孤児院を10
「ったく、なんで俺らがお前の言うことを聞かなきゃなんねぇんだよ。威張るんじゃねぇよ、田舎もんが。」
話しあいをしろ、と華に言われたペトル兄弟は、早速孤児たちを集めて話をすることにしたものの、のっけから難航していた。
部屋の中にはシンロクとイザークもいたが、彼等はただ見ているだけのオブザーバーだ。そもそも、シンロクが子供達の世話をするのは、彼等がドームの中にいる間だけ限定。イザークも、そのうち王都に行ってしまう人間だ。彼等の問題は、なるべく自身の手で解決できるようにしなければならない。そのため、話しあいの行方がどうしようもなくならない限り、シンロク達が口を出すことはない。
「ちょっと、あんた。デニスは王様の作る孤児院の話をしてんのよ。あたし達はみんな、王様の孤児院で暮らすんだから。」
「うっせぇ、俺らは他に行くとこねぇんだから、しゃーねぇだろ。王様は確かに俺らにおまんま食わしてくれっけど、それとこの田舎もんとはかんけーねぇ。」
斜に構える少年に対し、デニスはすっかり慣れた様子で話しかける。
「関係あるよ。だって俺は、陛下に頼まれたんだ。俺達の住む孤児院は特別な孤児院になるから、お前達の手本になってくれって。」
「ハッ、俺達の手本だぁ?俺達がなんで田舎もんの真似をしなくちゃなんねぇんだ。」
「礼儀も言葉使いもなってないからだよ。お前、金が欲しいだの何だの言ってるけど、そんな言葉使いや態度で、どこかで雇ってもらうつもりなの?それじゃ、誰も雇ってくれない。
それでなくとも孤児ってだけで、嫌がられることがあるのにどうする?そんな調子で、どうやって金儲けをするんだ?」
「うるせぇよ。お前に関係あるのかよ。」
「関係あるよ。新しい孤児院に行けば、色んなことを勉強することになる。俺が陛下に他の子の手本になれと言われたのは、挨拶とか言葉使いとか、お前達よりちゃんとできるからだ。
俺に注意されたくなければ、俺よりちゃんとできるようになればいい。俺がお前に注意したのは、それが俺の仕事の一つだったからだ。
ただでさえ、俺達には孤児っていうレッテルが張られているんだ。貧乏ってのは、いやなものだ。金がなければ、食べていけなければ、俺達は死んじまう。
俺の兄ちゃんは魔力量が多くて、学校で最優秀をもらうほど頭がいい。だけど、俺達は親をなくして伯父さんに引き取られ、兄ちゃんは上の学校に行かせてもらえず伯父さんの店でこき使われ、給金ももらえなかった。
魔力量が多ければ給金はいいはずなのに、兄ちゃんは持っていたブックも滅茶苦茶にされたあげく、稼いだものだって取りあげられた。
誰も俺達を助けてくれなかった。俺達が伯父さん家でどんな扱いを受けているか、近所の人はみんな知っていた。それでも、ただ気の毒そうな顔をするだけだった。
俺達がひどい扱いをうけても、学校に行けなくても、全部全部、親がいないから仕方ないねって言われるだけだった。
しつけがなってない、言葉使いが悪い、金がない、酷い格好している、あいさつもろくにできない、全部全部、親がいないから仕方ないねって…。
俺はね、そいつらをみんな見返してやりたい。あいつらみんな、俺達に同情するような顔はするくせ、誰一人として助けてくれる人はいなかった。
そんな俺達にちゃんと手を差し伸べてくれたのは、カーデュエルの主様と陛下だ。陛下は俺の話を聞いてくれて、兄ちゃんを上の学校に行けるようにしてくれた。
卒業したらカーデュエルの神社で働いてくれって言われている。神社はカーデュエルの役所だ。陛下のおかげで、俺の兄ちゃんはブックを取り戻し、上の学校に行って役人になるんだ。
わかるか?親のいない貧乏人が、役人になるんだぞ。
だから俺は決めた。陛下に恩返しをするんだ。俺はこれから勉強して、陛下の為に働く。新しい孤児院は勉強に力をいれて、成績がよければ上の学校に通わせてくれることになってる。
俺は上を目指し、黒騎士になる!」
突然の宣言に、周囲は驚きをかくせない。
「黒騎士だって?お前が?」
「無理だろ!お前みたいに弱っちぃやつがなれるわけない。」
口々に否定されても、デニスはひるまなかった。
「だから勉強するんだ。俺は確かに力が強いわけじゃない。でも、黒騎士には文官もいる。俺は黒騎士に直接聞いたんだ。どうやったら黒騎士になれるかって。
黒騎士になるには条件がいくつかある。魔力量が多いこと、魔法が得意であること、剣技がうまいこと、勉強ができること。
この全てを満たすことは簡単じゃない。でも、黒騎士に選ばれるにはどれかに特化している人でもいいって言われた。何かで一番になれたら、それが一番の早道だって。」
「本気かよ…。」




