お人好しすぎるでしょ
まさか、本当に桐生くんと同じ傘に入ってるなんて思いもしなかったな。
2人きりだっていうのに、さっきから足元を見て何にも話さないし、これだとすごく気まずいじゃん。
(いくら心の中で訴えても、桐生くんが気さくに話しかけてくるわけないか……。仕方ないな)
「ねぇ、桐生くん」
「ん? どした?」
「あのさ、なんで傘持ってなかったの?」
「なんでって、俺が朝家出る時は雨降ってなかってん。だからいけるかなと思ったら、途中から降り始めたんよな」
「折り畳み傘くらい入れときなよ」
そんなことを言いながら、ふと思い出す。
(そういえば上田くんが、桐生くんは普段から折り畳み傘持ってるって言ってた気がするけどな……)
「覚えてたら入れとくわ」
「それ、絶対入れないやつじゃん」
(まぁ、忘れることぐらいあるか)
そうしてまた沈黙が訪れる。
会話って、こんなに続かないものなの? どうしよう、いったい次は何を話そうか……。
「なぁ」
意外にも、次に沈黙を破ったのは桐生くんの方だった。
「なに? どうかした?」
「いや、そのさ……傘入れてもらってるわけやんか。だから、ちょっとでもお礼をと思ってな」
(桐生くんがそんなこと思ってたなんて……)
「いやいいよ、お礼なんて! 別に大したことしてないから」
「人の好意は素直に受け取るものなんやろ? そこの自販機で、なんか好きなものでも買いや」
「ほんとにいいって!」
「買うって言ってんやから、大人しく好きなもの選んだらええやろ」
「……わかった、ありがとう」
言ってること優しいのに、なんでこんなに偉そうなのよ。もうちょっと愛想よくできないわけ?
そうして歩いているうちに、すぐに自販機の前にたどり着いた。
「それで、どれにすんの?」
「じゃあ、このジュースがいい……。でも、ほんとにいいの?」
返事の代わりに、鋭い眼光が飛んできた。
「じゃあ、これ買うぞ」
「うん」
そうして財布からお金を出してくれる桐生くん。
その拍子に、財布からレシートが落ちたみたいだった。
「あ、これ落としたよ」
「……あ、ありがと」
渡しつつも、なんとなく何を買ったのか見てみる。
そこには今日の日付と、『傘』を買ったことが書かれていた。
「えっ?」
「なんや、なんか見たか?」
「いや、だって……なんで傘買ってたのに……」
「買ってないな」
「いや、レシートあるのに買ってないはさすがに無理があるって! その傘どうしたのよ」
桐生くんはよくわからない抵抗を諦め、素直に白状することにしたらしい。
「……あげた」
「えっ? あげたって、誰に?」
「誰なんやろな、名前とか知らんから」
「そんな人にあげちゃったの?」
「そりゃ、ちっちゃい子が雨の中傘ささずに歩いてたら、あげよかなって思うやろ。」
「いや、渡してあげたいけどね」
まさか本当にあげちゃうとはね……。
なんとなく気になったので、もう一つ聞いてみることにした。
「あのさ、桐生くん。折り畳み傘、本当に今日忘れただけなの?」
「そうに決まってるやろ」
一瞬言葉に詰まってから、少し上擦った声で答える桐生くん。
「……ちょっと、嘘が下手すぎない?」
「いや、嘘ちゃうって!」
「いいじゃんか、別にそんなこと隠さなくたって!」
「ほんまにめんどいわ……!」
頭をかきながら、桐生くんは観念したように吐き捨てた。
「あのな、もともと折り畳み傘持って登校してたわけよ。それで、傘持ってない子がおったからその子にあげた。これでいいか?」
「いや、でも買った傘もあげたんだよね?」
「そうやで」
「えっ……?」
「何を戸惑ってんねん」
(そりゃあ戸惑っちゃうじゃん……!)
「どういうこと?」
「だから、まず俺が折り畳み傘を持って登校してた。そこでちっちゃい子が傘をささずに歩いてたからその子にあげた。それで、そのあともう一人傘持ってない子がおったから傘あげようと思ったけどなかった。だから、コンビニに買いに行った。これでわかったか?」
「うそでしょ……?」
「うそやったら、わざわざ隠そうとしてなかったやろ」
「そこまでやってあげるんだ……。さすがにお人好しすぎじゃない?」
「だから言いたくなかってん。普段のキャラが崩れるからな」
「そんなことしてたら、風邪ひいちゃうよ?」
「大丈夫やって。じゃあ、そろそろここら辺でいいよ。家、すぐそこやから」
「わかった……。じゃあ、風邪ひかないようにね」
「うん、ありがとう。気をつけて帰りや、ばいばい」
「ばいばい」
そう言って、少し照れくさそうに手を振る桐生くん。
(まさか桐生くんの本性が、こんなに優しい人だったなんて……! あーもう、意外すぎるよーー!!)




