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宝を盗みに来た——この町では住人が帰宅後に消える  作者: アグ


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プロローグ

コソ泥。


そう聞けば、まともに働けない人間を思い浮かべるだろう。


でも俺は違う。


仕事は真面目にやっているし、

上司とも同僚とも問題なくやれている。


給料だって、同年代の中じゃ悪くない。


それでも——盗む。


居留守の家に入り、

鍵の甘い店を見つけては、売上を抜く。


金に困っているわけじゃない。

盗んだ金にも手はつけていない。


それでもやる。


理由か。


あるとすれば——快感だ。


見つかるか、見つからないか。

その瀬戸際に立っている瞬間が、たまらない。


捕まったところで、大したことにはならない。

金を積めば——終わる話だ。


盗んだ金は、封筒に分けて保管している。

どこで何を盗んだかも、ちゃんと分かるようにしてある。


最近は、そんな生活にも飽きてきた。


最初はあったはずの快感も、スリルもない。


気づけば——

盗むこと自体が、ただの作業になっていた。


そうは言っても、


銀行強盗や大きな店を狙うほどの度胸はない。


あくまで、手の届く範囲でやっている。


そのくらいの線引きは、できている。



俺は、新たな刺激を求めた。


パソコンを開き、掲示板で「宝」と検索する。


いくつか流し見た中で、ひとつの投稿が目に止まった。


◇◇◇

ある海辺の町に伝説の宝があるみたいです。

私も探しに行きましたが、見当たりませんでした。


町の人に聞いても「知らない」の一点張りです。


ですが、市役所の案内には

光り輝く宝石があると記載されていました。


本当にないのでしょうか?

※情報求

◇◇◇


コメント欄を開く。


並んでいるのは、冷やかしばかりだ。


その中に——ひとつだけ、浮いているものがあった。


◇◇◇

僕はこの町に住んでる者です。

伝説の宝は存在します。

誰も持ち帰る事ができない宝です。

◇◇◇


短い一文。


それだけだ。


「持ち帰れない宝ってなんだよ。」


……誰も相手にしていない。


だが、引っかかるのはそこじゃない。


市役所の案内に、光り輝く宝石。


そんなものが本当にあるなら——


隠せるはずがない。


俺は町の名前を検索した。


公式ホームページを開き、掲示板にあった文言を探す。


しばらくスクロールすると——それは見つかった。


『この町には、古くより伝わる宝がある。

それは光を宿し、見る者の心を奪うという。

だが、その在り処を知る者はいない。』


……伝承、か。


これを見て本気にする奴が、どれだけいるのか。


「なんだコレは。こんな情報、頼りになるかよ」


思わず、独り言が漏れた。


よく分からない伝承を一通り見て、俺はパソコンを閉じた。


信じていないからだ。


……とはいえ。


もし本当なら、少しくらいは楽しめるかもしれない。


最近のマンネリも、多少はマシになる。


だが——


一日やそこらで見つかるような話じゃない。


距離もあるし、俺は普通に仕事をしている。


わざわざ時間を割くほどの価値があるとも思えなかった。


画面はもう暗いままだ。


それでも——


頭の片隅に、あの文言が残っていた。


ベッドに横になり、目を閉じる。


海辺の町にあるという「宝」を、ぼんやりと想像した。


本当に宝石の類なら——


見つけてしまえば、拾うだけで済む話だ。


店から盗むより、ずっと楽だろう。

警察だって、そう簡単には動けない。


……悪くない。


そんなことを考えながら、天井を見上げる。


「明日……職場で調べてみるか」


あの町に、異動できる部署がないか。


そこまで手間でもない。


それで何もなければ——それで終わりだ。



次の日、俺はいつも通り出勤した。


デスクに座り、ルーティンのチェックをこなす。


一日の流れを確認するこの作業は、もう体に染みついている。


——下調べは、何においても重要だ。


思いつきで動かないのは、コソ泥も同じだ。


準備を終えたところで、ふと思い出す。


昨日の、あの町のことを。


俺は社内システムを開き、拠点一覧を検索した。


この会社は規模が大きい。


地方の町でも、ひとつくらいは部署がある。


あとは——あるかどうか、それだけだ。


画面をスクロールしていく。


拠点一覧の中に——その町の名前があった。


……ある。


一度、スクロールを止める。


もう一度確認する。


間違いない。


そのまま、異動申請のページを開いた。


手が少しだけ早い。


必要事項を埋めて、送信する。


——やってから気づく。


早すぎた。


直後、上司に呼ばれた。


申請画面を見ていたらしい。


「突然どうした? 何かあったか?」


視線が、妙に鋭い。


……焦りすぎた。


こんな動き方は、普段の俺じゃない。


「すみません。先に相談しようと思ってたんですが……手が滑りました」


軽く頭を下げる。


「何だ? 何かあったのか。嫌がらせでもされてるのか?」


思ったより真剣な顔だった。


「いや、そういうのはないです。ただ……」


少しだけ言葉を選ぶ。


「最近、都会にいるのに疲れてきて」


上司の様子を窺う。


特に怒っている感じはない。


「海でも見ながら、ゆっくり暮らしたいなって思うようになりまして」


少しの間、沈黙が落ちる。


上司は腕を組んで考え込み——やがて表情を緩めた。


「宮野、いくつだったか……三十五、だよな?」


俺は小さく頷いた。


「はい、そうです」


上司はテーブルを指で軽く叩く。


一定のリズム。


考えている時の癖だ。


やがて動きが止まり、肘をついて手を組んだ。


「……よし」


視線がまっすぐ向けられる。


「指導で行ってもらおう」


一瞬、言葉の意味を測りかねた。


「指導……ですか?」


「ああ。あそこの部署、実績があまり良くないんだ」


淡々と続ける。


「お前が行って、立て直してくれ。様子を見る意味でもな」


なるほど、と頭の中で整理する。


「それで——」


上司は少しだけ表情を緩めた。


「気に入ったなら、そのまま異動届を出せばいい」


口元がわずかに緩むのを、自分でも感じた。


すぐにそれを引き締めて、深く頭を下げる。


「ありがとうございます」


顔を上げた時には、いつもの表情に戻っていた。


——これでいい。


仮に『宝』が空振りでも、戻る理由はある。


無駄にはならない。


「来月からでいいな。引き継ぎ、ちゃんとやれよ」


「はい」


短く返す。


上司には、本当に恵まれていると思う。


……まあ、それはそれとして。


俺の中では、もう次のことに意識が向いていた。


海のある町。


伝説の宝。


来月から、そこに行く。


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