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兵隊が暮らす宿舎の二階の部屋で、イヨはまたしても相変わらず独りの日々が続いた。
ある日、下の階に住む奥さんがやってきて、紙風船で遊んでいたイヨのところに来た。
「イヨちゃん、ちょっと仕事があるんだけど、やらない?っていうか、やんなさい。」
「え?」
「どうせ毎日暇で遊んでるだけでしょう?紹介するからさ。一緒においでよ。」
イヨは近所の平屋に連れていかれた。そして和室の布や綿が大量に用意されている部屋へと招かれる。
「布団の側縫いってやったことある?」
「いえ。」
「じゃあ教えるからやってみて。」
側縫いはしたことのないイヨだったが、教わった通りにすれば、すぐに出来るようになった。器用に布を合わせては針で縫っていく。
数時間やると、何枚か布団が出来上がった。
「イヨちゃん、もう上がっていいわよ。明日もお願いね。」
「はい。」
イヨはこの仕事を何日かこなした。
そして、計佐治が休みで部屋にいる時、計佐治はイヨに声をかけた。
「仕事でしばらく泊まりこむことになった。たまにはいい機会だから、その間、実家にでも里帰りしたらどうだ?」
「え、いいんですか?」
「ああ。ご家族によろしくと伝えておいてくれ。」
翌朝、イヨは朝一番の汽車で、佐世保から熊本の小国へと出発した。
そして数日間の里帰りを済ませたイヨは、母を連れて、佐世保へと戻った。計佐治が時間を取って、駅まで迎えに来てくれていた。
初めて会うイヨの母と計佐治。
「おっかしゃん、こちらが計佐治さんよ。」
軍服姿で帽子をとる計佐治。
「どうも、はじめまして。麻生計佐治です。」
「こちらこそはじめまして。イヨの母です。イヨがお世話になっています。」
世話しているのは自分の方だ!とは言えないイヨだったが、それから三人で佐世保めぐりをした後、食事を済ませて、佐世保の市内にある写真館へ行き、そこで記念に三人で写真を撮ってもらった。代金は当然、計佐治持ち。
母は娘であるイヨが、日々どんな暮らしをしているのか知りたくて、数日泊まっていった。そして安心したような表情を残すと、急に小国へ帰ると言い出した。
佐世保駅に見送りに行くイヨと計佐治。
「それじゃ、わたしは熊本に帰るからね。しっかりやるんだよ。」
母は計佐治のほうを向いて、大きくおじぎする。
「計佐治さん、どうか、娘のこと、よろしく頼みます。」
計佐治は頭を下げた。
「はい。」
そして振り返らずに帰路につく母の後ろ姿をイヨは見た。
そしてこう思った。
結婚は私が決めたことじゃない。だけど、親は子のために良かれと思ってさせたことなのだ。幸せになってほしいという願いを込めて。
なんだかイヨにはそれが若輩ながらも少しだけ理解できたのだ。
しばらくして、佐世保の別の一軒家の一室に移り住むことになったイヨと計佐治。
その引っ越しのドタバタで、布団の側縫いの仕事のお給料を、うっかりもらい損ねてしまったイヨであった。しかし、あとの祭り。せっかく働いたのに悔しい思いをする羽目になった。もったいない・・・。




