019◇地域:異界の姫◇山田美奈子レベルアップしました
久しぶりなのにホラー色が欠片もナイのです……。
20130206
☆☆☆
初めて触れあった時に、彼は眉を顰めた。それは勘違いとかでは無く、少し悔しそうな表情をしていたと思う。
うん。
理由は何となくワカルヨ。
「あなただけが好きよ?」
宥めるように手を伸ばして、頬に触れた。ドキドキする。汗で貼り付いた髪の毛を、指先で払うようにして耳にかけて撫で付けた。
何だか親密な仕草だと思う。彼もそう感じたのか、けれど照れより嫉妬が浮かぶのは何故か。
私がこんな風に、誰かに触れた事が有ると想像するからか。実際は今の状況にテンバッテもオカシクないくらいドキドキしている。誰かと…………男の子となんか、こんなに近くにいた事は無いし、こんな風に触れた事も、実際は初めてだったりする。
けれど。
それを説明する事は出来ない。
頭がオカシイと思われるからね。
男慣れしてない初な反応で、実際には抱かれ慣れた体。
そう思わせておいて、これまた実際は男性と親しく会話するのも、この彼が初めてとか。
そんなの。
証明の仕様が無いから、曖昧な言葉で、誓うしか無い。
「あなただけが好き。」
今も昔も無い。過去なんか無い。
私には、あなたしか居ない。
けれど。
紛れも無い事実なのに、本音を口にしたならば、非常に嘘臭くなるんだろうね。
だから。
云わないし。
云えない。
「あなたしか好きじゃ無いわ。」
きっと。
私の言葉は自動的に変換されている。
『今は。』
そう付け加えられているのだろう。
本当に。
真実。
唯一の人だと。
胸を開いて心を見せる事が出来るなら、そんな事で証明出来るなら。
喜んでそうするのに。
そんな風に思った。
☆☆☆
コイツがっ!!!
と。
腹立ちの余りに目の前に迫った黒い影を鷲掴みギリギリと雑巾絞りをしたのは。
初めて恋人と肌を合わせた翌日の事で。
雑巾絞りの刑だけでは飽きたらず、床に叩きつけて体重をかけて踏み躙った。グリグリと踵を左右に振り、私の心とあの人にあんな目をさせた黒い影を強く踏んだ。
ビタンビタンと苦しんでいるのか跳ねて逃れようとする影を、簡単に逃してなるものかと、更に踏みしだく。
「………。」
物問いたげに私を見て、クラスメイトの木梨菖蒲は……しかし。
「おはよう。」
「おはよう。」
朝の挨拶だけして私の横をすり抜けた。
苦しみのたうつ黒い影を一瞥して、嘆息した様子では有ったが、私は気にしない。別の黒い影が菖蒲を歓迎するかの如く突進して、彼女をすり抜けてガックリした様子なのも、私の足下でヒクヒクしてる影が救いを求めるかの様に彼女に触手の先を伸ばしたのも。
私は気にしない。
私はとにかくコイツに怒りをぶつけるのに忙しかったのだ。
だが。
何人かのクラスメイトが、影を……多分……視覚では認識出来ないままに、時折襲い来る『アレ』だと気付いて目を背けたり。私を驚いて見つめたりした。
その様子に、あれ?とナニかがオカシイ?と警鐘が鳴るのを感じた。
それをハッキリ認識したのは。
「山田さん……いきなりレベルアップしたね。」
クラスメイトの中でも、この影を視認する仲間であり、この影の被害を受ける事の無い……腹立たしい程の『強者』の立場にある。
その男が登校して来た時だったりした。
菖蒲もだけど。
こいつも。
この影を排斥するチカラがある。
ただ視えるだけの、何の役にも立たない私のチカラとは……違う。と……思ったけど。
あれ?
私は。
ジッと自らの手を見る。
影が、ピクリ……と手の中で震えた。足下を見る。今にも息絶えるかの様に、ビクンビクンと小さく跳ねる影……が、ある。
ええと?
触ってるね?
踏んでる……ね?
まるで。
……さっき、私にレベルアップしたと告げた……副会長の三ツ木みたいに。聖野一族の……湊川みたいに。
もしかして、撃退してる………ね?
山田美奈子。
怒りの余りレベルアップしました。
もっと早めにしろや。手遅れじゃないか……とか。そんな事を思ったけれど。
まあ。
出来ないままより、余程良いよね。
最初から、被害の「ひ」の字も無さそうな菖蒲だって、何だかソレナリに苦労はしてるみたいだし。知らないけど、湊川や三ツ木も、最初からチカラが有る訳でも無いのかも知れないし。
強者に『成った』私は、強者は最初から強者では無いのだと。
自らの実体験として、知ったのだ。
でも、だからといって。この影の所為で処女でございと、初々しい初体験を迎える事が敵わなかった。
その理由としては。
弱いと思うんだよね。
なので。
HRが始まるまで。
私は目一杯『影』に復讐をしたのです。
と云うか。
この影って。
確か、魔界の女帝のペットだよね?今更だけど………何で『此処』に居るのかが。
気になると云えば気になる。
つまり。
それは………『此処』に。魔界の女帝が『居る』って事だから。
視る事だけは、出来ていた昨日までと、その出来ていた筈の『視る』事も、実は本当には出来て無かったと『判る』視界。
これは『エッチャン』だと『気付いた』。
まあ。
だからといって復讐を止めたりはしないけど。
女帝のペットを踏み付け乍ら。
じゃあ……彼女が女帝そのヒトなのかと。
ヒトでは無い女帝の……ヒトであるイマの姿を思い浮かべた。
うん。
取り敢えず。
イマは。
マダ。
関係ナイね。
そう思った。
私は、地球の人間では無いし、彼女も普通の人間では無い。それでも、現在の私たちは唯の友人として、いや………親友として。傍に居ても良い筈だった。
☆☆☆




