表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101(ワンオーワン)   作者: 叢雲弐月
101人目の魔境王
449/518

孤児院を12

 イザークは、シンロクと一緒に子供達の後ろで話を聞いていた。この場で一番びっくりしていたのは、彼だ。


「いったいいつの間に…。」


 デニスが黒騎士を目指しているなど、彼ははじめて聞いた。あまりにも思いがけないことであっただけでなく、弟の野望めいた目標に驚愕させられた。


 近頃ずっと、デニスが黒騎士の後をついてまわり、憧れの眼差しで見つめていたことは知っていた。この年頃の子供が騎士に憧れるのは、ごく当然のこと。弟の行動も、子供ならではの憧れだとばかり思っていた。


 だが、ここで、誰に聞かせても恥ずかしくない、自分の誇れる目標として、デニスは大っぴらに自分の野心を語った。だからといって、本当に黒騎士になれるかどうかは疑問だ。


 確かに黒騎士の中にも平民出身者はいる。たとえ、目標として目指すとしても、これが青騎士なら、まだ可能性は大きいと思える。青騎士のほとんどは平民出身者だ。


 しかし、黒騎士はかなり狭き門だ…。イザークは知らず、身体に力が入り、手を強く握り締めていた。


 いつも兄である自分を不安そうに見上げ、雛鳥のように後をついてまわった、幼い弟。あのデニスは、もうどこにもいない。


 目の前には、これから孤児院で暮らすことになる子供達に対し、堂々と自分の意見を言い、皆を指導しようと先頭に立つ弟がいる。イザークは、苦笑した。


「全く…。これじゃ、どっちが兄だかわかったもんじゃない。」


 何もかもを取りあげられ、弟の為と心に言い聞かせながら、その実、この弟がいなければ自分は上の学校に行けていたのに、と心のどこかで恨んでいた自分がいる。もちろん、面と向かって何かを言ったことはない。けれど、弟は敏感に自分の気持ちをくみ取っていた。


 その、揺れるような眼差しに、イザークは少なからず怒りを感じていた。弟に心配される、情けない兄。苛立ちと、ひがみと、何もかもがうまくいかない状況、失ったものは大き過ぎて、もう二度と両親のいた時のように幸せな気持ちにはなれないのだ、と思っていた。


 ところが弟は、今という、信じられないほどの未来を手繰り寄せてきた。あいつには、きっと強運の星がついている。


 未来などない。今日と似たりよったりの相変わらずの日々が永遠に続く。運命などという言葉とも無縁だ。そう思っていた自分に、今日、という全く新しい日と生き方をもたらしてくれた。


 ブックを取り戻すことができたのも、上の学校に行けることになったのも、弟のおかげ。今でも朝、目覚める度、イザークはブックの手触りを確かめないではいられない。


「あいつなら、できるのかもしれない。俺も負けてられないな。」


 弟が黒騎士を目指すというのなら、少しでも彼の助けになるよう、自分も頑張らなくてはならない。しっかり勉強し、将来はカーデュエルの神社で働く。陛下はカーデュエルをとても大事にしている。そこで自分が重要なポジションを築き、弟をバックアップする…。


 今まで、こんな風に未来のことを考えたことはなかった。どれだけ考えてもどうしようもない、とあきらめていたのだ。野心や野望があっても、それをかなえるには身分や金が絶対必要だ。そのどちらも、自分にはないものだ。踏みつけられて当然だった。


 それは現在も変わらない。イザークはただの平民にすぎず、金も持っていない。


 しかし、決定的に違うものがあった。カーデュエルの主の後見、そして新しい王の存在。弟が黒騎士を目指すというのなら、自分はどうすべきか…。


 イザークは、自分にできる精一杯の力でできることをしよう、と密かに心に誓った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ