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宝を盗みに来た——この町では住人が帰宅後に消える  作者: アグ


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謎の契約書

コピー機を使ってバレるなんて……

初歩中のミスだ。


「久城さんが契約書を手に入れたのは知ってます。」


俺は視線を外さず、木浦に向ける。


「木浦さんは――なんで、久城さんの指で判子を押させたんです?」


木浦の視線が、わずかに泳ぐ。


……露骨だな。


「正直に答えてください。警察じゃありません」


わざと、柔らかく言う。


「だからこそ――隠す意味もないはずです」


捏造だったとしても。

こっちだって、胸を張れる立場じゃない。


木浦は頬を掻いた。


目を逸らしたまま、小さく息を吐く。


「……それはっすね」


間が空く。


「契約者の書類、間違えて……シュレッダーにかけちゃって」


苦笑い。


軽く言ってるが、内容は軽くない。


「データはパソコンに残ってたんで、書き直したんですけど……」


そこで、言葉が一瞬詰まる。


「ハンコ、持ってなくて」


俺は、わざと何も言わない。


――それだけか?


そんなミスで、わざわざ“他人の指”を使うか?


「嘘なら――もう少しマシな嘘を言った方がいいんじゃないですか?」


石井の声は、静かだった。


だが、逃げ道を塞ぐには十分だ。


……その通りだ。


指紋を使わせた理由があるはずだ。

ただの書類ミスで済む話じゃない。


「本当なんですって」


木浦は、少しだけ声を強める。


だが、目は合わない。


「そうですか」


俺は頷く。


あえて、引く。


「じゃあ――会社には、どう説明したんです?」


間を置かず、次を刺す。


「久城さんの名前は?」


木浦は一瞬だけ黙った。


それから、肩をすくめる。


「さっき言ったとおりっすよ。間違えてシュレッダーにかけたって」


そう言いながら――


視線だけ、久城に向ける。


「もちろん、コイツの名前は出してない」


軽い言い方。


だが、その一言が妙に重い。


俺は、二人を見た。


久城は何も言わない。


否定もしない。


――おかしいな。


庇う理由があるのか?

それとも、もう“共犯”か。


聞けば聞くほど――


辻褄が合わなくなっていく。


脅すのは柄じゃない。


……けど。


「木浦さん――失踪事件のこと、知ってますよね?」


木浦は、ゆっくり頷く。


「もちろんだ。町の奴らはみんな知ってるさ」


当たり前の返答。


だからこそ――


「俺」


視線を、外さない。


「――あの家に住んでる、宮田です」


空気が、止まった。


木浦の目が、はっきりと見開かれる。


今までとは違う反応だ。


「自己紹介、してませんでしたよね」


わざと、淡々と続ける。


「で――久城さんは、今」


少しだけ視線をずらし、横を見る。


「俺に巻き込まれてる側です」


沈黙。


さっきまで軽口を叩いていた空気が、消える。


木浦は、何も言わない。


いや――言えない、か。


――ここからだ。


この言葉の意味は、一瞬で理解できたはずだ。


「じゃ、じゃあ……」


木浦の声が揺れる。


俺は、そのまま逃がさない。


「このままなら――あなたも同じ側に見られますよ」


淡々と告げる。


「巻き込まれるかもしれない、じゃない。巻き込まれます」


車内の空気が変わる。


重さが、一気に沈む。


「そうですよ。話さないと――殺されるかもしれませんよ?」


石井の声はやけに落ち着いていた。


横を見ると、口元がわずかに上がっている。


……楽しんでるな。


「わ、分かった。本当のこと言うから」


あっさりだ。


拍子抜けするくらいに。


「実は……いい話があるって言われて、株を買わされたんだけど」


借金か。


「失敗して、大金が欲しくて」


木浦はそう言って、久城を見る。


視線が露骨だ。


……肩代わりか。

それとも連帯保証人にして逃げる気か。


どっちでもいい。


まともなやり方じゃない。


「久城さん」


視線を向ける。


「その人とは、縁を切った方がいい」


本心だ。


「これが嘘でも本当でも――信用できる相手じゃない」


契約書をコピーして、転勤になってる


それだけで十分だ。


少なくとも――


地主と繋がっている線は薄い。


久城は、話についていけていない。


顔を見れば分かる。


石井が、それを拾う。


「つまり、久城さんを借金の肩代わりにしようとしたんですよ」


分かりやすく噛み砕く。


親切だ。


後ろから声が上がる。


「え!おい!仁、マジかよ!」


反応が早い。


……隙だらけだな。


俺なら、今のやり取りだけで十分だ。


財布の場所も、金の流れも、全部抜ける。


「木浦さん」


視線を戻す。


「いくらですか」


逃げ道は作らない。


「久城さんに、なすりつけるつもりだった額」


木浦は黙る。


視線が落ちる。


――大きいな。


少なくとも、軽く言える額じゃない。


株の借金か。


俺はハンドルを切り、人通りの少ない道へ入る。


逃げ場を減らす。


「300万ですか?」


最初は低めに打つ。


反応を見るためだ。


木浦の口が重くなる。


視線が落ちる。


「そ、そうだ……そのぐらいだ」


即答しない。


声も弱い。


――外したな。


「嘘ですね」


木浦が口を閉ざす。


分かりやすい。


「じゃあ……500万ですか」


肩が跳ねる。


目が泳ぐ。


当たりだ。


山道に入る。


人の気配はない。


バックミラーで後部座席を確認しながら、車を窪みに滑り込ませる。


目立たない。外からも見えにくい。


こういう場所は都合がいい。


エンジンを切る。


音が消える。


シートベルトを外し、そのまま振り返る。


木浦を見る。


逃げ場は、残していない。

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