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扉の向こうは異世界でした〜平日は会社員、土日祝は異世界で冒険者(三年限定)〜  作者: みのり


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王都へ出発、託された荷物

 王都へ向かう当日。


 まだ空が白み始めたばかりの時間に、俺は目を覚ました。静かな朝だ。森の中は風の音と鳥の鳴き声くらいしか聞こえない。


 軽く伸びをしてから身支度を整え、偽装用のリュックを背負う。見た目は普通の旅人の荷物だが、本当に大事なものは全部別に保管してある。こういう世界では、用心しても損はない。


「さて……行くか」


 ログハウスの扉を開けて外に出た瞬間――


「……おはよう」


 そこには『鉄の斧』のメンバーが揃っていた。


「おはよう。……どうしたんだ?こんな朝早くに」


 全員がいるということは、ただの見送りではないな。


「王都に行くって手紙が飛んできてな」


 バレンがそう言いながら、こちらに一つの荷物を差し出してきた。


「道中にルーシャって街がある。その街に住んでる鍛冶師に、これを届けてほしい」


 受け取った瞬間、ずしりとした重みが腕にかかる。


 ……重いな。


 見た目よりも明らかに重量がある。中身はおそらく――鉱石か何かだろう。鍛冶師に届ける荷物としては、それが一番しっくりくる。


「ルーシャの鍛冶師……名前は?」


「フィリオ。工房街にいる。ルーシャじゃ知らねぇ奴はいねぇってくらい有名だ」


「距離はどれくらい?」


「ここから徒歩で二日ってとこだな」


 王都までの道中にあるなら、ついでに寄るにはちょうどいい。


「分かった。届けてくるよ」


 俺は荷物をリュックに収めながら続ける。


「日が落ちる頃には戻るつもりだけど、何か伝言は?」


「いらねぇ。その荷物を見りゃ分かるはずだ」


 ……相変わらず説明が雑だな。


 まあ、信用されてるってことにしておくか。


「了解。じゃあ、行ってくる」


 軽く手を振り、俺は森を後にした。


 ――この時の俺はまだ、この荷物がどれだけの意味を持つのか、理解していなかった。


 ⸻


 ――バレン視点――


 まさか、大賢者の孫が現れるとはな。


 あいつが現れた時のことを思い出すと、今でも少し笑える。


 俺たち『監視者』は、地上に降りてくる神々を監視する存在だ。


 天界では末端扱いだが、地上では違う。


 創造神様、魔法神様、武神様――その次に位置するのが俺たちだ。権限もそれなりに与えられている。


 神々は地上に降りるとき、その力の大半を封じられる。


 だが、それでも人間より遥かに強い。


 そして、たまにいる。


「自分が特別だ」と勘違いする神が。


 そういう連中を処理するために、俺たちは存在している。


 あの日、創造神様から「異物が入った」と報告を受けて森に入った俺たちは、フォレストウルフの群れに囲まれていたあいつを見つけた。


 普通なら助からない状況だ。


 だがあいつは、妙に落ち着いていた。


 話を聞くために人目につかない場所へ連れて行くと――


 あいつは、何もない空間から家を出した。


 あの時点で確信した。


 普通じゃない。


 そして語られた内容。


 大賢者が残した扉。


 異世界からの来訪者。


 本来なら排除対象だ。


 だが創造神様は、あいつに三年の猶予を与えた。


 どちらの世界で生きるか、自分で選べと。


 そしてその監視役に選ばれたのが、俺たちだ。


 ……正直、面倒だ。


 だが命令は命令だ。


 仕方なく街まで連れていき、冒険者登録をさせ、生きる術を教えた。


 普通なら街を拠点にする。


 だがあいつは違った。


 森の奥に家を出し、結界を張り、そこで生活を始めた。


 理由を聞けば――


「宿代がもったいない」


 ……現実的すぎるだろ。


 だが結果として、金は効率よく貯まっているし、誰にも干渉されにくい。


 合理的ではある。


「行ったわね」


 ナターシャが、あいつの去った方向を見ながら言う。


「気づくと思う?」


「どうだろうな」


 俺は腕を組みながら答える。


「気づかなきゃ、それまでの奴だ」


 今回あいつに渡した荷物。


 中身はミスリル鉱石だ。


 希少で、魔力伝導率が極めて高い。


 扱える鍛冶師はほとんどいない。


 そして届け先。


 ルーシャの鍛冶師フィリオ。


「あの人、鍛冶神様だものね」


 ナターシャがくすりと笑う。


 そうだ。


 あの鍛冶師は神だ。


 創造神様が用意した試験。


 あいつがどこまで見抜けるか。


 そしてどう動くか。


「ルーカス」


「はいよー」


「お前が追え。何かあればすぐ報告しろ」


「了解っす」


 軽い返事だが、腕は確かだ。


「俺たちは戻るぞ」


 俺たちは森を出て、拠点の宿へ戻る。


 外から見ればただの一軒家。


 だが中は別物だ。


 カウンターにいる女は人形だが、受け答えは完璧だ。


「今帰った。変わりは?」


「特にございません。お部屋に水晶と報告書を」


「分かった」


 部屋に入り、水晶を手に取る。


 これであいつの位置と状態は把握できる。


 しばらくは依頼も受けない。


 鍛冶神様と接触するまでは、目を離すわけにはいかない。


「さて……」


 あいつはどこで気づく。


 荷物の重さか。


 鉱石の質か。


 それとも――


 鍛冶神様本人か。


 どれにせよ。


 ここからが分岐点だ。


 あいつが選ぶ未来。


 それを見届けるのが、俺たちの役目だ。


 俺は水晶に映るその姿を見つめながら、静かに息を吐いた。

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