火龍に会いに行きます⑥
しばらく世界樹の葉を噛みながら洞窟の入り口で星空を眺めていると、背後にドルフが音もなく現れた。
「終わりましたか?」
「ああ、お前にはどれだけ感謝と謝罪をすればいいのかわからない。」
ドルフは俺に向かって深々と頭を下げてくるが、確かに俺じゃなければ結構な問題になりかねないな。
いや、そもそも俺じゃなければここに来る事なんかないのか。
「それは下山してから考えましょう、取り敢えずここは毒が届きますから焚火の所に戻りましょうか。」
焚火の所まで戻ると、俺達に気付いたドルフの奥さんが起き上がろうとしたので止める。
俺が焚火の前に座ると、ドルフもそれを見て奥さんの横に座った。
「まだ名乗ってなかったんですが、俺はアレンと言います。」
「改めて名乗ろう、俺は獣人の王、ドゥルフヴァンシュタイン。こんな格好で悪いが……。」
そう言ってドルフは奥さんの頭に手を置く。
「これが私の妻、ノノだ。」
ノノは喉がやられていて声が出せないのだろう、何とか頭だけ動かして挨拶をしてくる。
「そしてピーニャの両親でもあるわけですよね。」
「ああ、間違いない。」
「で、ドルフ達はどうして龍を探しに?」
俺がそう言うとドルフは目を丸くした。
何か変な事を言ってしまったのか?
「……何か失礼な事聞きました?」
「い、いや、何故ドルフの名を知っているのかと思ってな。ピーニャに聞いたのか?」
そっちか。
そう言えばドルフ自身は名乗ってなかったな。
「いえ、ピーニャもその場に居ましたけど、キイから聞いたんですよ。エルフの女王の。」
「女王殿と知り合いだったか、通りで。」
ドルフは頷いている、合点がいったようだ。
「知り合いというか、一緒に住んでいるので家族みたいなものです。ピーニャを置いているあの町に居ますよ。」
「そうだったのか、ここから無事に帰れたら挨拶をしておかねばな……。」
洞窟の入り口の方を向いて何やら思案しているドルフ。
話が逸れたな、まだ質問に答えて貰ってないぞ。
「そうじゃなくて、何故龍に……」
「火山だ。」
「火山?」
オウム返しをしてしまった。
火龍が溶岩の中に入るっていうのはトビーに聞いたが、何か関係があるのだろうか。
「そうだ、俺達獣人の集落の一つがムパシ山の近くにあってな。このところ山の動きがおかしいのだ。」
ムパシ山が火山という事だろうか。
「噴火の兆候でも出ているんですか?」
「そうだ、これまで静かだった山が時折灰を降らせるようになった。地震も増えている。」
それで火龍なら何かわかるかもしれない、と。
王自ら民を守るためにっていうのが凄いな、下手すれば死ぬのに。実際奥さんは危ないところだったし。
「他の場所に引っ越すのは駄目なんですか?」
「すでに別の集落へと避難はしている。だが、戻れるなら親しんだ地へ戻りたいと考える者がほとんどだ。」
獣人は縄張り意識が強いからな、まあ気持ちはわからない事はないけど。
「わかりました、俺も火龍の所へ行くつもりでここに来たので、その話は俺が伝えます。」
「しかしいくら待っても火龍は……。」
そうだった、ドルフ達はここが巣だと思っているんだったな。
「ここは龍の穴じゃないんですよ、本物が見付からないように火龍が作った偽物です。」
「な、なんだと……?」
嘘つきやがれって顔だな……、無理もないか。
「いや本当なんです、人間の国王から聞きました。静かに暮らしたい火龍なんだそうで。」
何とか辿り着いた目的地が真っ赤な偽物だという現実を突きつけられて、動揺を隠しきれないドルフ。
奥さんの命が危険な状態で十日以上もここで待ってたんだしな、そりゃそうだな。
「夜が明けたらすぐに本物の龍の穴に向かうつもりです。」
「で、では私達も……。」
「いえ、ノノが回復するまでは動かない方がいいでしょうから、ここで待っていて下さい。」
「しかし……。」
今の所俺に借りしかないからか、ドルフは申し訳なさそうだ。
しかしだからと言って連れて行く訳にもいかないし、連れて行ったとしても正直お荷物だからな。
悪いがここで我慢していてもらうのが最善だ。
「とにかく、ノノが死んでしまったら俺もピーニャに合わせる顔が無くなるので待ってください。必ず龍はここに連れて来ますから。いいですね?」
「わかった、何から何まですまない……。」
ドルフは納得してくれたようだ。
気付けばノノは寝てしまっている。
俺も火龍に会う用事が更に増えた事だし、出来るだけ睡眠を取っておこう。
「そういう訳なんで、今日はもう寝ます。話したい事は色々ありますが、お互い無事で下山してからにしましょう。」
「わかった、俺達は最後までお前を信じる事にする。」
俺は横になり壁の方を向いたが、どうもドルフはそのまま火の番を続けるつもりらしい。
寝ろって言ったところで、せめてそれくらいはさせてくれって返されるのが常だ、放っとこう。
着替えもう少し持ってくるんだったな……。




