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012◇渇望◇王と呼ばれる男

002の少女の未来で、005の主人公の母親視点です。


今回は余りグロくないです。

多分◇渇望◇の次かその次あたりはまたグロくなる恐れが……



☆☆☆


 私たちの一族には、王と呼ばれる男がいる。対して私は一族最強の女と呼ばれている。

 だからなのだろうか?

 何故か見合いをする事になった。


 その話は存外知れ渡っているらしく、殆ど話した事も無いような、一族の女たちから連絡が来た。妬み嫉みの感情を、笑い声に隠した女たち。

 元々私は最強で、それは一族の中ではエリートの証でもある。怠惰な私は面倒な役目を押し付けられるのはゴメンだが、私たち一族のエリートと云う立場は、単なる信仰対象みたいなものだ。

 保護対象とも云うかな。

 私自身はよく解らない心境だが、一族の者たちは、純粋に強さに焦がれて崇め奉る。貢ぎ敬い仕えるのが彼らの至福なのだ。

 意味が解らないが、まあ崇められる程度なら別に構わなかったから許している。

 故に、私は特に働いた事も無いのに、生活に困った事は無い。


 一族の性質と云ったが、もちろん差異はあるし、その性別で対象を区別する者もいる。

 異性の強者にのみ焦がれる女性や、強者に対する執着を持たない代わりに自らが強者になりたい者もいる。だから、嫉妬される事に、私は慣れていた。

 強くなりたいのは、割と一族では当たり前の感情らしく、憧憬や妬みの視線は馴染みのものだとも云える。ただ、強さを求めるにも色々有るらしく、単に強くなりたい者も居れば、一族で崇められるエリートになりたいが為の手段として強者になりたい者もいる。後者の嫉妬は特に莫迦げているが、恐ろしい事にこれは結構な多数派だった。

 大なり小なり、女なら強者を得て嫁ぐ女を妬み、男の力を必要としない強さを持つ女を妬むのだそうだ。

 その妬みが比較的弱く、私を崇める心のほうが勝るのが、私の信奉者たちで、妬みが勝ったのが、友人の振りをした女たちだと云う。

 それはそれで切ない話しだ。

 つまり……私には友人は居ないって事だね?

 私の下僕は、自分が辛辣な指摘をした事に気付かなかったようだが、私はその言葉の裏に気付いた。私に仕えるのが無上の悦びだと抜かす割に、彼らが私の感情に気付く事は滅多に無い。それは私が表情に出さないからだろう。

 私はその下僕の発言に多少の驚きを覚えたが、傷付きはしなかった。


 私からしてみれば、友人の振りをして私を妬む彼女たちも、そして、私の役に立つ事を歓びとする信奉者である彼女も、別に何ら変わりは無い。

 等しく憎悪の対象だった。



 彼女たちは一生気付かないだろう。

 私が彼女たちに嫉妬して、憎しみさえ覚えている等とは。


 友人の振りをしている?別に構わなかった。私自身が、同じように友人の振りをしているのだから。

 嫉妬されようが崇められようが、別にどうでも良かった。どちらでも構わないし、どちらとも面倒だった。

 誰にも関わらず生きる事は難しい。

 私は愛する人とも、本当に友人だと思う人たちとも、長く傍に居る事が出来ない。

 一族の者を私は嫌悪するが、利用出来るのは確かだと思っていた。



 愛する人との間に生まれた子が、私と「同じ」だと気付けば尚更だった。




 そして、あの子は私が憎む「彼ら」「彼女ら」とは違った。


 あの子も、人を愛した。

 自身のさがを呪い、私たちをエリートと呼ぶ一族を憎悪した。


 息子が、嫌悪する一族と違う事に、私は安堵したのかも知れない。

 息子が、同じ道を歩む事に、私は憐れんだのかも知れない。


 あの子は、しかし我慢をした。

 完璧に我慢しきれず、一人犠牲を生みはしたが、それでも、最大の魅力ある誘惑に抵抗した。


 私は、それを歓んだのだろうか?

 それとも、嫉妬したのだろうか?


 憐れな息子。

 私たちは一族では少数派に属する。

 私たちの心を、一族の者が理解する事は無い。




 初めて恋をした相手を喰らうのが、私たちの初めての食餌の儀式だ。

 その恋は。


 大抵の場合、口先だけのモノでしか無い。

 友情も、愛情も、一族のモノたちは、「本気」で「語る」訳では無いのだ。


 それはそうだろう。

 誰が今から食べると決まった相手に、真に心を委ねられるだろう。自らの心を、絶望の闇に突き堕とす行為と知り、無意識にブレーキが効くのが当然なのだ。


 彼らは、気付く事は無い。その欺瞞。その狡さ。その自らの賢さに。

 無意識に避けたが故に、人間を餌と見下す自らの視線にさえ気付かなかった。




 本当に、友達となり、本当に、恋人となり。

 その相手を喰らった者は。

 決して指摘しないから。


 多分、ずっと気付かないだろう。


 自分たちが、最後の一口を食べられない。

 その一事が、自らの心の欺瞞を晒していると云う事実に。






 彼らはエリートになりたいと云う。

 無邪気に願う彼らは、本当の事を知ったら如何に感じるのだろうか。


 愛情を与えた相手を喰らい尽くせば、それがチカラの源となる。

 彼らが呼ぶ、エリートのチカラを得るのだ。



 ただ。

 好意を抱いた相手を喰らうだけ。

 そして。

 好意を抱けば抱く程に、その肉の旨味が増し、血は甘く滑らかに喉を通り、芳しく香り立つ甘い誘惑を増す。


 堪えられない食欲など、彼らは想像も出来ないだろう。

 本能的な飢餓以外に、相手を愛するが故の飢餓が存在する。

 そんな事も知らない奴らが、私たちを崇め敬い仕える。


 その皮肉に。

 私は嗤いたくなる。



 況してや。





 息子も一族の支配者層に位置する事に成ったが、あの子の父親は………一族が無意識に見下す「餌」だったのだから。






 王と呼ばれる男。

 私の見合い相手。


 彼は一体どんな存在だろうか?



 どんな男だとしても。

 一族で有るが故に、私は彼を愛さないだろうし、それは相手も同様だろう。

 どんな相手だとしても、私は彼を憐れむだろうし、やはり相手も同様だと思う。


 最強と呼ばれる私たちが、互いを憐れむだろうと予感する。


 それも。




 きっと。

 一族の者たちは想像も出来ないだろう。




☆☆☆



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