10話 訓練風景
荷物運搬のゴーレムを作ろう、と思い立ったのは2体目のクレイゴーレムが完成した時だった。
土の運搬を効率化すればゴーレムメーカーの生産性も向上するだろう。
クレイゴーレム2号には早速、指示を出して土集めに向かってもらった。
…………
運搬用のゴーレムのデザインを考える。
トラック? いやいや、階段を上り降りするし、舗装した道路は無い。却下だ。
……階段台車のように車輪を三角に配置したら……いやタイヤから離れよう。
いっそのこと、今のゴーレムの上半身を荷台みたいに……む、悪くない。
その時、急にピンと来た。マンガなら電球が点灯したはずだ。
多脚歩行だ。4本足で歩かせよう。
荷物がたくさん載るように本体は長方形で……これだ!
かなりの時間をかけ、完成したのは、例えるならティッシュの箱から虫のような脚が4本生えたかのような、異形のゴーレムであった。
…………
さて、運搬用ゴーレムのデザインも完成したし、ジョシュアのお見舞いに行くとしよう。
………………
居住スペースに向かい、二人に声をかける。
「マリー、ジョシュア、お邪魔しても良いかい?」
実は小部屋にはドアが付いてないので丸見えなのだが、マナーとして声をかけた。
マリーから「どうぞ」と促され入室する。
「やあ、ジョシュア。元気になったかい?」
そう声をかけると、不機嫌さを滲ませたマリーが答えた。
「少し良くなったからと言って、遊びたがるんです。」
ジョシュアはマリーの告げ口にシュンとしてしまう。
思えば怒ってるマリーって初めて見たかも知れんな……母親なんだな。
「そうか。退屈だったんだな。ちょっと待ってろ。」
俺はジョシュアに声をかけるとリビングから椅子を2つ運んだ。マリーと俺の分だ。
「ジョシュア、お話をしようか。」
「おはなし?」
「そうだ。昔、昔のお話さ。」
……
…………
俺はジョシュアに童話をいくつか聞かせた。
「3匹の子豚」
「北風と太陽」
「兎と亀」
ジョシュアは3匹の子豚が気に入ったようでアンコールで2回ほど語り聞かせた。
「とてもたのしかったね、かあさま。かあさま?」
ジョシュアの視線の先には、椅子に腰掛けて、すうすうと寝息を立てるマリーの姿があった。
「母様も疲れているのさ。ジョシュアも、少しお休み。」
俺が口の前で人差し指を立て、シーッと言うと、ジョシュアもシーッと可愛らしく真似をする。
そしてマリーに毛布を掛けて「おやすみ」と声をかけ退出した。
後ろでマリーがふんがと控え目なイビキをかいた。
………………
「見事なものだ。」
部屋から戻ると、そこにはニヤニヤしたスケサンがいた。
「立ち聞きとは趣味が悪いぞ。」
「そう言うな。褒めているのだ。つい、聞き入ってしまってな。
……特に北風と太陽は良かった。子供に寛容の尊さを伝えることができる。自作かね?」
「まさか。俺の国では有名な童話さ。」
俺はスケサンを促して飽食のテーブルに着いた。
今日はマリーもジョシュアも食べないだろうし、独りで好きなものを好きなだけ食べてやる。
飽食のテーブルから俺が出した食事は「生牡蠣と白ワイン」だった。山盛りだ。
「我が主は食い物の趣味がどうもな……」
スケサンがゲンナリした声を出す。
「うまいぞ。」
牡蠣を1つ、スケサンの前に置いてみた。
スケサンはわざとらしく大きく息を吐くと、何も言わずに防衛用の大部屋に向かった。
生牡蠣の見た目がグロかったらしい。我らの間に刻まれた食文化の溝は深いようだ。
まあ、スケサン食事しないけどな。
牡蠣を食べながら、貝殻って肥料になるんだっけ? ……と思い付き、それ以前に畑が手付かずだった事を思い出した。
何だか忙しいな。
………………
ゆっくりと食事を終えた俺は防衛用の大部屋に向かう。
これからは入り口側を防衛室1、後ろを防衛室2と呼称しよう…などと考えていると防衛室2で、スケルトン隊が訓練しているのが目に入ってきた。
「構えよ!」
スケサンが指示を出すとスケルトン・ソルジャーたちが一斉に盾を構えた。
「突けっ!」
一斉に剣を突き出すソルジャーズ。
「鋭く、鋭く! もっとだ!!」
剣を突き出し続けるソルジャー達にスケサンが喝を入れる。
「構え!」
ソルジャーたちは再び盾を構える。
「いいか、技巧は要らぬ。盾で防ぎ、剣で突け。」
ソルジャーの盾を、スケサンが鞘に納めたままのロングソードで突く。
よろめくスケルトン・ソルジャー。
「馬鹿者! 腰を入れよ!」
ほう、なかなか本格的だな。
……訓練は続く。
暫く見学していると、スケサンが休憩を指示した。
スケルトン・ソルジャーたちは心なしか、ぐったりしている気がする。疲れ知らずのアンデッドなのに不思議だ。
俺はスケサンに声を掛けた。
「精が出るな。」
「うむ、ただ剣を振り回すだけでは児戯だ。威嚇以上の効果は無い。
剣先は研がねば鋭くならぬ。」
「俺の時はいきなり実戦だったろ」と抗議をする。
剣すら無かったじゃねえか。
「虎に爪の使い方を教える必要があるかね?」
さらり、とスケサンは涼しい顔で答えた。
その様子にイラッと来た俺はスケサンに嫌みを言う。
「そう言えば、スケサンは4匹、俺は5匹だ。」
倒したゴブリンの数を誇ると「言うことよ」とニヤリと笑うスケサン。
「さて、もうひと扱きといこう。」
スケサンは訓練に戻る。
最近、骨の表情が読めるようになってきた気がするな。
訓練の様子を眺めているうちに俺の武器を出そうと思い付いた。
さすがにシャベルはノーサンキューだ。
やはり日本刀かな……と検索するとDP1800もした。高すぎる。
ちなみに最上位の日本刀(大業物)はDP7200だ。剣1本で7200だと!? そんなもん買うならスケルトン・ソルジャーを7人の方がいいだろ。
仕方ないので、似た感じのカットラスという幅広の曲刀をDP500で生み出した。ショートソードくらいの片刃の曲刀。なんとなくフック船長が持ってそうなアレだ。
剣帯もセットで付いてきたので腰から吊るす。
……これだけでなんだか強くなった気がする。
俺は結構長い時間をかけて、鞘から抜いたり納めたりと練習を重ねた。
………………
日がすっかり落ちた頃、大量の侵入者が現れた。
※主人公がマリーとジョシュアに優しいのは、家族に会えないストレスへの代償行動です。




