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思い出  作者: 大隈健太郎
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       8


 兵隊が暮らす宿舎の二階の部屋で、イヨはまたしても相変わらず独りの日々が続いた。


ある日、下の階に住む奥さんがやってきて、紙風船で遊んでいたイヨのところに来た。

「イヨちゃん、ちょっと仕事があるんだけど、やらない?っていうか、やんなさい。」

「え?」

「どうせ毎日暇で遊んでるだけでしょう?紹介するからさ。一緒においでよ。」


 イヨは近所の平屋に連れていかれた。そして和室の布や綿が大量に用意されている部屋へと招かれる。

「布団の側縫いってやったことある?」

「いえ。」

「じゃあ教えるからやってみて。」

 側縫いはしたことのないイヨだったが、教わった通りにすれば、すぐに出来るようになった。器用に布を合わせては針で縫っていく。

 数時間やると、何枚か布団が出来上がった。


「イヨちゃん、もう上がっていいわよ。明日もお願いね。」

「はい。」

 イヨはこの仕事を何日かこなした。

そして、計佐治が休みで部屋にいる時、計佐治はイヨに声をかけた。

「仕事でしばらく泊まりこむことになった。たまにはいい機会だから、その間、実家にでも里帰りしたらどうだ?」

「え、いいんですか?」

「ああ。ご家族によろしくと伝えておいてくれ。」


 翌朝、イヨは朝一番の汽車で、佐世保から熊本の小国へと出発した。


 そして数日間の里帰りを済ませたイヨは、母を連れて、佐世保へと戻った。計佐治が時間を取って、駅まで迎えに来てくれていた。

 初めて会うイヨの母と計佐治。

「おっかしゃん、こちらが計佐治さんよ。」

軍服姿で帽子をとる計佐治。

「どうも、はじめまして。麻生計佐治です。」

「こちらこそはじめまして。イヨの母です。イヨがお世話になっています。」

 世話しているのは自分の方だ!とは言えないイヨだったが、それから三人で佐世保めぐりをした後、食事を済ませて、佐世保の市内にある写真館へ行き、そこで記念に三人で写真を撮ってもらった。代金は当然、計佐治持ち。

 母は娘であるイヨが、日々どんな暮らしをしているのか知りたくて、数日泊まっていった。そして安心したような表情を残すと、急に小国へ帰ると言い出した。

 

 佐世保駅に見送りに行くイヨと計佐治。


「それじゃ、わたしは熊本に帰るからね。しっかりやるんだよ。」

 母は計佐治のほうを向いて、大きくおじぎする。

「計佐治さん、どうか、娘のこと、よろしく頼みます。」

計佐治は頭を下げた。

「はい。」

 そして振り返らずに帰路につく母の後ろ姿をイヨは見た。

そしてこう思った。

 結婚は私が決めたことじゃない。だけど、親は子のために良かれと思ってさせたことなのだ。幸せになってほしいという願いを込めて。

 なんだかイヨにはそれが若輩ながらも少しだけ理解できたのだ。


 しばらくして、佐世保の別の一軒家の一室に移り住むことになったイヨと計佐治。

 その引っ越しのドタバタで、布団の側縫いの仕事のお給料を、うっかりもらい損ねてしまったイヨであった。しかし、あとの祭り。せっかく働いたのに悔しい思いをする羽目になった。もったいない・・・。


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