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不死者の町人生活  作者: 旬のからくり
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剣聖の旅②♦

 森でハバキとアレンを見送ってからは、シヴは独り止まる事無く走り続けていた。

 時には凶悪な魔物に襲われることもあったが、涼しい顔で斬り伏せていく。

 山を越え谷を越え、西の山でアレンが火龍と相対する頃にはすでに三分の一程は来ていた。

(おっ、もうティオか。予定より随分早ぇな。)

 シヴは水路で囲まれた中規模の町を山の上から見下ろした。

 ティオの町は商業が盛んで、各地から商人が足を運び商戦を繰り広げながら発展してきた。

 当然買い物目的で訪れる者も多く、張り巡らされた水路の美しさで観光地としても人気が高い。


(時間の余裕はあるし飯でも食うか。)

 エルフの国まで走り続ける予定を変え、町で食事をすることにしたシヴ。

 山の斜面を駆け降り、水路沿いを町の入り口まで続く商人たちの馬車の最前列へ走った。


 水路に掛かる巨大な橋、渡った先には大きな門。

 馬車は荷物の検めがあるので検問を受けなければならないが、観光客は簡単な荷物検査だけでその横の小さな門から侵入することが出来る。

「よう、ちょっくら飯食いに寄ったぜ。」

 シヴは門番の男に声をかけた。

「何だその馬鹿でかい剣は?」

「俺の相棒だ、文句あんのか?」

 以前立ち寄った時は剣の事について触れられる事は無かった。

 それもそのはず、その時は他の町のギルドで発行した通行許可証をアレンが持っていたのだが、シヴはそれを知らない。


「そんな物持って入れるわけが無いだろう、許可証はあるのか?」

「ねーよんなもん。」

「じゃあ通す訳にはいかん、入りたければ剣をここに置いて行け。」

 預ければ通す、という門番の言葉に、一瞬素直に応じそうになったシヴだったが、すぐに思い直す。

 大金が飛び交うこの町は、必然盗み等の犯罪も多い。

(もしこいつが盗まれでもしたら、あいつに会わす顔がなくなっちまわあ。)


 元々寄り道する気は無かったのだしと、諦めて先に進もうと思った矢先、シヴに声を掛ける者が現れる。


「シヴ様? シヴ様ではないですか!」

「ん? お! オサモンじゃねーかまだ生きてやがったのか!」

 オサモンと呼ばれた男はこの町を取り仕切る実力者で、お飾りでしかない町長に変わってティオの町を発展させてきた。

 本当はモンという名なのだが、モンの部下が【長・モン】と呼んでいるのを聞いたシヴが勘違いして、それ以来アレン達からはオサモンと呼ばれている。


「懐かしいですねそう呼ばれるのも。今日は何しにこの町へ?」

「たまたま通りがかったからよ、飯でも食いに寄ったんだがこいつがケチくせえ事言って入れてくれねーんだわ。」

 シヴは門番を指差す。

 門番は慌ててオサモンに言う。

「モン様の知り合いの方ですか?」

「ああ、前々回の闘技大会の優勝者だ。その時以外は参加すらしていないが、歴代のどの優勝者でもシヴ様に勝つ事は出来ないだろうな。」

 怒らせると命の保証はないぞ。オサモンは暗に、そう門番に伝える。

 勿論シヴがそんな真似をしない事はオサモンも重々承知だが、少しからかってやろうと思いついたのだ。


「し、失礼しました!」

 門番はすぐに壁に背を付け、シヴの為の道を開ける。

「おう、なんかわりーな。」

「いえ、彼が真面目に仕事に取り組んでいる事が分かりました。むしろ通していたとすれば一生下働きですよ。」

「まーな。しかしおまえさん相変わらず胡散臭ぇ格好だな。」

 オサモンはモノクルを常につけていて、偽物の宝石などはすぐに見破る鑑定眼も持っている。

 ゆったりとした蒼い服を腰の革ベルトで絞っており、逆恨み等で命を狙われる事も少なくはないので、自衛の為にと鎖帷子のコートを羽織っていた。

 

「シヴ様が私の用心棒になってくれたら、こんな物着る必要も無いんですがね。」

「めんどくせーよ。」

 この町で行われる様々な催し物も、殆どはこのオサモンが企画し、実行してきたものだ。

 世界中から腕自慢が集まる闘技大会も勿論そうである。

 オサモンは闘技大会の優勝者や、良い成績を収めた者を勧誘して自分の身辺警護に当たらせていた。


「食事をしたいと言ってましたね、そこに新しく出た屋台が凄く美味いんです。どうです?」

「お前さんのそういう所は好きだぜ、奢りだよな?」

「勿論です。」

 オサモンは町を牛耳る実力者でありながら、飾らない。

 高級な物が嫌いな訳ではないが、気に入った物なら何でもいいという考えなので、金はあるが貴族の様な暮らしはしていない。

 シヴより少し歳の若いこの男を、シヴは気に入っていた。

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