EP 7
神の理の急襲
『警告。防衛フィールド上空に、所属不明の無人兵器群が出現。――対象は、ポポロ村居住区。第一目標、難民用・孤児院施設』
蘭のアナウンスが、冷酷なまでに村の静寂を切り裂いた。
「どういうこと……!? 孤児院が狙われている!?」
輝夜が血相を変えて立ち上がる。
ベッドに座っていた龍魔呂の体が、その言葉にビクリと大きく跳ねた。
外へ飛び出した輝夜が見上げた夜空には、到底「この世界」の魔法文明とは思えない、異様な光景が広がっていた。
満月を背景に、空間そのものがガラスのようにヒビ割れている。
その亀裂から、幾何学的な紋様を刻んだ純白の『無人機』が、音もなく次々と湧き出していたのだ。
「蘭ちゃん! あれは帝国軍なの!?」
輝夜が、広場へ駆けつけてきた蘭に叫ぶ。
「違う! アレはこの世界の『管理者』……『聖獣機神ガオガオン』の自動排除プログラムだよ! 私たちが地球の技術を持ち込みすぎたせいで、世界の理が私たちを『バグ』と認識して、消去しに来たんだ!」
蘭のタブレット画面は、無数の赤いエラーコードで埋め尽くされていた。
「チッ! バグだか神様だか知らんが、ウチのシマで勝手な真似をさせんぞ!」
プレハブの屋根の上から、信長が対物ライフルを構え、空のドローン群に向けて引き金を引く。
轟音と共に放たれた大口径の徹甲弾。
だが、弾頭がドローンに命中する直前。
『――対象オブジェクト(物理兵器)のデータ削除を実行』
無機質な電子音声が空から響いた瞬間、信長の放った弾丸が、文字通り「ノイズとなって空間から消滅」してしまった。
「……はぁ!? 弾が消えやがったじゃと!?」
信長が信じられないものを見るように目を見開く。
「無駄だ、信長! 奴らは物理法則で動いてねぇ! 『世界のルール』そのものを書き換えてやがるんだ!」
地上でシステムの防壁を展開しようとしていた義正が、苛立たしげに赤マルを噛み潰す。
『――環境法違反。非正規座標におけるオーバードラッグ(医療プラント)および関連施設の強制フォーマットを開始します』
純白のドローン群が、ポポロ村の端に建設されたばかりの真新しい施設――難民の子供たちを保護している『孤児院』へと、一斉に銃口を向けた。
「やめて……っ!! そこには、子供たちがッ!」
輝夜が絶叫する。
信長がCQCの距離まで肉薄しようと地を蹴り、義正が残された全ポイントを防御に回そうとする。
だが、神の理の攻撃は、彼らの対応よりもわずかに速かった。
『ズドガァァァァァァァァンッ!!!!』
ドローンから放たれた純白の閃光が、孤児院のすぐ脇の地面を抉り取った。
凄まじい爆風と土煙が舞い上がり、建物の窓ガラスが粉々に砕け散る。
「きゃあああああっ!?」
「たすけて、いたいよぉぉぉっ!!」
「ママーッ!! ママァァァッ!!」
炎と煙の中から、子供たちの悲痛な絶叫と泣き声が、夜の荒野に木霊した。
「……あ」
輝夜の背後。
薄暗い部屋の中からフラフラと外へ出てきていた龍魔呂の動きが、完全に停止した。
――『いたいよぉぉっ!!』
その泣き声は。
彼がかつて、ゴミ捨て場の冷たい雨の中で聞いた、愛する弟の最期の声と、完全に重なり合った。
「あ……、あぁ……ッ」
龍魔呂の瞳孔が、極限まで収縮する。
輝夜の抱擁によって温もりを取り戻しかけていた彼の心(理性)の糸が、プツン、と音を立てて切断された。
『ドクンッ!!』
彼の右手に嵌められた『鬼王の指輪』が、心臓の鼓動のように脈打ち、かつてないほど強烈な「赤黒い光」を放ち始める。
「りゅ、龍魔呂さん……?」
輝夜が振り返った時。
そこにいたのは、心優しき小料理屋の店主ではなかった。
「……ころす」
地獄の底から這い出たような、一切の感情を持たない呪詛。
彼の全身から、周囲の空気を凍らせるほどの致死量の殺気が、赤黒い闘気となって噴き上がっていた。
神の理の無慈悲な攻撃が。
絶対に開けてはならない、最強の処刑人の『パンドラの箱』を、完全に破壊してしまったのだ。




