火龍に会う為の準備をします②
手土産は決まったので、他に必要な物を揃えに町に出る事にした。
サツマタケの毒は熱で無害化するので、着て行った服は帰りに焼却すればいいだろう。
旅の間ずっと着ていた服達とお別れするいい機会だな、金を貯める為に多少ぼろくても我慢してたし。
「ローラン、今日はいつまでいるつもりなんだ?」
「夕食の用意が終わり次第ですね。といっても早めに始めますので夕日が落ちる前には出ますが。」
「わかった、夜は……、いや昼も俺の分は用意しなくていい。」
出来れば昼も夜も食べたいところだがそうも言ってられない。
「畏まりました。他に何かございますか?」
「そうだな、薬と服、あとカーテンが買える店を教えて欲しい。」
「武具は必要ないのですか?」
「滅多に使わないけど一応俺も短剣なら持ってるんだよ、そこそこいい奴。」
「そうでしたか、失礼いたしました。」
ローランは紙とペンをスカートの中から取り出して地図を描き始める。
どこに仕舞ってるんだよ……。
「今思ったけど俺この家で一番弱いな。」
「キイ様の方がお強いのですか?」
「ローランも含めてだけど、闘技場で逃げたら負けってルールにでもしなかったら多分一生引き分けだよ。」
「そういう意味ですか。でも私はそんなに強くありませんよ、師匠の技自体はコピーしてますが実戦経験はあまりありませんから。」
「ナインハルトと闘ったら勝てるか?」
「う~ん……、難しいですが正々堂々とやったら分が悪いですかねえ。」
「十分だよ、俺全然見えなかったから。話が脱線し過ぎちゃったな、取り敢えず買い物に行ってくるよ。」
描き終えた地図を受け取って町へ向かう。
一番近いみたいだしまずは薬屋に行こう、服を焼却したら一応解毒薬も飲んでおかないとな。
死にはしないが毒が抜けるまで倦怠感がずっと続くのが嫌なんだ。
たまに地図を確認しながら気持ち早足で進む。
近いとは言っても結構歩いたな、この辺の筈なんだけど……。
そう思っていると、日の当たらない路地の入口にボロい看板が立っているのが目に入った。
汚い字で【薬あります この奥】と書いてある。
…………大丈夫かこれ?
「薬をお探しですか?」
看板をじっと見つめていると後ろから声を掛けられた。
振り返ると薄汚れたローブを着た小さな女の子が立っている。
「うん、この辺に他に薬屋はないよね?」
「は、はい! ……噴水広場の方には、大きな薬屋さんはありますけど、この辺だとうちだけです。」
薬屋さんの子だったか、じゃあ大きい方に行ってみるよありがとう、……なんて言えないよなあ。
10歳くらいかな、頭はフードで隠れてるけど、顔は幼い。
クリっとした目に期待感を込めて俺を見つめて来る、大きな薬屋さんとやらに客を取られて大変なのかな……。なんて想像してしまう。
「……サツマタケの毒に効く解毒薬あるかな?」
「あります!」
まあ、ローランが紹介してくれたんだし、薬は効果があるかどうかが一番だからな。
俺は少女の案内で路地の中へ、少女は時折振り返ってフードを触りながらこちらを確認してくる。
心配しなくても逃げやしないって……。
「俺はアレンって言うんだ、お嬢ちゃんは名前何て言うの?」
「エヌ!」
「エヌか、よろしくなエヌ。お店はお父さんかお母さんがやってるの?」
「おばあちゃん!」
「そっか、エヌはおばあちゃんの手伝いしてるんだね。」
「うん、パパとママが帰ってくるまでおばあちゃんの所にいるの。」
「旅にでも出てるの?」
「うん、私の病気を治す薬を探しに……、あっ、あれです、あれがおばあちゃんのお店!」
娘の病気を治す薬を探しに旅へ? 薬屋が? こうして元気に外出してるし命には係わらないけど珍しい病気、とかなのかな。
疑問は残るが、今日あったばかりの俺がこんなデリケートな話を本人に聞くのもなあ。
相手を殺しかねない好奇心は封じ込めて、俺は黙ってエヌに連れられ薬屋の中へ入る。
看板なんかは出てないけど本当に薬屋なんだろうか。
「おばあちゃん! お客さんだよ!」
エヌの声が薄暗い店内に響く。
古い建物のようで、外観もだが中もボロい。
埃を被った棚だらけだし蜘蛛の巣も張られまくっている。
「おや……、お客さんとね……?」
エヌの声が聞こえたのだろう、奥から老婆が出て来た。
「うん、初めて見るお客さんだよ!」
まさかお客さんが初めて来たという意味ではないだろうが、そう受け取られても仕方ないだろうと思うくらいには、この店は時が止まっている気がする。
「困りましたねえ……、何かお探しでしょうか?」
「ああ、西の山に行くのでサツマタケの解毒薬を探してまして。」
「この時期には行かない方がいいと思いますがねえ……。」
「いやいや、サツマタケの近くには行かないようにはしますけど、ほら、万が一もあるでしょう?」
「そうですか、でもご覧の通りでしてねえ……。最近は薬作りも滅多にやりませんもので……。」
そう老婆が言うと、エヌが不思議そうな顔をして横槍を入れる。
「なんで、ココノエさんに売ってるのがあるでしょ?」
「こら!」
今ココノエさんの名前が出たな、ローランがここを教えたのはそういう事か。
「あ、ココノエさんなら知ってますよ、ローランに教えて貰ってここに来たんです。」
エヌを庇うじゃないけど、咄嗟に怒られてるとこを見るに他人の振りをするのは賢明じゃなさそうだ。
「まあそうでしたか、ローランちゃんの……。これはとんだ失礼を。」
「アレンさんローランお姉ちゃん知ってるの!?」
「知ってるも何も、俺の家で働いてもらってるんだよ。ココノエさんは会った事しかないけど、ハバキ様は友達だよ。」
「レイラお姉ちゃんは?」
レイラってローランの妹だったよな、医者だっけ。
「レイラさんにはまだ会った事ないなあ、俺病気とは無縁だから。」
「そうなんだ、健康なんだね!」
健康とはちょっと違うけどな……。
「サツマタケにはこちらがよく効きますよ。」
エヌのおばあちゃんが出してくれたのは一口で飲み干せそうな量の、黄色がかってトロっとした液体の入った小瓶だった。
「ココノエさんがいつも買って下さるやつでしてねえ、ご自分でお作りになる物より効果が高いと褒めてくださいます。」
「売ってくれるんですか?」
ココノエさんの名前が出てなければおそらくこれの事は隠したままだった筈だ。
何でかはわからないけど。
「ええ、ええ。レイラちゃんにエヌの病気を見てもらう代わりにココノエさん以外に売らない、という約束なので営業しておりませんが、わざわざローランちゃんがここを教えたのなら必要なのでしょう。」
「いや、でも表の通りに看板が……。」
「シーッ!」
エヌが口に人差し指を当てて焦っている。
「またこの子は……、細々と二人で暮らしていける分くらいは蓄えがあるから大丈夫なんだよ……。」
ああ、エヌが書いた看板だったのか、納得。
「だっておばあちゃんのお薬は凄いのに、ココノエさん達しか褒めてくれないから……。」
「馬鹿だねえ……、褒められたり認められたりしたくてやってる訳じゃないんだよ。」
「でも私の病気のせいで……。」
「おまえが気にする事じゃないんだよ……、でも、ありがとうねえ……。」
これ、ローランは間違いなく俺にこの家族に関われって意味で送り込んだよな。




