイネも大きく息を吐きだす。

 ずっと張っていた神経を少しだけ緩め、魔法維持以外の緊張を解いた。

 自然と手が腰のポケットへと伸び、煙草を取り出す。火を点け、立ち上る白く細い煙を見ると、総てが大丈夫であるとすら思えるほどだ。精神を落ち着かせる系の強い薬物でも使われているのでは、と何度か疑ったこともある。結局のところ、知らぬ内に溜まった穢れが祓われるために起こる効果らしい。神族にとって、穢れは天敵なのだ。

「…………穢れてる」

「……えっわ、わたくし、何もされておりませんよ!?」

 服は剥がれましたが、と言いながら、オリヴィエは涙目になりながら盛大に狼狽える。きょろきょろと挙動不審に周囲を見回し、外套を胸元へと描き集め、身体を縮めた。

 そんな様子に、ケイネは違うと手を振って示す。


「場の話だ。……お前らが村に来た時、丁度浄化作業しただろ。あれが必要な程度には、この場は穢れている。――いや、どんどん、穢れて行っている」

 時間が立つごとに、じわじわと空気が浸食されていく。ケイネの創った結界も空気までは阻害しない。否、空気という物質の観点では阻害することも可能だが、概念には魔法は機能しない。穢れを祓えるのは、神に祈りを捧げる呪いだけだ。

 魔法では神の法に及ばない。どちらが優れているか、ではなく、世界やら舞台だのの違いなのだ。

 ポケットを見つけておいて良かった。ケイネは切実にそう思った。

 煙草がなかったら、ケイネの行動力は半分以下にまで落ち込んでしまったことだろう。


「あの……ケイネさ、ん……」

「うん? ……あぁ、上着使うか? 上着着て、外套を腰に巻けば、ある程度不自由なくなるだろう」

「えっいえ、そうではないのです……!」

 オリヴィエは腕を振るが、その動作すらも心許ない。

 ケイネは自身の上着を脱ぎ、オリヴィエへと渡す。過去アオイが穴を開け、それを縫って直し長年連れ添った上着である。半袖だが、そこには目を瞑ってもらう。

 無言で立ち上がり、数歩オリヴィエから離れると、肩と頭を壁に預けてオリヴィエから視線を外す。

「着替えたら言え。王女にさせて良い格好じゃあないが、今よりはマシだろう」

「は……はい、有難うございます」

「それで? 本来のお前の話は?」

「は、はい! そうでした……」


 衣擦れの音と、裸足が石を踏む音が響く。焦っているらしく、動作音が慌ただしい。

「え、えぇと……色々と、お聞きしたいことはあるのですが……」

「時間はある。ゆっくりで良い」

「はい……」

 ケイネが煙を吐き出すと、浄化作用で空気が幾分マシになる。結界を解いた後の苦労を考えながら、ケイネはオリヴィエの声に耳を傾けた。


「では……最初に。逃げ出してきた部屋で、ケイネさんが最後に行っていた事は、なんなのでしょうか……」

「最後……」

 鈍る頭でケイネは反芻する。己は一体何をしたのだろう。

 魔法を展開し、オリヴィエに外套をやり、そのまま担ぎ、簡単な呪術を一つ――

「あぁ、あれか」

 思い当たり、ケイネは小さく納得の声を発する。確かに、なにも知らないオリヴィエからしてみれば、あれは異様だったのだろう。


「あれは…………」

 意味はあるが、深い意味はなかった。簡潔に述べるのであれば足止めの一種である。推定『皮剥』があの呪術を気にするかは疑問だが、三人中一人を無力化する、という行為は今後を優位に進められると信じたい限りだ。

「……まぁ、あまり意味はない。気が向いただけだ」

「? ……はぁ。承知いたしました」

 もしかしたら、死んでいるかもしれないな。

 言わないが、心の内でそう思う。もしそうなってしまえば、己は一度神のもとへ赴き、懺悔をする必要がある。それと、弔い。

 ケイネが言葉を濁せば、オリヴィエはそれ以上のことを聞かない。ケイネにどんな意図があるにせよ、オリヴィエはそれを汲むのだろう。献身と呼ぶべきか、どうやらオリヴィエは、ケイネの意志を大切にしたいと考えているらしい。バリーと気が合うのも、変なところで似ているからなのだろうか、とケイネは取り留めのないことを考えた。


 終わりました、と小さくオリヴィエがケイネを呼ぶ。

 振り返った先では、隠しきれない首元と一部二の腕の刺青を晒し、端を結んだ外套のスリットを押さえながら、必死に足元を隠そうと尽力するオリヴィエがいた。先ほどまで裸だったことを思えば幾分マシなはずなのに、オリヴィエは先ほど以上に顔を真っ赤にしている。

 ケイネは右手でポケットを漁り、ゆっくりとオリヴィエへと近づいた。オリヴィエは半歩下がりつつも、俯いてケイネを迎える。

「手」

「はい?」

 ポケットから出した拳をオリヴィエの目の前へと掲げると、短い言葉に理解を示したらしい彼女が手の平を上にして、ケイネの拳の少し下へと掲げた。

 ケイネが拳を開く。

 数個、金属がオリヴィエの手の内に落ち、オリヴィエはぱちぱちと瞬きを繰り返した。


「安全ピン。留めとけ。少しはマシになるだろう」

「……はい。有難うございます」

 既視感を覚えたが、ケイネは言わないことにした。

 もう一度振り返ってオリヴィエの動作を待ち、終了の声に再度彼女と視線を合わせた。


 煙草の香りが薄くなる。端まで薬草を燃やしつくしたことを知り、銜えたままだったそれをケイネは右手に持ち替え燃やしつくした。

「ケイネさん……助けは、来ているのでしょうか」

 オリヴィエの手が、ケイネの袖を引く。

 顔を伏せ、似たような身長のケイネに見えるのは、彼女のつむじと後頭部。表情を隠すという目的は達成されているのだろうが、雰囲気は消せない。状況も変わらない。無意味な行為だ。


 危惧しているのは、助けが来ることよりも、誰かが助けに来たことに因って、誰かが傷つくことなのだろう。

 それは犯人か、助けに来た存在か。オリヴィエにとっては、自身が傷つくよりも辛いのだろう。オリヴィエがそういう人間であることを、ケイネは知っている。


 オリヴィエの後頭部に、ケイネは自身の右手を置く。そして、小さく二度叩く。

「バリーがこちらに連れて来られた様子はない。あいつが助けに来ないわけもないから、城で引き留められている可能性がなければ、一人でもこっちに来てるだろう」

「……でも、ここが何処かなんて、わたくしたちにも解らないのでは……」

「その辺、バリーは野生だから。臭いでも何でも辿って来るだろう」

「臭い……」


 テキトーに聞こえる適当な返答に、オリヴィエは一瞬呆け、次の瞬間にはぱっと笑顔を光らせた。

「確か、騎士団の中にも、お一人五感の優れた方がいらっしゃるらしいのです! お爺様の側近の、デュークの弟君が、そうなのだと」

「デュークの弟!? フィルゼの倅か! 側近つってもあいつは……確か文官だろう。側近というか……秘書寄りの」

 ケイネは素っ頓狂な声を上げる。反芻するのは名の上がったデュークのことだ。

 彼がアレクシス王の側近となったのは、刺青のごたごたも、オリヴィエの祖母であるリヴィエルの死も後のことだ。シルヴィア姫が死んだ年にはもういたが、いつから彼がそこで働いていたかをケイネは知らない。だが、一つ確実に言えるのは、彼は決して武芸が達者な人間ではなかった、ということ。


 オリヴィエはケイネを見る。小さく首を傾げ、子供の様に無邪気で純粋な疑問をぶつけて来る。

「お知り合いなのですか?」

「お知り合いではない」

 簡潔に返し、そこで思考と会話を断ち切る。今重要なのはそこではない。

「兎に角言えることは、最低限バリーは来てるってことだ」

 ケイネにくっついてきた理由は不明だが、ケイネの目的をある程度理解して――直感してついてきたのだ。目的はオリヴィエである。その目的とケイネが一緒に消えたとあれば、彼が追わない筈がない。

「ですが……」

 歯切れ悪く、オリヴィエが視線を外す。

「……バリー様は…………その、大丈夫なんでしょうか………………色々と……」

「…………そろそろ動くか」

「えっけ……ケイネ様!?」

「さん」

 ケイネは解答を保留し、現状の改善に勤しんだ。








次回の更新は、再来週の土曜日を予定しております。

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