027◇隣人◇新しい家族
設定上視点が判りにくいかも知れません。漸く聖野一族とその特殊な同族の一部設定を書けました。兄は痴漢道で出てきた御近所さんです。
少しでもお楽しみ戴けたら倖いです。
20130415
☆☆☆
傾いた陽射しが、ギラギラ照り付ける。しかし陽射しよりも尚眩しい、新しい家族が微笑んで私を出迎えた。これで男かと思わず尻込みすると云うか、隣に立ちたくないと云うか、しかし妹なら嫉妬で焼け焦げる羽目にもなるまいから救いがあるかとか、つい色々考えちゃったお兄さま。
これでオッサンかと思わずオッサンの定義を問いたくなるのは、お兄さまと同じ顔をした美貌のお父さま。いや父親ってオッサンだよね?私、間違ってないよね?でも、コレをオッサン呼ばわり出来るか自分?と悩む事頻り。無理がある。
黒髪ツヤツヤ、肌荒れとは無縁の肌目の細かさには嫉妬の炎さえ燃え出しそうなオッサンなんか、オッサンじゃないよ。つうか、何かお肌ケアしてるのかな?だったら教えて下さい。私も毛穴ふさぎたい。
そして、我が母。
唯一目新しくもない旧家族でございます。
あ、眩しくないのが目に優しいね。潤いも素っ気も無いけど。眩しくて目が潰れそうでも、新しい家族のほうが目の保養だけど。潰れたら保養にはならないだろうけど。
と云うか。
「初めまして。お父さん。お兄さん。ええと……お姉さんは?」
おいおい。
協調性が無いな。新家族の初対面ブッチかよ……どんだけ。いや、こんだけ美貌のお父さんだとファザコンかも。お父さんを他の女なんかには渡さないわ!お母さまなんて呼ばないから!妹?あんたなんて飯使いよ!とか云うて飯を作らされるのかも。アレ?召し使いだったか?召し使いの召しってなんじゃろ?「尊敬語だ。」ああそう。まあ良いか。
頭に響いた声は聴こえなかった事にして、取り敢えず巫山戯た思考を押し留めた。
新しいお姉たまはお仕事か何かかね?
そんな私の脳内はしかし表には全然出ないよ。普通にちょっと不思議そうな顔をしてるよ。基本人当たりの良い平凡です。
いや…昨日までは人当たりの良い美少女とか思ってたが…………ぶっちゃけ、美女だと思ってた母親がこの美貌親子の隣に立つと、くすむことくすむこと。コレ汚れ?ゴミ?ってレベルで引き立て役にすらなりやしないさ。そりゃ、本当の美少女ってコレかあ……な、学校でも美少女で有名な子たちとか見るとさ、私は美少女違うとか思ってはいたが。アレらは規格外だし、別に隣に立つ訳でも無いから比べる必要は無かったんだよ。
しかし、彼女たちが並んで漸く同レベルか?と思える程度の眩しい生き物が、今後私の家族なんだよね。そりゃ、改めるさ。比べるさ。アイアムヘイボン。
などと忙しなく考えてるけど、そんなのも当然顔には出ないよ?
「ああ、あの子は寝坊で。」
「姉さんは低血圧なんです。」
「………。」
寝坊って、普通は精々お昼までだと思うなワタシ。今、夕方。まあ良いけど。
おネエたまは随分と強烈な低血圧なんでつね。
そして、私たちは新しい家族マイナスお姉たまにて、新居に入ったのでございます。
割り当てられた自室には、段ボールが積んである。ちょっとウンザリ。あんなに浮き世離れした美貌だけど、一般人だから特に召し使いとかは居ない。適当に荷物をバラシつつ、片付けると云うか広げてると云うか、「頼むから仕事を増やすなよ。」案の定文句を云われた。
いやん。脳内友達オツ。しかしコレ現実。ワタシにはマジもんで脳内友達が居るのです。誰にも云えないね。恥ずかしいね。「お前の思考を知られたほうが余程恥ずかしいだろ。」おお、それは云えるね。バラさないでね?「どうやって……寧ろコチラの恥だ。」
脳内友達は脳内友達なだけに、母親ですら知らない私の秘密を知るのです。
人当たりの良い、いつもホンワカ笑ってる美少女改めヘイボンなワタクシ。しかし中身は超残念?大丈夫。誰も知らないよ!
だがしかし。もっと残念な事に脳内友達が居たね。そして脳内友達には筒抜けだね。と、そんな感じ。どんな感じだって云われても、そんな感じなのさ。
疲れた気配が脳内でしているが、まあ気にしない。私は常にマシンガントーク。誰に聞かせるつもりでも無い。もちろん、脳内友達に話し掛けている訳でも無いのさ。脳内友達は慣れっこであるからして、まあ、慣れっこでもウンザリしない訳では無いって事だねワカルよ!「なら慎め。」もちろん慎んだりなんかしない訳さ。
しかしアレだね?やっぱり先に片付けるかね?交代するかね?一応問い掛けつつもササッと「こ〜お〜たあい♪イエイ♪」
全く。と思いつつ、入れ代わった私は髪を掻き上げた。伸びかけの髪が作業するには邪魔だった。「何だかんだでお片付けしちゃうんだね、マジメだね。流石私の自慢の脳内友達だよ!」
私は立ち上がると段ボールを眺める。小物、と書かれたそれを引き抜き開封すると、バレッタを取り出して髪を軽くアップにした。
相方では無いが、確かに面倒だ。片付けの為に……等と云っていたが、どうやら疲れていたらしい。機関銃染みた、もはや狂気に囚われたかの如く話し続ける声が途切れた。内側に意識を向ければ、うつらうつらと、舟を漕ぐ様子に寧ろ安堵した。
内に在る時は、それでも耳を塞いで意識を飛ばす事も可能だが、表に出ている時は肉体に縛られ、意識もハッキリしている為、四六時中続く相方の「声」に気が狂いそうになる事がある。
生まれた時からの付き合いだが………コイツはもう少し沈黙を覚えても良いと思う。
私たちは交代で表に出る。ある程度の役割分担はあるが、大雑把に云うなら私は夜メイン。昼間はコイツメインだ。
学校は半々。テストは狡い話だが、私が担当している。互いに苦手なモノは避け、相手に押し付けるし、欲しいモノは話し合いにて解決する。基本は早い者勝ちだった。
とは云え、私たちの欲しいモノが重なる事もそうは無い。
互いの時間に起きている事も有れば、寝ている時もある。互いの言動をジッと内側から眺めている時も有れば、そっと視線を背ける事もある。
ただ、私たちの嗜好が、生き方がどんなに違っても、互いの邪魔だけはした事が無かった。
脳内家族だの脳内友達だのコイツは云うが、実際の所は寄生生物と宿主の関係だった。いつ頃からかは知らないが、相方の血筋に宿った寄生生物が私たちなのである。
私はコイツの体が誕生する前に、コイツの母親の寄生生物から分化した。ある意味でコイツの母親は私の母親でもある。正確に云うならば私の母親乃至父親の寄生先がコイツの母親だ。私たちには性別は無い。しかし、宿主の性別に引き摺られ無いでは無いから、まあコイツが女だから私も女なのかも知れなかった。
何にせよ、普通の人間から見れば、化け物と呼ばれるのが私たちなのだが、コイツの血筋でそんな事を云って私たちを忌避した人間は居なかった。割と、他の血筋も試したりした事はあるのだが、何故か共生が上手くいく事は無かった。大概が宿主との熾烈な生存競争が勃発する。
私たちは単にして唯一無二の存在で、一応ワタシと云う個が存在するのは確かだが、ワタシはコイツの母親に寄生するワタシでもある。ワタシはワタシの母親乃至父親であり、娘乃至息子でもあるのだ。
私たちは分化して増殖する。新しい肉体を求める。共生が成らず宿主を失って、その肉体を得たワタシも数多く存在するし、反対に滅ぼされた事もある。
私たちは、唯一無二の全でありつつ、しかし単なる個を優先する事もある。
それは、中々スペクタクルな感覚だった。ワタシとして、その感覚を追った事はあるが、私自身がそんな風に「自分」を「個」の意識を、全てのワタシたちより優先した事は無かった。
あの有り得ないワタシは、その感覚を「恋」と呼んだが、それをする機会は来ないまま新しい命に生まれる方が早い気がする。
私たちの種族は、しかし「個」を知らないままでは無い。寧ろ始祖は「個」である。私たちの全て。全であるとともに決してワタシでは無い。あの方はあの方でしか無い。そして、あの方を取り巻く一族も、また其々の「個」の精神を持っている。
彼等は、寄生さえしていない。彼等の子も、またワタシでは無い。彼等は其々の精神を持ち、しかし中でも強い強い「個」は、私たちを知らぬ訳でも無かった。
私たちは同じだけど違う。同族だけど違う。私たちは其々がワタシなのに、彼等はワタシでは無いのだ。
時に、ワタシの中から彼等に成る事もある。変態を遂げ、変質して、ワタシでは無くなった元ワタシ。「個」と成った元ワタシだった存在は、彼等となるのだ。
そんな、既に違う彼等も、やはり同族なのだ。
彼等は人間に寄生せず、彼等だけが暮らす郷に住む。聖野一族と呼ばれる彼等は、人間の世界の支配者でもある。
人間に擬態しても、彼等は決して人間では無かった。
ワタシから彼等に成るモノは、元は人間の肉体に寄生していた訳だが、その人間の部分を抹殺して肉体もまた変容しているから、やはり人間では有り得ない。
ワタシだった頃も、既に人間とは云えないのかも知れないが、宿主が存在する限りは、人間の部分が少なからず含まれる。少なくとも私は、入れ代わっても少しは人間の肉体だし、宿主が表に出ている時は、かなりの部分が人間だった。
逆を云えば、完璧に人間のままではいられない……とも云えるけれど。
聖野一族の長は、私たちの始祖でもある。ワタシの始まりは、始祖より分化して一人の人間に寄生した事から生まれている。その子に、そしてその近くに存在する人間に。ワタシは移動したり、分化して増殖したりして、生きてきた。
ワタシの命と精神の母体は、始祖たるあの方により始まり、あの方の意志を総てとしている。
故に、私たちは聖野一族の命に従う事もあるけれど、だからと云って、決してあの方以外の聖野一族に従属する訳では無いのだ。私たちの総ては聖野一族では無く、聖野一族の長………それも真なる長だけだった。
あの方は、ずっと存在する訳では無い。その生を終えては、また暫くして生まれる。始祖たる長。真なる長が生まれれば、ワタシは直ぐにワカルが、何故か彼等はそうでも無かった。長は彼等一族の中でも、特殊な程に永い間幼い姿のまま過ごすが、それを見て初めて真なる長だと気付く一族も在る程だ。
聖野一族は、個を持つ集団で、その強者は確かにワタシより長に近い位置に存在する。しかし、聖野一族の全てが、そうとは限らない。
個である事は、必ずしもチカラの強さを顕す訳では無かった。寧ろ、私たちの方が、余程、長のチカラを受け継いでいるし、長のココロを知る。
何故なら、ワタシは長の分化した精神だからだ。唯一無二の全なる………長のコピー。
私たちは長を慕う子供にして、長のチカラを分け与えられた分身体なのだ。
ウィルス。と、長は云う。自分が撒いたウィルスがワタシなのだと。
この場合の自分は長の事で、長は、それを若気の至りと云っていた。
私は部屋を片付けると、そっと窓を開いた。窓の外は、漸く沈みかけた陽の赤に淡く染まっていた。ゆっくりと乗り出し、私は肉体を二つに分けて、窓の外に足を踏み出す。そして私は、室内に残る。
残った肉体にも、出掛けた肉体にも、内側には宿主が眠っている。
これは、非常に珍しい現象だった。私が分化しても、人間は普通片方に残る筈なのだ。一緒に分化する宿主の精神など、ワタシは初めて知った。
この人間は本当に人間なのかと、いつも思う。しかし、色々と人間離れしているが、ちゃんと人間なのである。人間とは謎が尽きない生き物だ。この永い永い時を生きるワタシでさえ、驚く現象を生み出すのだから。
一階では宿主の母親が食事の支度をしていた。彼女に寄生するワタシは分離して、既に外に抜け出すしていた。ワタシの姿は街の中にチラホラと垣間見える。私たちは、特に声を掛け合う事も無く擦れ違うが、互いに気付かない訳も無かった。
それは、聖野一族ですら、私たちにとっては同様だった。
聖野一族の若い個体は、時として驚く程に鈍い。同族を見て気付かないなどと、ワタシには有り得ない事態だが、これが結構な確率で気付かない。
現に、今日。
宿主の新しい家族は気付かなかった。兄は確実に気付かず、宿主の視線が逸れた隙に、値踏みするような気配を漂わせた。
明らかに、獲物と定めた気配に私は宿主の内側で笑いそうになった。母親に宿るワタシに拠れば、何と父になったモノも、ワタシに気付かなかったと云う。
何と云う鈍さであろうか。
彼等は……ワタシを捕食出来ないと云うのに。そして、ワタシは彼等を捕食する事が出来ると云うのに。
ワタシで無くなった元ワタシでさえ、殆どの場合は捕食対象となる。基本、同族の血は、非常に甘い。長を始めとした一部の強者以外の聖野一族は、ワタシの大好物だった。
始祖が統べる一族だから、一応は遠慮しているだけで、向こうから手を出して来る分には構わないと思う。
久しぶりに、あの甘い血を味わえるのかと思うと、少し気分が高揚した。
新しい家族は、ニコヤカに初めての団欒を過ごしていた。完璧な分化では無く、一時的な……分身程度の私や母に、新しい家族は気付きもしない様子だった。
本当に、鈍い。
昔日の用心深さも、緊張感も、現代の聖野一族には求める事すら出来ないのだろうか?平和ボケとでも云うのか、彼等は狩られる恐怖を忘れて、日々鈍化しているのかも知れない。
これで、私たちを下位に見ようなどと、笑える。
元ワタシも、そこまで彼等に肩入れはしないのか、私たちの正確な情報は、未だに郷の上層部でしか知られていない。そして、それは……長と、元ワタシが殆どなのだ。
家に迎え入れた母娘が、ワタシであることも、ワタシが結局はどんな存在かも、彼等は知らない。私たち母と娘が………自分たちのチカラを凌ぐ事すら、新しい家族は知らないし、気付こうともしないのである。
少しくらいなら、痛い目にあっても良いだろう。
因みに、人間がワタシや聖野一族に付けた名称は、吸血鬼と云う。
確かに血が甘いとは云ったが、実際に採取するのは血より生命力みたいなモノだけどな。いやまあ、血も戴くけど………鬼は如何なモノだろう?
私たちを、そう呼び乍ら狩ろうとした曾ての人間たちの方が、余程ソレらしかったけれどね。
☆☆☆




