EP 7
迎撃の信長と、卑劣なる人質作戦
「ヒィィッ……! た、助けてくれぇっ!」
「ママ、ママーッ!!」
夜の闇に包まれた難民キャンプに、悲鳴と怒号が響き渡る。
アバロンの強硬派傭兵部隊は、眠っていた難民たちを容赦なく蹴り起こし、一箇所に集めて包囲していた。
「ぎゃはははっ! おとなしくしろ! 抵抗する奴は容赦なく斬り捨てるぞ!」
傭兵隊長のガドーが、巨大な戦斧を肩に担ぎながら下劣に笑う。
彼らの目的は、難民の命ではない。
この難民たちを「盾」にして、目の前にそびえ立つポポロ村の防衛フィールドを開けさせることだ。
「おい、要塞の中にいる奴ら! 聞こえてるか!」
ガドーは、怯えて震える難民の少女の首根っこを掴み上げ、要塞に向かって怒鳴り声を上げた。
「このガキの命が惜しければ、今すぐ魔導壁を解除しろ! さもなきゃ、ここから一人ずつ順番に首を刎ねていくぞ!!」
『……クソ外道が』
闇に紛れて難民キャンプの端に潜んでいた信長は、暗視ゴーグルの奥でギリッと奥歯を噛み締めた。
手には消音器を付けたハンドガンと、特殊警棒。
すでに周辺の見張りを数人、音もなく処理してはいた。
だが、状況は最悪だ。
(敵の密集度が高すぎる。おまけに難民と完全に混ざり合っとるわい)
信長のレンジャーとしての戦術眼が、冷酷な事実を告げていた。
手榴弾も、ライフルの掃射も使えない。
CQCで懐に飛び込むにしても、百人近い武装集団を一人で瞬殺することは不可能だ。自分が動けば、間違いなく数人の難民が巻き添えで殺される。
「おい、どうした! 返事がないなら、まずはこのガキから――」
ガドーが、戦斧を振り上げた、その時だった。
「隊、隊長! 上です! 要塞の壁の上に、誰かいます!」
傭兵の一人が、夜空を指差して叫んだ。
ガドーが舌打ちをして上を見上げる。
「あぁ? なんだ、ただのウサギの獣人じゃねぇか。あんな小娘が一人で――」
ガドーの言葉は、最後まで続かなかった。
『ジジ……ジジジジジッ……!!』
突如として、大気が悲鳴を上げたのだ。
いや、違う。空気が「帯電」している。
「な、なんだこの肌のピリピリは……! 魔力か!? どんだけ濃密な魔力を練り上げやがったら、こんな現象が起きるんだ!?」
傭兵たちが、一斉に武器を構えて後ずさる。
防衛フィールドの頂点。
月明かりを背にして立つキャルルの全身から、紫色の雷光がバチバチと迸っていた。
「……私の村のひとたちに、乱暴するのは、だぁれ?」
キャルルの声は、いつも通りの可愛らしい響きだった。
だが、その声には一切の感情(抑揚)が抜け落ちていた。
満月の力によってリミッターが完全に外れ、本能のままに『敵を排除する』というモードに移行しているのだ。
「ひ、ひぃぃっ……!」
「隊長! あのウサギ、ヤバいです! 殺気が、桁違いだ……っ!」
歴戦の傭兵であるはずの男たちが、本能的な恐怖に脚をガクガクと震わせる。
まるで、巨大なドラゴンの前に放り出されたような、絶対的な捕食者のプレッシャー。
「う、うろたえるな! 相手はたかがウサギ一匹だ! 魔法使い部隊、あのウサギにありったけの魔術を叩き込め!!」
ガドーの命令に、十数人の魔法使いが杖を構え、火球や氷の矢を一斉にキャルルへと放つ。
夜空を彩る、致命的な魔法の雨。
だが。
「……悪い子は、お仕置きだよ」
キャルルは避けることすらしない。
彼女が特注の強化靴に仕込まれた『雷竜石』の力を解放した瞬間。
『バチィィィィィィィィンッ!!!!!』
キャルルの周囲に展開された紫電の嵐が、飛来する魔法をすべて空中で蒸発させてしまった。
「な、ば、馬鹿なッ!? 中級魔法の集中砲火が、傷一つつけられねぇだと!?」
「バケモノだ! あいつ、ただの獣人じゃねぇ!!」
パニックに陥る傭兵たち。
信長ですら、暗視ゴーグルを外してその光景に唖然としていた。
「……おいおいおい。あれが、あのアホみたいにプリン食っとった村長か?」
キャルルが、ゆっくりと右足を引いた。
クラウチングスタートの姿勢。
狙うは、眼下の傭兵部隊のど真ん中。
「超電光流星脚(スーパー・ライトニング・メテオ・ストライク)の、準備……完了ぉっ♪」
キャルルが、ニッコリと、しかし全く目の笑っていない狂気の笑顔を浮かべた。
絶対的な死のカウントダウンが、静かにゼロを告げる。




