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020◇地域:異界の姫◇親友二人と幼なじみ

異界の姫はホラー色はずっと出ないかもです。

☆☆☆


 例えば。

 親友と呼べる存在が居るならば、それは彼女たちになるのだろう。

 自身の認識だけでは無い。周囲も、いつの間にか三人をセットで語る様になっていた。

 女の子特有の、何かにつけて連れ立って行動する様な事は無い。当たり前だがトイレに一緒に行くなんてしないし。移動教室も、下手をしたら昼食も。特に約束もせず、気が向けば共に取るし、そうで無ければ他の者と一緒になったり、敢えて一人を選択する事もある。

 それを互いに何とも思わない。女の子同士の友人として、仲良しグループなどと表現する間柄では無い。しかし、確かに特別な存在。

 助けを求めて手を伸ばされたなら、迷う事なく手を曳いて力を貸す。しかし自分が助けを求めたりはしない。互いがそんな風だから、助け合いさえ滅多にない。

 三人の価値観は似て非なるモノでは有るが、付き合う上でカチリと嵌まる互いの立ち位置。大切な存在なのだと、わざわざ言葉にしたりもしない。寧ろ素っ気ないやり取りしか無い。


 三人共に、お互い以外の幼なじみが居て、そちらの付き合いの方が余程、仲の良い女の子同士の付き合い方に似ている。

 それでも、親友と呼ぶならば。

 この二人なのだろう。

 私たち三人は、多分親友と云うモノなんだろう。

 互いが互いに。

 相手がどう思っていようが、どうでも良い。自分はそう思うのだから……と。そんな風に考えている辺りが、似た者同士……と云えるのかも知れなかった。



 甘さの欠片も無い関係だな。ツンデレどころかツンツン……いや、ツンドラ…ヒエヒエ?

 救いを求めて手を伸ばしたなら、必ず助けてくれるだろう。手を伸ばしてくれたなら、必ず助けると約束するのに。


 私たちは決して助けなんか求めはしない。

 一人、自力で立つのを邪魔しない。

 つまり。


 求められないなら助けない。求めも無しに手を差し伸べるなど、互いに失礼な事だと認識しているからだ。だって、彼女たちは自力で充分やり遂げる。私も、一人で大丈夫だから放置して欲しい。精々が、見守ってくれると云うなら、まあ多少の感謝とかしないでは無い。


 下手したら、非常に殺伐とした関係にも見えるとおもうのだが。


 気のせいだろうか?


☆☆☆


 中等部に在籍していた頃、私は菖蒲に嫉妬した。一人だけ涼しげな彼女の姿に苛立ちを覚えた。

 助けを求めようとしなかった理由には成らないが、助けを求めたく無いと感じた理由の一端ではあるだろう。

 自尊心。虚栄心。肥大した自我。

 自らを弱者と認識し、隣に立つ筈の少女が……随分と遠く感じて悔しかった。


 一年の時。

 私は思ったものだ。

 彼女も苦労してるのかも知れない。

 私は『えっちゃん』の姿を見るが、それ以外の『影』たちを視界に映す事は無かった。正確には、ハッキリと認識は出来ない迄も、多少感じる様になった『存在』がある。

 ふとした拍子に、彼女の仕草や視線。そんなものから導き出された答えがある。

 彼女は。

 強者の立場にある他の皆が視ないモノも視るのだと。


 私たちは『仲間』にはなり得ない。同じく『強者』の立場にあるかに思えても、種族以前の壁がある。

 それは。

 中等部の頃に。

 私が羨んだ菖蒲や三ツ木、湊川たち『強者』皆に云える事なのだろう。

 その時々に立場は変わる。相手に拠っても変わる。そんなのは、考える迄もなく当然の事ではあった。


 何故気付かなかったのか。それは嫉妬故、そして羨望と卑屈さ故にだろう。

 憧憬などと美しい言葉では飾れない。事実から目隠しをする程に目を眩ませた。

 現実を見据える強ささえ失った愚かな自分を、過去に見出だした。



 それを思えば。自らを強者でございなど云えたものでは無い。えっちゃんを排斥……もとい排除…じゃなく………えっちゃんから逃げる術を覚えても、それが出来ない紗英を下風に見る事など、とてもではないが出来なかった。

 彼女は毅然と立っていた。

 彼女に向かう『えっちゃん』を『偶然』踏みつける事は、菖蒲も私も無いとは云わない。

 けれど、彼女に余計な事は云わない。あからさまに助けようなんて、失礼な真似はしない。

 私はチカラを得るまで、何も見えない愚者だったが、紗英は違う。彼女の凄烈なまで気概は、弱者だなどと決して思えなかった。寧ろ、私なんかより、余程『毅い』と思った。


 二年生になって。

 私は思う。


 何故。

 彼女はアレを退けないのか?と。


 もちろん、口に出して訊いたなら、いっそ殺して欲しいくらいの酷い目に遭うだろう。紗英はその辺り非常にエゲツナイ。故に口にはしない。でも思う。

 だって。

 彼女は……そのチカラがある筈だった。



――気合いかな?


 そうは思うが、それは尚更口には出来ない言葉だとも思う。


「あなたはヤツを退けるチカラがある。足りないのは気合いよ!」


 そんな事を。

 もしも中等部時代に云われたなら、云った人間には必ずや後悔させてやっただろう。殺しても飽き足りないくらいの殺意と怒りを覚えただろう事は、想像に難くない。


――でも気合いだと思う。


 思うが。

 自分は可愛いし、多分、通じない事も理解するので。

 云わない。


 中等部時代の自分に通じる説明は何だろう?それが解れば、彼女に伝える事も可能な筈だった。


――どうやって伝えるかに迷いそうだけどな。


 幼なじみ相手なら考える必要も無いが、助力を試みるのを躊躇する相手が親友二人である。とはいっても、本当に有効な『手』があるなら、決して迷ったりはしないのも確かなのだが。

 自身が苦しんだ場所に、彼女が立っている。自身が抜けた扉を、彼女は未だ見付けてない。

 助けたいと思うのは、自然な事だろう。



「どうしたの?」

「ん?ん〜。」


 何の役にも立たない自分に、苦く自嘲の笑みを浮かべれば、見咎めて声を掛けて来たのはもう一人の親友だった。


「結衣がねえ。」


 咄嗟に幼なじみの名を告げた。

 誤魔化すつもりなど無かったのだが、菖蒲が『彼女』ならば……相談する意味も無い。『彼女』は『えっちゃん』の主だから、菖蒲はあの影を脅威に感じた事さえも無いだろう。

 そして、まだ『彼女』では無いからには、命じる術も持たない筈だ。いや、喩え、既にそのチカラを持つとしても。『彼女』に成る前の菖蒲に………ソレを云う訳にもいかない。

 私の事を、語る事が出来ない。


「ああ、あの莫迦っぷる。」

「……うん。まあバカップルだけど。」


 何故だろう?軽い言葉なのに、菖蒲が云うと辛辣度が違うんですけど。まあ確かにバカップルにしか見えないよね。喧嘩ップルとも云うか。

 しかもお互いに片想いだとか思って、友達巻き込んでる迷惑カプでもあるからね。

 お陰様で湊川や三ツ木と話す機会が増えてウザイよ。

 結衣夏の片想いだと思ってる相手が、湊川の遠戚で生徒会役員だから副会長の三ツ木とも親しいんだよね。しかも私の恋人は会長でソイツの幼なじみ兼親友と云う。何だか面倒を呼び込む囲いがビッシリ張り巡らされている。

 ウザイが何だかんだで彼女には私しか相談相手が居ないし、と云う事は男連中が結衣夏の事を訊くのは私しか居ないと云うね。結衣夏……友達居ないからね。取り巻きは居るけど。


 わがままで高飛車で、でも素直な幼なじみ。私は結衣夏を面倒だと思いつつも、その手を離せないでいる。

 殊更に甘やかしてる積もりは無いが、やはり可愛い妹みたいな存在だった。

 紗英が、結衣夏の半分……いや十分の一でも良い。他人に頼る事を知るならば。


 せめて愚痴を聞くくらいは出来ただろうに。せめて、あの頃の自分を語り、共感を得て、対策を二人で模索する事も出来たのでは無いだろうか?


「……ままならないわよね。」


 実際は。

 私が、一人で抱えていた様に。

 紗英も。

 一人で答えを探す。

 毅然と立つ彼女は美しいけれど、少しだけ胸が痛くなるのは。

 私の勝手な想いでしか無いのだろう。


「為るようにしか為らないわ。悩み過ぎない様にね。」

「…………そうね。」


 何もかも見透かしたようでもあり、興味の欠片も無さそうにも見える。

 素っ気ない風にも、優しい労りの様にも受け取れる。

 或いはその総てでもある、菖蒲の淡々とした態度と口調。

 私はそっと嘆息して、不思議な存在である親友を見上げた。


 いつか。

 菖蒲は『彼女』に成る。

 それを知るのは。

 現時点では私だけなのだ。



☆☆☆



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