表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/15

15.踏み出す一歩



怒涛の一夜が明け、意外にもすっきり目覚めた私。


いま公爵邸の客間の大きな天蓋付きのベッドで、身じろぎ一つせず寝たふりをしていたりする。


喉の乾きや空腹に耐えながら……。


(だって……、絶対ドアの前では公爵家の優秀な侍女が衣擦れの音一つ聞き逃すまいと待機してるはずだもん……)


立たせたまま待機させている事にすごく罪悪感を感じるけど、朝の支度をしてラムバレド家のご家族と食卓を囲む前に少しだけ猶予が欲しい。


昨夜の辺境伯との会話をどこまで話すべきか、どこまでなら隠し通せるのか……。


辺境伯の耳に入れたいと騙ってしまった、在りもしない情報とやらをどこから仕入れたらいいのか……。


陛下は、私を王太子殿下の婚約者にまた戻すと言う案を取り合わなかったそうだけど、今後の情勢次第でいくらでも変わるかもしれない。


(正直、考える事が多すぎて頭パンクしそう…………。いっそ、このまま辺境伯夫人ルートに突入しちゃった方が楽じゃない? むしろ王家と辺境伯が膠着状態に陥って一番平和的だよね。

お父様は頭を抱えそうだけど……)


ラムバレド家の魔法の秘密を知ってしまった私が、辺境伯に嫁ぐのは王家とラムバレドに対して大きな裏切りになる。

でも、人質になってしまえば、王家も迂闊には手が出せないだろう、多分。


何しろ昨夜の王太子殿下のあの失態……。貴族達に動揺が拡がっているなか、陛下も強硬策には出辛いはず。

だからこそ、公爵は説得も懐柔もせず辺境伯を見送る事が「許された」のよね。


私が辺境伯領に入ってしまえば、ある意味王家との交渉が有利に運ぶ青い瞳(ルシェルアイズ)を取り戻されないよう、辺境伯に厳重に守られる事になる。


……まあ、軟禁とも言い換えられるけど……。


(何か、悩みが全部先延ばし出来るんじゃない? もとから愛ある結婚なんて夢見てないし。武力衝突なんて起きないのが一番……)


そうは思うものの、公爵邸を抜け出して強行したら、クリストファー様の胃痛が酷いことになってしまいそうで、その姿を思い浮かべると胸がチクリとした。


(ホットミルク続けてくれるといいな……)


いっそ新しい婚約者が傲慢だったり、冷酷な人物であってくれたなら、こちらも感情移入なんてせずに、自分の為だけに動けるのに……。


私は大きく息を吐くと、覚悟を決めて肌触りの良いブランケットから体を離し、サイドボードに置かれたベルを鳴らした。



────────



「おはようルイーズ嬢、昨夜はよく眠れたか……?」


「おはようございます。疲れていたのか、あの後すぐ眠りにつけました」


「そうか……」


私の言葉に嘘が無いと分かったのだろう、クリストファー様は安心したように優しく夏の青空みたいな青い瞳を細めて微笑んだ。


(……そんな風に微笑まないで欲しい。決心が鈍るから……)


身支度を済ませてからダイニングルームへ向かうと、まだ公爵夫妻はおられず私はクリストファー様と朝食のテーブルに着いた。


朝食は私だけあっさりとした軽いものが多く並んでいて、料理人の配慮を感じる。


(……直接お礼を言いたいけれど、使用人達にも深入りは禁物。でもありがとう……)


私はせめてもと、心の中で手を合わせた。


「……あの後、両親は随分遅くまで話し合っていたようだからね、朝食は部屋で済ませて貰う事にしたんだ。

だから、もし君が昨夜の件で少しでも話せるなら、安心して私に聞かせて欲しい」


食後の紅茶に手を付け始めた頃、クリストファー様がようやく話を切り出した。


「そうでしたか、ご配慮有難うございます」


(やっぱりクリストファー様の……。てっきり朝から公爵に質問攻めされるとばかり思っていたから、拍子抜けしたんだよね)


自分に向けられた気遣いに拝みたくなるものの、あまり配慮されるとかえって辛い…。


今の時点で、この人と結婚するルートは有り得ないから。


「辺境伯閣下には、一週間の猶予を頂きました。私からの情報を待って下さると……」


「一週間とは…大したものだ。だがその情報と言うのは、君の方便なんだろう? 時間の猶予はこちらとしても有り難いが」


「はい、時間稼ぎの為の苦肉の策でした。でも、その情報の当てが無いわけではありません……」


辺境伯が譲歩した事に驚いているクリストファー様に、私は真実と嘘を織り交ぜて答えた。


真実の鏡に挑むような気持ちで……。


「……つまり何か辺境伯か領地に関する、気になるような噂を耳にした事があると言う事か?」


「はい」


こちらを澄んだ青い瞳で見詰めるクリストファー様に、しっかりと強い視線を返した。


(以前お母様と参加したお茶会で、辺境伯領についての噂を耳にした事があるのは嘘じゃないから!! 内容はともかくとして……)


「……ですが、その噂が辺境伯のお心を変えられるのかは分かりません。いえ、かなり難しいかと……」


「そうか……。勿論父も私も出来る限りの事はするつもりだから、君はもう何も心配しなくていい。

だが、あのアウグスト殿に短い時間でそこまで信用されるとは、ルイーズ嬢は一体どんな会話を?」


「……それは今はご容赦下さい。それより、私も辺境伯閣下とお約束した以上、自分の出来る事をしたいので、クリストファー様にお願いがあります」


「ルイーズ嬢……しかし」


「その噂話の精査の為に友人を訪ねたいので、どうか外出のお許しを頂けないでしょうか」


私は、まずは一歩を踏み出す事にした。




ここまでお読み頂きありがとうございます。

急に仕事が忙しくなってしまい、更新が遅くなって申し訳ありませんでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ