予定外は、旅の一部
翌日。
前回と同じ時間に、ララとナタリーを迎えに王城へ向かうと――やっぱりというか、前回と同じく門の前で二人が待っていた。
「お待たせ、二人とも」
軽く手を上げる。
「じゃあ行こうか。今回も前と同じで、一度ログハウスに転移して、そこからラスターネに向かう」
「分かりましたわ」
ララが頷き――
「あら……?」
不意に、奏太と琴音をじっと見る。
それにつられて、奏太と琴音も「ん?」と首を傾げた。
「ララ?どうかした?」
「あ、いえ……」
少し迷うようにしてから口を開く。
「気のせいかもしれませんが……ソウタさんとコトネさん、前回お会いした時と、どこか違うような気がして……」
「え?」
俺も改めて二人を見る。
……うん。
確かに。
顔は変わってない。でも、なんというか――
「雰囲気、か?」
言葉にするとしっくりくる。
なんか、空気が違う。
「俺たち、何も変わってないけど?」
奏太が首を傾げる。
琴音も同じ反応だ。
……いや、でもこれは。
小声で二人に近づく。
「たぶん、昨日の件じゃないか?」
「昨日……ああ」
「あー……なるほどね」
二人とも納得した顔になる。
こっちに残る決断をしたことで、何かしら変化が出てるのかもしれない。
魂的な何かとか、そういうやつ。
詳しくは分からんけど。
「まあ、気のせいじゃないか?」
とりあえず、ララたちには軽く流す。
「日本の仕事でちょっと疲れてただけかも」
「そう、ですか?」
ナタリーが少し心配そうに見る。
「ああ、大丈夫」
笑って返す。
「むしろこっちの生活の方が癒しだし」
「それならよろしいのですが……」
完全には納得してなさそうだけど、深くは聞いてこなかった。
助かった。
◇
いつもの場所まで移動し、ログハウスへ転移。
ひとまず一息ついたところで、前から考えていたことを切り出す。
「あ、そうだ」
みんなの顔を見る。
「ちょっと提案なんだけどさ。フェンに乗って、俺だけ先にラスターネ近くまで行ってさ、そこに転移して、みんなを呼ぶってのはどう?時間短縮になるし、危険も減ると思うんだけど」
「おお、なるほど」
奏太が腕を組む。
「確かに合理的だな」
でも、すぐに苦笑した。
「……たださ」
「ん?」
「せっかくなんだから、色々見てみたいって気持ちもあるんだよなー」
「あー」
分かる。
めちゃくちゃ分かる。
琴音もこくこく頷いている。
「私としては」
ナタリーが口を開く。
「ララ様を危険に晒さずに済むので、そちらの案を推したいのですが」
さすが護衛、現実的だ。
「でも」
ララが少し楽しそうに笑う。
「私もソウタさんと同じで、この目で色々見て回りたいですわ。それに、簡単な護身術くらいはできますし。ナタリー、いざとなれば逃げられますよね?」
「可能ではありますが……」
ナタリーは少し困った顔をする。
「できればその状況にはなりたくありません」
……まあ、そりゃそうだ。
「じゃあ、フェンにも聞いてみるか」
俺は軽く目を閉じる。
『フェン、ちょっといいか?』
すぐに返事が返ってきた。
『なんだ』
『これから遠出するんだけど、護衛として来てもらえたりする?』
『構わんが、どこまでだ』
『ラスターネって街。ここからだと徒歩で最短十七日くらい』
少しの間。
『ふむ。我に乗れば三日。無理をすれば明日の昼には着くな』
……相変わらず規格外だな。
その内容をみんなに伝えると――
「却下!」
奏太が即答した。
「早すぎる!」
「旅感ゼロになるだろそれ!」
「まあ、分かる」
俺も苦笑する。
「じゃあ普通に歩きで行くか」
「危なくなったらフェン呼ぶってことで」
全員一致で決定した。
◇
「今日は時間的に、隣の街までだな」
地図を確認しながら言う。
「着いたら人目のないところでログハウスに戻ろう」
「了解」
「はい」
「分かりましたわ」
そんな感じで出発。
森を抜け、街道へ出て、ラスターネ方面へ歩く。
途中、特に大きなトラブルもなく――
というか、普通に平和で。
ちょっと拍子抜けするくらいだった。
日が傾き始めた頃、人目のない岩陰を見つけてログハウスへ転移。
翌日は夜明け前に同じ場所へ戻り、再び移動。
そんな感じで、数日。
「……なんか、順調すぎないか?」
ふと呟く。
「それ、フラグじゃね?」
奏太が笑う。
「やめろって」
「言ったら来るやつじゃん、それ」
……いやほんとに。
◇
結果。
フラグは、しっかり回収された。
日本とこっちを行き来しながら移動を続けて、約二週間。
「明日には国境の街だな」
そんな距離まで来たところで。
問題が発生した。
立ち寄った街で、情報収集のついでに軽く観光していた時のこと。
「え?封鎖?」
思わず聞き返す。
「はい」
情報屋らしき男が頷く。
「国境の街で感染症が流行してましてね」
「現在、完全封鎖中です」
「……まじか」
「しかも」
男は肩をすくめる。
「国境を越えるための手続きは、その街でしかできないんですよ」
「なので、越境して仕事していた冒険者や商人が、今かなり困ってますね」
周りを見ると、確かにそれっぽい人たちが頭を抱えている。
「うわぁ……」
奏太が顔をしかめる。
「タイミング悪すぎだろ」
「ほんとに……」
琴音も同意する。
ナタリーはすでに状況を整理している顔だ。
ララは少し不安そうに俺を見る。
「どうなさいますか?」
「……どうするも何も」
頭を掻く。
「とりあえず、情報集めるしかないな」
感染症、ね。
どんな病気かも分からないし。
下手に突っ込むのも危険だ。
「それにしても」
空を見上げる。
「何も起こらずスムーズに行きたいって思ってたのにさ」
「見事にイベント発生したな」
「だから言ったじゃん、フラグだって」
奏太が笑う。
「笑い事じゃねえって」
とは言いつつ。
少しだけ口元が緩む。
……まあ、これも旅か。
面倒だけど。
「よし」
気持ちを切り替える。
「まずは情報収集」
「場合によっては、別ルートも考える」
「了解」
「はい」
「分かりましたわ」
さて。
次はどう動くか。
――どうやら、今回の旅はもう少しだけ賑やかになりそうだ。
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