風呂が沸くまで①
貴族達が帰って行き、残った皆で後片付けを分担して行っていると、トールさんを家に送り届けたナインハルトが大量の薪を背負って帰って来た。
「あれ、どうしたんですか? トールさんを送ったらそのまま帰る筈じゃ……。」
「ええ、そのつもりでしたが……、これが無いと今日の入浴ができないだろうと思いまして。」
そう言いながら薪を下ろすナインハルト。
わざわざギルドに寄って取って来てくれたらしい。
「色々気を使ってもらってすいません。」
「私にはこれくらいしかできないですから。貴族の方々のお持ちになった品々に対して、私は蟲と安価の酒、お恥ずかしい限りです。」
そんな事気にして……、気にする人だよな、この人は。
「気持ちだけで十分ですよ、それに少なくとも今日一番助かったのは蟲ですから。」
「ほうへふほ!」
ふがふが聞こえたので思わず見ると、顔に光蟲を張り付けたローランが腰に手を当てて立っていた。一体どうしてこんな事に……。
顔の光蟲を剥がして頭の上に乗せ直すローラン。
「……何やってるんだ?」
「お庭のお掃除に便利なので、その辺で光っていてもらおうと思ったら懐かれてしまいまして。そんな事より、言っては何ですが貴族の皆様がお持ちになった品、花から彫刻まで色々ございましたがどれもこれも実用的な物はございませんでした。ギルドマスター様のお持ち下さった蟲と、ハバキ様の食材が無ければ今日のおもてなしは不可能でしたね、断言しますよ。」
いや、まあそれは普通に買いに行く時間はあったと思うが。
「さらにその薪、それに関しては完全に忘れておりました。ギルドマスター様がお持ちになって下さらなければ、ここにいる全員が枕を濡らして夜を明かすことになっておりましたよ。」
いやいや、風呂に入れない事ぐらいよくあるから気にはしないが。
というかローランも風呂の事は忘れてたのか、いやまああれだけの料理を一人で作っていたんだしそれは仕方ないか。
「そこまで言って貰えると救われる、ありがとうローランさん。」
子供騙しだけど、しかしナインハルトにはローランの言葉が突き刺さったようだな。
「いいえ、本当の事ですから。では、早速その薪を使わせていただひまふね。」
途中で光蟲がまた降りて来た。それをまた剥がして頭に乗せるローラン。
「その、ちょっとこの子だけは可愛いけど迷惑かもしれません……。」
「そんなに人に懐く蟲も居るのですね……。」
そんなやりとりをしていたら、いつの間にかドレスからいつもの服に着替えたキイが後ろにいた。薪と俺達を交互に見る。
「もしや、風呂に入れるのかの?」
そういえばキイは風呂に入るのを楽しみにしていたな、ナインハルトが薪を持って来てなかったらさぞがっかりした事だろう。
「うん、ナインハルトが持って来てくれたんだ、早速ローランが準備してくれるみたいだよ。」
「顔が蟲で隠れておるが、これは前が見えておるのか?」
また降りて来てるよ。
「はんほはひはふ。」
なんとかします、かな?
「それでしたら私にやらせてください、ダコタで大浴場の風呂焚きをした事なら何度もありますので。」
ナインハルトが笑顔で薪を持ち上げようとする。
「流石にそんな事までさせられませんよ、それより光蟲を剥がす方法を考えましょう。」
「やりたいって言ってんだから、やらせてやれよ。」
庭に出していたテーブルや椅子を片付けていたシヴが、最後のテーブルを担いだまま参加してきた。
「いいじゃねえか、やった事あるっていってんだしよ。」
「いやでもお客さんだぞ?」
「いーんだよ、こいつは遠慮されたり気を使われたりすると疎外感に悩まされる性格だろ、おいナインハルト、熱めに頼むぜ。」
「わかりました、すぐに取り掛かります。では、失礼します。」
「待て待て、案内くらいはしてやるよ。」
笑顔で薪を担ぐナインハルトと、テーブルを担いだシヴが風呂のある方向へ消えて行った。あいつ間違ってテーブル焼かないだろうな。
「さて、片付けもほぼ終わった事じゃし、ドレスの種明かしをしようかの。」
「ああ、そういえばあとで教えてくれるとか言ってたな。」
「まあそんな大層な話でもないのじゃ。屋敷の主しか開けられない場所が何か所かあっての、そこの一つに保存されていたのじゃよ。おそらく以前ここに住んでいたエルフの物じゃろうの。まあ実際にみせてやろう。」
「そんな仕掛けまであるのか。それを何でキイが開けられるのかは追々聞くとして、その前に……。」
ローランをチラっと見る。
諦めたのか顔が蟲に覆われたままのローラン。目は見えないが目があった、気がした。
「蟲はきちんと縄張りを作ってやればよいのじゃろう? その部屋でもお主の部屋でも良いから、取り敢えず剥がして縄張りを認識させてくるのじゃ。」
「ほうひはふ。」
そうします、と言って自分の部屋に帰って行くローラン。
トビーとハバキ様はまだ帰ってはいない。少し二人で話したいというので、適当に部屋の鍵を渡したのだが……。まさか他人の家で変な事をするような人間ではないと信じたい。
しかしあの二人の迎えの予定は聞いていないので、どのタイミングで呼びに行ったらいいかもわからないし、今のところは放置せざるを得ない。
「よし、では地下へ行くとするのじゃ。」




