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10/28

010◇地域◇帰宅部は誘惑されます

☆☆☆


 朝は救急車で運ばれた彼女も、三限目の途中から問題無く授業を受け、放課後の現在は元気に誘惑されている。

 何にかって?


 招き猫にだ。




 てくてくと歩いて帰宅途中にですね。道沿いに甘味屋が有るのですよ。

 洋風なんだか和風なんだか微妙な喫茶『猫招き』。


「変な名前。」

「それを云ってはオシマイじゃないか♪」


 私たちは、お約束な会話をしつつ誘惑に乗る。因みに店のドアの斜め前に、幼稚園児くらいの大きさの招き猫と看板が有ります。

 招き猫と重なる様に、その招き猫と同じ大きさの猫が居ます。明らかに………普通の猫では有りません。

 大き過ぎますよね。

 招き猫は三毛猫ですが、その猫は真っ白です。私は秘かにシロと呼んでいます。

 マンマですね………。


 まあ、あれですよ。

 私は存在の本質を抉るような命名をするのですよ。決してセンスが無い訳では…………どうでも良い話ですね。


 店の中は常に満席です。

 しかし、新たな客が入る時は、大抵誰かが帰ろうと席を立ちます。人気ですが落ち着いた店だと評判なのは、多分この所為も有りますね。

 招き猫は招くタイミングもバッチリなのですよ。


 シロがナアン♪と鳴いて、私の足下に擦り寄ります。褒めて〜と云わんばかりの態度です。

 めっさ可愛いです!モフモフです!

 フワッフワの毛皮の感触が生足を擽り、たまりませんな!って感じです。

 私は動物の毛にアレルギーが有るので、どんなに可愛くても猫は触れないのですが、シロは猫だけど普通の猫では無いので大丈夫です。

 人目さえ無ければ抱き付きたいですが………流石に怪し過ぎるので我慢しています。


 基本的に待ち時間の少ないお店では有りますが、私の時は割とシロが誰かを帰るように誘導してるんだろう事も知っています。

 アレですよね。帰る客も「帰らされている」とは気付かないし、店側に不満を持つような誘導でも無いみたいですし。

 満席でもシロは私を熱心に誘いますし、私も用が無い限りはついつい誘惑されてしまいますし。待ちたくは無いですし…………何の問題もナッシング!ですよね?


 故に私はシロを褒め称えます。


――良い子ね。有難う。


 声には出せませんが、心で語りかけて微かに笑みを浮かべて見下ろせば、シロは満足そうにグルグルと咽を鳴らします。

 はあ………抱きしめたいです。


「和も良いかな…黒蜜抹茶パフェとかヤタラ美味しそう………。」

「それはアレかね?この780円の大枚を投じるブルジョアパフェを撰ぶと云う事なのかね?」


 たかが780円と云うなかれ。私たちは、正確には私と私の連れは、毎日強烈な誘惑に襲われては敗北するのです。780円を24日毎日食したら偉い事ですよ?一応それくらいのお小遣いは有りますけどね。私たちも甘味だけで生きている訳でも無いので、節約に越した事は無いのですよ。


「いや、だって私……朝救急車に運ばれたから!」

「………何の関係が?」


 因果関係の欠片も見出だせません。しかし友人は自信満々です。


「ほら?滋養競争?」

「………強壮です。競争に聴こえましたが……どんな漢字を想像してますか?」


 そう云えばこの友人はFクラスですよ。Eクラス迄は成績順ですが、Fからは適当に十把一絡げですからね。

 もしかしたら結構なお莫迦さんかも知れません。

 現在私たちは二人共に学校指定の制服に身を包み、生徒手帳の服装規定に一切反していませんが、その理由は全く違います。

 彼女はそうしなければマイナス評価を付けられて、そのマイナスポイントが貯まると罰則が有るのです。

 対する私はと云えば、単に朝から服装決めるのに時間を掛けたく無いからです。

 真面目な女子高生ブリッ子ですね。

 そう云えば、この子は買い食いも私と違って成績上位者と一緒で無いと認められないのですよ………勉強しろ。と思いますよね。やれば出来る子だと信じてますよ?


「………競争…狂騒?」

「強いに荘園のしょうから草冠外した漢字で強壮。」

「…………べ……別に!漢字知らなくても生きていけるもん!」

「はいはい。恥ずかしいだけでね。」

「………。」


 とか何とか云いつつ、結局彼女はパフェを、私はお得な本日のお奨め甘味セットを頼みました。

 抹茶味ゼリーとつぶ餡と白玉と抹茶ソフトクリームが乗った、小さな和風パフェでした。

 本日のお奨め甘味はその日に因って違います。

 少しサイズダウンしてますが、彼女が頼んだ和風パフェ780円と同じですね♪

 私は小さなソレを200円で戴く訳ですよ。


「………敗けた。」

「日頃の行いですね。」


 この「猫招き」では、決して本日のお奨めを教えてくれません。苦手メニューを申告して、ソレが含まれるなら止める……と云うのが精々です。しかし、その方法も余り推奨されません。だってその苦手なモノが含まれるメニューだってバレますものね?

 故に、基本的には。


「内容はお答えしかねます。もしもアレルギーなどがお有りでしたら、別のメニューをお撰びになる事をお奨め致します。」


 と店主の美人さんはニッコリ笑うのですよ。

 200円の日替りメニューは、苦手食品の無い私としては、大歓迎ですね♪

 いや、鯖とかひかりモノはアレルギー有りますが、甘味とは関係無いので大丈夫です。

 鯖が出てきたら隠しメニュー以前の問題ですよね。



「うう。でも美味しい。」

「お夕飯前だし、これくらいコンパクトなほうが丁度良いですね。」


 満たされた至福の笑みを浮かべる友人に、私は追い討ちをかけつつニッコリ笑いました。

 別に、沢山あって羨ましいとか思ってませんよ?

 彼女が少し悔しそうに私を見る目付きに、溜飲を下げたりもしてません。

 ええ。素朴な感想です。


 ナアン?

 私の足元で丸くなっていたシロが、食べ終えた気配に顔を上げました。

 小さなテーブルの下に入りきらないシロは、いつも通路側に陣取ります。

 シロが塞いだ通路は誰も通りません。不自然な迄に人はその道を避けて通ります。

 シロは存外チカラが有るのかも知れないと思うのは、こうしたところが有るからですね。

 普通はソレやらアレやらを踏んだり擦り抜けたりして、気分が悪くなるモノですからね。


 私は友人に気付かれないように、シロに笑みを向けました。


――もう少し、お喋りしても大丈夫?


 ナアン♪

 シロは私が直ぐには帰らないと知り、とても嬉しそうです。

 テーブルの下に首を伸ばして、スリスリと脚に頭を擦りつけてきます。

 悶える程に愛らしいです。


 同じ懐かれるのでも、シロなら自宅まで来てもバッチこいな気持ちです。

 多分やはり懐かれているのだろう………別の存在を思い出して、私は内心で嘆息しました。

 アレもフワフワなら少しは可愛いのでしょうかね。



 考えても仕方ない思考を追い出して、私は少しお莫迦さんな友人と、女の子らしい他愛の無い会話を楽しんでから。

 店を出ました。



 シロが名残惜しそうに見送ってくれます。

 店の前に出ると。

 三毛猫の、正直余り可愛くない招き猫の造形物に、ゆるりと収まり。


 ナアン……。


 少し寂しそうに、一声鳴きました。


 シロが、いつもの定位置から移動するのは、私が来た時だけです。

 シロはいつも、一途に私を見上げます。そんな風に懐かれると、何だか胸が苦しくなります。

 妖怪とか霊とか。

 化け物と喚ばれるアレらは、何故こんなにも真っ直ぐなのでしょうか。


 私がこうして、この店の前を通う日々が終わっても。

 シロは私を待ち続けるのでしょうか。


 普通。

 こういう話は犬じゃないですかね?

 忠犬の話とか、割と有りがちだと思いますよね。

 猫はもう少し、自由なイメージが有ったのですが。


 毎日毎日。

 それこそ忠犬さながら。

 シロは一途に私を待ちます。

 嬉しそうに私に擦り寄ります。


 大抵。

 私はアレらが嫌いで。

 カスミカスミと唱えるのですが。

 シロには唱えられません。





 一途な姿に心射たれたからですよ?

 別にモフモフに敗けた訳では有りませんから。


 ………少しは。

 モフモフにも敗けましたけど。



 当たり前のように。

 アレらは私に好意を持ちます。

 普通の人たちには、決して見えない姿を晒して。

 私を慕い、擦り寄って来ます。


 いつも。

 私はそれを迷惑だと感じます。

 シロは可愛いですが、だからと云って、認識を変える事は出来ません。


 アレらが、不在の世界を夢見つつ、私は少し不安にもなります。

 これが私の日常なのは間違いないのです。


 もしも願いが叶ったら、私はその世界に適合出来るでしょうか?


 願いが叶う見込みも無いのに、せんない事を考えてしまいました。

 莫迦みたいですよね。


 血に塗れたアレらを、カスミ……と念じ乍ら踏んで、擦り抜け、時に避け。

 シロは可愛いけれど、やはり相容れないアレらを疎ましく思います。


 友人は、アレらに「アタリ」倒れはしても、結局見る事は無い。彼女たちが、普通の人たちが、アレらを認識する事は決して無いのです。


 何故、私には見えるのでしょうか?

 何故、私には触れるのでしょうか?


 同じクラスの吸血鬼や食人鬼と同じように、私はアレらを踏み潰す事も出来ます。

 私は、自分を人間だと思っています。

 私は、普通の人間の筈です。


 けれど。

 見えない彼女たちが、時々……どうしようもなく憎いです。

 見えるカレらが、仲間のように思える時が有ります。


――莫迦なことを。


 私は、時々、こんな風につまらない事を考えてしまいます。

 同じ人間の筈の彼女たちと共に居るのが、時々……とてつもなく苦痛に感じるのです。見えない彼女が憎くて、その不倖を願う時も有ります。


 でも。

 私は人間です。


 アレらの仲間では有りません。



☆☆☆





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