火龍と会いました④
「よし、じゃあ獣人さん達の用事はおしまいね?」
火龍はにこやかにそう言う。
「しかしどうにかすると言われても……。」
当然だがドルフは納得していなさそうだ。
「大丈夫よ、心配しないで。ちゃんと集落は守ってあげるからお姉さんに任せなさい!」
「う……、うむ……。」
胸を叩いて自信ありげな火龍に、何も言い返せないドルフ。
「その代わり、上手くいったらちゃんとお礼はしてもらうからね~?」
「……わかった、私の命くらいなら喜んで捧げよう。」
「要りません。」
ピシャリと断る火龍。
それにしてもドルフはすぐ命を捧げようとする、俺が死んだら死ぬとか言ってたしな。
「悪いのだが金銭はあまり用意できない、獣人族は狩りで暮らす者が殆どなのだ……。」
「お金なんかもっと要らないわよ? 獣人さんの中に凄く珍しい紅茶を作っている人がいるって聞いた事があるの、それが欲しいな~?」
ココノエさんの集めた紅茶の中にあったなそういえば。
あれを選ばなくて正解だったな、それなら俺持ってますよ? とか言ってこの場で出したら価値が下がるところだった。
「そんな物でいいのか? 何人かの変わり者が農耕をしているのは知っているが……。」
「うんうん、それでいいの。獣人さんは勘が鋭い人が多いから、変身して行ってもバレちゃいそうで行けないのよね~。」
まあ得体の知れない何かが突然紅茶を貰いに現れたら警戒するかもな。
「わかった、守ってもらえたのなら必ず用意しよう。私の命に代えても必ずだ、約束する。」
だからすぐ命を差し出すなって。
火龍がどうやって噴火から集落を守るのかは想像もつかないが、とにかく約束はしてくれた訳だ。
もう信じるしかこちらに出来る事はないだろう。
「じゃあ次はアレン君ね。」
こちらを見る火龍。
「ご馳走様、美味しかったよ。」
魚も食べ終わったし丁度いい。
「嬉し~! また焼いてあげるね。」
本当に嬉しそうだ、尽くしたい性格なのか?
「そうだ、忘れてた。話を聞いてもらう前にこれを渡しておくよ。」
俺は鞄の中から持って来た紅茶を取り出して火龍に渡す。
「あら、いい香りがするわね~? どこの紅茶かしら?」
紅茶というのはすぐにわかったんだな、流石千年生きてる紅茶好き。
「それは魔族の国の飲み物で、本来はそこから発酵させてお湯に溶かして飲むらしいんだ。でも発酵前のその茶葉で淹れた紅茶が人間の口に合うそうだよ。」
「へ~! じゃあ早速淹れてみましょうか。」
いそいそとお茶を淹れる準備をする火龍。
道具なんかはちゃんと人間の使っている物を持っているんだな、まあずっと王都を守護してきたらしいし献上品なのかな。
「三つあるだろう? 一つは獣人達からで残りは俺からだ、俺のお願いは二つある。」
「アレン!」
ドルフが俺の嘘に反応したが、別に俺もそんなすぐバレる嘘をわざわざつきたかった訳じゃ無い。
「わかってるわよ~、貴方からも頼むって言いたいのよね?」
にこにこと紅茶を淹れながら火龍は言う。
「うん、そうなんだ。俺と違って死ぬかもしれないのにドルフ達はここまでやってきた、必ず助けてやって欲しい。」
「アレン……」
ドルフは声が震えていた。
少し恰好付け過ぎたかな、でもまあ俺だけお土産ありますなんてのもなあ。
「さあ紅茶が入ったわよ~、獣人さんも飲めるかしら?」
「ああ、少し冷ましてからいただく。」
「冷めても美味しい紅茶だといいわねえ。」
火龍の淹れてくれた紅茶を受け取り、ゆっくり口に含む。
確かに美味い。
「あら、美味しいわねこれ~。ちょっと風味が強すぎる気もするけど好みの問題ね、私は好きかな~。」
火龍も満足してくれたようだ、良かった。
「それで俺の聞きたい事なんだが、後頭部に人間の赤ちゃんみたいな顔が出来る病気に罹ってしまった子がいて……。」
「病気じゃないわよ~。」
火龍はすぐに答えてくれた。
病気じゃない、ときたか。
「やっぱり呪いの類なのか?」
「呪いとも違うわね~、その子寄生されてるわ。」
「寄生だって?」
じゃああれは生きている何かの生き物って事か?
でも手術で切り取ったってレイラが言ってた筈だ。
「そう、その子を見た訳じゃないから絶対とは言い切れないけどね。」
「しかし一度切除した事があるんだ、すぐにまた生えて来たらしいんだが……。」
「じゃあやっぱり間違いないわね~、それは【天使の種】よ。」
「てんしのたね……?」
聞いた事もない名前だ、天使はわかる、種もわかる。
天使の種とは……。
「そうよ~、でも人が信仰しているあの天使とは違うわね、あれは人間の創作物語だから。」
神を信じる人は多い。
勿論地方や国、種族によって様々な宗教があるので一枚岩ではないが、人間の中で一番信者が多いのは全知全能の神と、その使途達の存在を信じるネリモン教。
その天使達の事ではないという。
「もう少し詳しく教えてくれないか?」
俺は姿勢を正して火龍を見据えた。
「そうね~、私の言う天使というのは種族の事なの。遥か昔に絶滅してしまったのだけど、確かに居たわ。」
人間、エルフ、獣人、魔族。
それ以外に天使という種族がこの世界にいたという。
「天使達は強かったの、他のどの種族よりもね。でもその強さに溺れて、自分達で自分達を滅ぼしてしまったの。」
「戦争か?」
「そうよ~、醜い争いを繰り返しその数を減らし続け、最後には世界から消えてしまった……。」
初めて聞く話だ。
歴史学者でも知らないんじゃないだろうか、ドルフ達も聞き入っている。
「天使達は人とは違う方法で増えるわ。異性との生殖ではなく、種を生み出すの。」
それが天使の種、か……。
「その種をどうするんだ? 地面に植える訳じゃ無いだろう?」
「ええ、その種は他の生物の中に潜り込んで根を生やすわ。」
だから寄生と言っていたのか。
しかし寄生された方はどうなるんだ?
「助からないのか?」
火龍は溜息をつく。
「人間では助からないわね。そのままだと種と一緒に成長して、三十年も生きれば種と一緒に死ぬわ。」
死ぬだと……?
「一緒にっていうのはどういう事だ? 天使が生まれる訳じゃ無いのか?」
「そうね、今の世界に居る生き物では天使の種が成長し切れる程の栄養は生み出せないの。」
そういう事か……。
「どうすれば……。」
「龍は別なのよ?」
どういう意味だ?
「龍が天使に寄生されればやがて天使が生まれるわ。」
龍は強大な力を持つからなのか。
「もし寄生されたらどうするんだ? 天使を生むのか?」
火龍は紅茶を啜る。
最悪の答えを覚悟して俺は息を飲む。
ドルフ達も縋る様な眼差しで火龍を見ている。
「竜草の汁を塗れば取れるわよ?」
「え?」
「だから~、竜草の汁を塗ればいちころなのよ。」
なんだったんだろう、俺の覚悟。
「絶対助からない雰囲気だったじゃないか!」
「詳しく聞きたいって言ったのアレン君じゃないの~、私は事実しか言ってないわよ~?」
畜生!




