EP 8
創造神、地下労働へ堕つ(リボ払いの代償)
天界の中心にそびえる、白亜の神殿。
その最も奥深くにある神聖なる創造神の私室――通称『コタツ部屋』では、今日も今日とて限界オタクの神様が自堕落な生活を謳歌していた。
「ふふ~ん♪ もうすぐ月人君のオンライン・ライブ配信が始まるわ~。ペンライトの電池ヨシ! 缶ビールとポテチの準備ヨシ!」
創造神ルチアナ(永遠の17歳)は、桃色の芋ジャージ姿でコタツに潜り込み、推しである『朝倉月人(20)』のライブ視聴に向けて万全の態勢を整えていた。
『ブブーッ、ブブーッ』
その時、コタツの上に放り出されていたルチアナのスマホが、無機質なバイブ音を鳴らした。
「え? こんな時間に誰よ。もー、ライブが始まっちゃうのに」
ルチアナは不満げにポテチの油がついた指を舐め、スマホの画面をスワイプした。
表示されたのは、人間界の決済システムと連動している『神様クレジットカード』からの利用通知メールだった。
【ご利用のお知らせ】
利用店舗:神様Ama●on(天界特別ストア)
購入商品:『始祖竜クロノの卵の破片』×1
ご利用金額:金貨10,000枚(約100,000,000円)
お支払い方法:『リボ払い(毎月金貨1枚お支払い・金利手数料15%)』
「…………は?」
ルチアナの思考が、完全に停止した。
「い、いち……いち……1億円!?」
ルチアナの悲鳴が、白亜の神殿をビリビリと震わせた。
「何これええええッ!? 私買ってない! こんなもんポチってないわよ!? し、しかもご丁寧に『リボ払い』って……これ、手数料だけで毎月とんでもない額に膨れ上がる悪魔のシステムじゃないのォォォッ!!」
ルチアナは頭を抱え、畳の上をゴロゴロと転げ回った。
犯人は一人しかいない。つい先日、「純金ブラシを取り返してこい」と下界へ追い出した、あの見習いポンコツ女神・リリスだ。
「あのバカ、どういう経緯で1億円のアイテムをリボ払いで切ってんのよォ!! 私のカード限度額、完全に終わった……! 破産するぅ! 誰か助けてぇ!!」
「騒がしいですね、ルチアナ様」
フスマがスパーンッ!と開き、天界のナンバーツーである聖騎士軍団長・ヴァルキュリアが、冷ややかな目をして立っていた。
「ヴァルキュリアああああッ!! 助けてぇ! 不正利用よ、これ絶対クーリングオフできるわよね!? 天界の権力でAma●onを脅してよォ!」
ルチアナが涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、ヴァルキュリアの足元に縋り付く。
だが、ヴァルキュリアは氷のような視線を下ろしたまま、ニッコリと完璧な笑顔を作った。
「クーリングオフ? できませんよ。購入履歴とシステムログを確認しましたが、ルチアナ様の『正当な親族(ファミリー会員)』であるリリスの生体認証で決済されていますから」
「そ、そんなぁ……!」
「そもそも、貴方が日頃からガチャ代や福岡への遠征費で国庫を横領しているから、こんな時に払える貯金がないんですよ。……身から出た錆というやつです」
「見捨てないでぇ! 私、神様なのに自己破産とか絶対に嫌ぁぁぁっ!!」
喚き散らすルチアナに対し、ヴァルキュリアは背中に隠し持っていた『ある物』をゴトッと畳の上に置いた。
「何、これ……」
ルチアナが震える手で指差した先。
そこにあったのは、先端が鋭く尖った無骨な『ツルハシ』と、黄色い『安全ヘルメット(ライト付き)』だった。
「はい。丁度、良い給料の『土方の仕事』がありましたので、貴方の名前で登録しておきました」
「……ど、ドカタ……?」
「えぇ。ドワーフの地下帝国ドンガンにおける『最下層ミスリル鉱脈の採掘作業』です。日給は金貨半枚。365日、不眠不休で神力を全開にして掘り続ければ、数百年でリボ払いの元本が返せる計算ですね♡」
「いやあああああああッ!! 嫌だ、絶対に嫌ぁぁッ! 私、泥に塗れるのとか無理! 太陽の光を浴びないと死んじゃうの! 月人君のライブも見れないじゃないのォォッ!!」
ルチアナが芋ジャージを振り乱して抵抗するが、天界最強の武神であるヴァルキュリアの腕力には全く敵わない。
「甘えるな! 天界の財政危機を救うため、そして貴方の性根を叩き直すためです! リリスは下界のポポロ村で35年ローンを返しているんですから、上司である貴方が地下労働するのは当然の責任でしょう!」
ヴァルキュリアは、ルチアナの頭に『スポッ』と黄色いヘルメットを被せ、無理やり右手にツルハシを握らせた。
「さぁ、行ってらっしゃいませ、創造神様(新人作業員)! 目指せ、月間採掘量ナンバーワン!」
「だずげでえええええええええッ!!」
ヴァルキュリアが情け容赦なく『転送魔法』を展開する。
光に包まれ、ルチアナの情けない絶叫が天界から地下帝国ドンガンの最下層へと消え去っていった。
誰もいなくなったコタツ部屋。
画面の中では、朝倉月人が「みんな~! 今日も笑顔で頑張ろうね!」と爽やかに手を振っていた。
世界を創りし絶対神、ルチアナ。
彼女の長く、果てしなく、そして泥臭い『地下労働編』が、ここに幕を開けたのだった。




