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12話 食人くん

 ……その後


 スケサンから砥石と布と油を出してほしいと頼まれたので用意した。

 剣の手入れをするらしい。

 折角なので俺も教わりながらコテツの手入れをする。

 スケルトン隊も意外や慣れた手つきで剣を研いでいた。



 そうこうしている内に朝になった。

 マリーとジョシュアが起きてきたのでリビングに向かう。



…………



「二人とも、おはよう。」


 声をかけると「おはようございますっ!」とジョシュアが元気に挨拶をした。


「あの、おはようございます。昨日は……その、ありがとうございました。」


 マリーが遠慮がちに挨拶をしてきた。居眠りをしたのが恥ずかしいようだ。


「構わないよ。可愛らしいいびきも聞けたしな。」


 マリーをからかうと顔を赤らめて「嘘です。私はいびきをかきません」と強めに抗議された。

 うん、自分の寝相は知らないのが当たり前だ。


 DPで用意した朝食を二人にとってもらう。


 すると、スケサンが入ってきた。

 ジョシュアがスケサンを見て「うわぁ」と驚きの声を上げた。そう言えばジョシュアがスケサンの新しい装備を見るのは初めてか。


「おはよう。もう具合はいいのかね?」


 スケサンが尋ねると、ジョシュアは「うん」と短く答えた。目がキラキラしている。


「スケサン、きしさまみたいだ! かっこいい。」


 すると茶目っ気を出したスケサンが素早く剣を抜き、直立し、顔の前で剣を掲げた。フェンシングのサリューに似ている。


「うわっ! うわっ!」


 ジョシュアは大喜びだ。

 それに気をよくしたのか、スケサンはマリーの前で片膝を付き手を取って


「麗しき姫よ、どうか私めに、あなたに勝利を捧げることをお許しください。」


 なんてやりだした。コラコラ調子に乗りすぎだ……と思ったらマリーも「その勇姿、胸に刻みます。騎士よ」なんて言ってやがる。満更でも無いらしい。

 けっ、これだから外人は嫌なんだよ。平気で恥ずかしいことやりやがる。


「……我が主は意外と悋気りんきもちだな。」

悋気りんき?焼き餅なんて焼いてないぞ。どんどんやれ。」

「……やれやれ。」


 なんだかマリーが期待したような目でチラチラこちらを見ているが俺はあんなことやらんぞ。


 その後もジョシュアがスケルトン隊に驚いたり、3人が多脚ゴーレムに驚いたり感心したりと色々賑やかな時間を過ごした。


 こんなのも悪くない。

 俺はダンジョンになって初めて、自分が笑っているのに気がついた。




………………





「……と言うわけでマリー、戦力を増やしたいのだが、何か心当たりのモンスターはいるか?」


 俺とマリー、そしてスケサンの3人はリビングでミーティングをしていた。

 ジョシュアは多脚ゴーレムに乗って遊んでいる。


「そうですね……スケルトンやゴーレムなどと違い、自我の強いモンスターは命令を無視することもありますし、モンスター同士で争うこともあります。

……そして強いモンスターほど強い自我を持つ傾向があります。」


 俺はチラリとスケサンを見た。知らん顔してやがる。

 お前のことだぞ。


「なるほど、いくら強くても命令を無視されては堪らないな。勝手な行動が全体の不利益になるのはよくあることだ。」

「はい。ですから防衛、と言うことであれば罠を設置してはいかがでしょうか?」


 罠……罠ね。俺が検索すると出るわ出るわの大量だ。


 床から飛び出す剣や吊り天井、落とし穴にトラバサミ……火を吹く火炎放射器みたいなのもあるな。

 他にも矢が飛んで来るのとか毒の水溜まりとかミミックとか色々ある。

 大体DP200~800くらいらしい。


「悪いけど却下だ。自分の家に罠なんて設置したく無い。」


 当たり前だ。トラバサミでも設置してジョシュアが怪我したら目も当てられない。

 子供とは好奇心の塊だ。どれだけ言い含めても罠に近づかないはずが無い。

 明らかな危険物を設置して子供が怪我したら置いた大人の責任だろう。


「うーん、そうですね……防衛用と割り切るならマン・イーティング・プラントはどうでしょうか?」

「マン・イーティング・プラント? モンスターか?」

「はい。マン・イーティング・プラントは森や湿地に住む植物系モンスターです。

ランクは2ですが、これは移動手段が一切無いためです。ですが、戦闘力は高いので入口や通路に設置すればかなり有効かと。

それに肉食ではありますが、基本的には日光と水だけで生きていけるはずです。」


 ……なるほど。植物系モンスター、強いけど移動できない……か。

 離れて火でも放てば無抵抗で倒せるし、そもそも近づかなければ良いんだからランクが低いのも頷ける。

 餌がいらないのも都合が良い。日光や水なら照明石と湧き水で問題ないだろう。

 ふむ、良いかもしれんな。


「良いアイデアだ。マン・イーティング・プラントは何処でも設置できるのか?」

「いいえ、土や泥だけです。このダンジョンは床が土なので問題は無いはずです。」


 土に設置できるのか。ダンジョンの壁面とかに着けても面白いかもな……。

 マン・イーティング・プラントを検索するとDP700だ。


 その時、チラリと多脚ゴーレムが視界に入ってきた。ジョシュアが乗って遊んでいる。


……いけるか?


 俺はジョシュアにゴーレムから降りてもらい、多脚ゴーレムの上にマン・イーティング・プラントを生み出した。


 ……マン・イーティング・プラントはかなりエグい見た目をしていた。

 人の腹ぐらいまである幹から3メートルほどのトゲの付いた触手が20~30本ほど生えていて、それぞれが蛇のようにのたくっている。

 そして幹の天辺、触手の中心部に不気味な穴が開いており、甘いような悪臭のような何とも形容しがたい臭気を放っている。

 こいつが多脚ゴーレムの上にしっかりと根を張り、多脚ゴーレムの脚の先まで根を絡ませていた。


 ……不気味だな。

 

 スケサンが「これは」と驚きの声を上げた。


 マリーが「凄い」と呟いた。


「エトー様、これは新種のモンスターです。種族名を付けてください。」

「いや、悪いがDPに余裕が無い。命名はできない。」


 ……そう。今はDP6494しかない。命名したら休眠状態だ。


「いえ、命名ではありません。新種のモンスターは発見者に種族名を付ける権利があるのです。

もちろんダンジョン外でも同様ですからDPは必要ありません。」


 ……そうか、そんなものか。


 種族名ね……マン・イーティング・プラント……クレイゴーレム……多脚……ダメだ思い付かん。

 覚えやすく呼びやすい……家電の商品名みたいのでいいか。

 よし、決まった。


「この種族は食人くんだ。」


「「…………。」」


 沈黙が辺りを支配した。

 スケサンは目をらし、マリーは何か悲しいものを見るような目でこちらを見ている。


 ……俺はマリーの視線に気付かない振りをして食人くんのステータスを確認した。



■■■■

種族 : 食人くん

ランク : 4


弱点 : [火属性]

■■■■



 どういう理屈かは分からないが種族名がちゃんと食人くんになってるな。

 モンスター検索するとちゃんとリストに載っている。不思議だ。ちなみにDP7000に跳ね上がっている。

 ……これは次も多脚ゴーレムとマン・イーティング・プラントで合成できるか検証しなくてはな。


「マリー、ランク4だ。」

「素晴らしいです。マン・イーティング・プラントの弱点を補った強力なモンスターですね。」


 マリーはしきりに感心している。

 名前を呼ぼうとしないのは何故かね?


「うむ。頼もしい戦力となるだろう……その、食人くんは。」


 スケサンが何か言いづらそうにしている。なんだよ、食人くんって分かりやすくて良いじゃないか。


「まあ、食人くんは良いのだが、スケルトン・ソルジャーを少し増やしたい。

クレイゴーレムは力は強いが動きが遅く、体も脆い。戦闘に向いているとは言い難い。

このままでは戦力不足は否めん。」


 スケサンは増員を希望か……しかし、DPが厳しすぎる。

 さすがにマリーたちを1日1食にするのは心苦しい。

 ちなみに今の定期収入はマリーとジョシュアの滞在分の1日にDP140しかない。


「すまん。増員したいのはやまやまなんだが……DPの都合がな、1人2人ならなんとか……」


 景気の悪い会社の社長みたいだな……本当にすまん。


「いや、ならば良い。ただ、少し気に留めておいてくれ。」

「わかった。すまん。」




 ……後ほど、再び多脚ゴーレムにマン・イーティング・プラントを載せて、食人くんに合成することに成功した。

 DP700でランク4のモンスターを生み出せるのはデカイ。


 スケサンには悪いが当面は食人くんを増やすことにしよう。





※人間の成人の場合、ダンジョン内で死亡すれば約DP1000、1日滞在すれば約DP100ですが、ジョシュアは子供なので少ないです。

非常に強い人の場合、DPが跳ね上がることもあります。

ダンジョン内で生み出したモンスターからDPは入りません。


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