8話 お熱
翌日未明、俺とスケサンはゴーレムメーカーの前にいた。
「おおっ、これがゴーレムか。」
そこには直立したゴリラみたいな体型の土人形が立っていた。
俺より頭1つ分ほど背が高い。恐らく2メートル強だ。
「昨日の夜半には完成していたぞ。」
スケサンが教えてくれたが、実は夜中にゴーレムが完成したのは知っていた。
面倒だったので、この時間まで放置してしまったのは内緒だ。
「それで、どうしたらいいんだ?」
「うむ、先ずは基本的な命令を伝える。味方を攻撃するな、とかな。」
なるほど、と頷いた俺は少し考えてから
1 : 上位者の命令に従え
2 : 味方を攻撃するな
3 : 侵入者を排除せよ
以上の3つを命令した。
ゴーレムがカクッと上半身を傾けた。よしよし、どうやら理解したらしいな。
シャベルとねこ車を渡して土を集めるように指示した。
「ふむ、上手いものだ。指示を出すことに慣れているな。」
スケサンが感心したようにこちらを見る。
「まあな。多少の部下を持っていたこともある。」
中間管理職をやっていた経験が生きた。人生何があるかわからないものだ。
………………
居住スペースに移動した俺たちはテーブルを挟んでミーティングを行う。
「主よ、少し厄介なことになったかもしれぬ。」
「どうした?」
「遠目からダンジョンを伺う気配がある。」
このダンジョンを偵察か。
心当たりは1つしかない。
「ゴブリンか?」
「恐らくはな。」
「なぜゴブリンは執拗にマリーたちを狙うんだ? 餌なら他にもあるだろうに。」
「いや、餌では無い。ゴブリンとは非常に縄張り意識の強いモンスターだ。
群の縄張りに突然現れた我らが許せぬのだろう。」
そうか、それでか。
やつらに以前モフモフが殺された理由も縄張り争いだったのだ。
「それで、どうすれば?」
「ゴブリンの群を退かせるには2つしか方法はない。
皆殺しにするか、我らには敵わぬと理解するまで撃退し続けるかだ。」
うーむ、と考える。
この場合、問題は敵の数だ。ゴブリン4~5匹なら大したことはない。
過信は禁物だが、20匹くらいなら大丈夫だろう。
「ゴブリンの数はどれくらいいるのだろう?」
「そればかりは分からぬ。強いリーダーに率いられた群は何百匹にも膨れ上がるそうだ。
村や町が破壊された事例もある。」
何百匹か……想像以上だ。
ゴクリと喉が鳴った。
「大軍の召集には時間がかかるものだ。今日明日に大軍で攻めてくることはあるまい。
こちらも防衛の準備を進めよう。」
「そうか……そうだな。何かアイデアはあるか?」
俺とスケサンのミーティングはマリーが起きてくるまで続いた。
………………
遅めの時間にマリーが起きてくる。一人だ。
「おはよう、マリー。ジョシュアはどうした?」
マリーは少し顔を曇らせた。
「おはようございます。実はジョシュアが少し熱っぽくて……」
「そうか、心配だな。少し様子を見てもいいかい?」
マリーに確認してから部屋に入る。
そこには少し顔を赤らめたジョシュアが寝ていた。
触ってみると確かに熱い。
「マリー、痙攣や発疹はあるか?」
「いえ、ありません。」
「下痢や嘔吐は? 咳はしているか?」
「……いえ、ありません。」
……取り敢えず直ぐにどうにかなるような容態では無さそうだ。
DPを使って洗面器やタオル、水差しや果物ナイフなどの看病グッズを出してマリーに預ける。
「油断はできないが、特に心配するような容態では無いだろう。
暖かくして、水を多目に飲ませてやればいい。幼児にはよくあることさ。」
マリーを安心させてやるような言葉をかける。
DPを消費して毛布と着替えも用意した。
「すいません。ありがとうございます……」
「ここ数日の疲れが出たんだろう。無理もない。マリーも今日はゆっくり休むと良い。」
一旦、部屋を出た俺はお盆を用意して、白パンと果物をいくつか出した。
そして水差しに水を入れ、コップ(以前ミルクを飲んだやつだ)を2つ用意し部屋に戻る。
「食欲が出たら食べさせてやると良い。もちろんマリーが食べてもいいぞ。」
「何から何まで……申し訳ありません……」
お大事に、と声を掛けて部屋を後にする。
…………
「手慣れているな。医者だったのか?」
リビングで静かに様子を見ていたスケサンが話しかけてきた。ジョシュアの様子が心配だったのだろう。
「いや、違うよ。ただ……子供の発熱には慣れていてね。」
長男の明は体が弱く、幼い頃はすぐ熱を出した。
子供か……明……等……とても大切な家族なのに、長い時間と共に記憶が薄れていく。
…………
すこしセンチメンタルな気分になってしまった。
こんな時は仕事に限る。
気を取り直して防衛の準備をしよう。