反応してくれてもいいじゃんか
(そうだ……桐生くんに、上田くんの恋の協力をしてもらおうと思ってたんだ)
そう意気込んだものの、席に座る桐生くんは相変わらず全身びしょ濡れだ。
(……桐生くん、機嫌が悪いのかどうなのかわかりにくいよね。こんなに濡れてるんだし、今話しかけるのはやめておこうかな……)
そう思って引き返そうとした、その時だった。
「一ノ瀬柚葉、俺になんか用あんのか?」
「ひやっ!?」
いきなり名前を呼ばれ、あまりの急さに戸惑ってしまう。
(えっ、いやあの……あまりに急なことだったので戸惑ってしまう……!)
「あんだけ俺のこと見てたんやったら、なんかあるんやろ。言ってみろや」
「い、いや、あのね……! 絶対誰にも言わないでほしいんだけど……上田くんが北川さんのこと、好きみたいなんだよね」
「ふーん。で?」
(……まだ話してる途中なんだけど! ちょっとくらい待ってくれてもいいじゃんか!)
素っ気ない態度に心の中で毒づきながらも、本題を伝える。
「その、だからね。二人で上田くんの恋を応援しない?ってことを言いたくて……」
「あー、そうか」
(あれ……? 意外と素直に協力してくれるの……?)
そう思ったのも束の間。桐生くんは心底だるそうに息を吐いた。
「じゃあ、あの阿呆に言っとけ。『自分のことは自分でどうにかしろ』ってな」
(……もうほんとに、なんなのよ!!)
バッサリ切られて撃沈する。
(もういい! わたしだけでなんとかしよう……)
「……そうか。ごめんね、機嫌悪いときに話しかけて」
「……別に機嫌は悪くないねん。ただ、だるいだけで」
(それを機嫌悪いって言うんじゃないの!?)
喉まで出かかったツッコミを必死に飲み込み、苦笑いを浮かべた。
「じゃあ……体調崩さないように気をつけてね」
「おん」
素っ気ない返事を聞き届け、わたしはそのまま北川さんの席へと向かった。
「ねぇ、北川さん」
「ん? どうしたん、柚葉ちゃん?」
笑顔で振り返る北川さんを見て、思わず心が和らぐ。
(やっぱり、桐生くんとは全然違うなぁ……)
「あのね、ちょっと聞きたいことがあって……」
「なんでも答えたるで!」
「北川さんって……どんな人が好きなの?」
至って普通に尋ねたつもりだった。けれど、沙耶ちゃんは一瞬目を丸くしたあと、大声で笑い始めた。
「あっははは! いや、ごめん! まさか転校2日目でいきなり恋バナ仕掛けられるとは思わんくてさ!」
「えっ、あ、ごめん……っ」
「ううん、嬉しい! 柚葉もちゃんと距離詰められるんやな〜!」
思いがけない反応だったけれど、これなら聞き出せそうだ。
「ええよ、教えてあげる! ……ただし、先に柚葉のタイプを教えてや?」
「えっ、わたしの!?」
「当たり前やん! なんで自分のは言わんと教えてもらえると思ってんの〜?」
悪戯っぽく笑う北川さんに押し切られ、抵抗も虚しく白状せざるを得ない状況になってしまった。
「わたしのタイプは……えっと、優しい人……かな。少しの変化にも気づいてくれて、周りを大切にできる人」
口に出しながら、なんだかすごく恥ずかしくなって顔が熱くなる。
「へー! ありきたりやけど、すごくええと思うよ!」
(人のせっかくの勇気をありきたりだなんて……!)
心の中で泣きそうになりながらも、なんとか耐える。
「で、北川さんは……?」
「うんとね、うちはねー……」
クラスでも誰とでも仲良くて可愛い沙耶ちゃんが、一体どんな人を好きになるんだろう――。




