第6話 豬突豨勇 ④
突然ですが、この話をもってしばらく更新を停止させていただきます。
理由は多忙な訳ですが、現在の予定では2019年の4月から再開する予定です。
「ところでお仲間さんは?」
俺は受注登録をしながら、隣に立つ女剣士・ゼスタがずっと一人なことへの疑問をぶつけてみた。
パーティを組んでいる人間がギルドに一人であるというのは珍しい。
まあ、ただの雑談だけど。
「ん? ああ、みんな寝てるよ。アタシら夜のクエストだから」
『夜のクエスト!?』
エロ弟子が何か強い反応を見せたが、たぶん、というか絶対お前の想像は外れているぞと言ってやりたい。
それにしても夜のクエストか、やっぱり上級パーティは違うんだな。
「ちなみに何のクエストですか?」
「北に古城があるだろ? あそこの雰囲気が怪しいから調査してくれってさ。それも夜だって。霊でも住み着いちゃったかな」
それは冗談なのか、そこそこ本気の考察なのか、どっちなのだろう。
元の世界なら冗談だとして笑えるのだが、この世界なら霊くらい居てもいい気がする。
結局正解が分からなかったので、ベクトルを逸らす方針で。
「ゼスタさんは寝なくていいんですか?」
「うはっ、ゼスタさんってむず痒いな! もっと砕けてよ」
ゼスタは両手で自分の身体を抱え、ぶるっとその背中を震わせた。
そんなに嫌なのか。さすがに年上の女の人にタメで馴れ馴れしく話すことははばかれていたが、そこまで言うなら気をつけてみよう。
「で、寝なくていいのか、だっけ。アタシ飲まなきゃ寝れないんだよね。でも一人で飲むってのも寂しいだろ? だから誰か探してたんだけどさー。どう?」
突然の飲みの誘い。まったく油断も隙もない人だな。
「ごめんなさい。クエスト前で」
「うはっ。まじめだなー。でも嫌いじゃないよ。体調管理も大事だもんな!」
真面目も何も、実はまだ一滴も飲んだことないし、そもそも今朝の惨劇を見た上で『よし、飲もう!』と言えるほど酒にハマってないし肝も据えてない。
というか今朝のアレを見てまだ一時間程度なのに飲むやつが居たらそいつの神経を疑うわ。
……と、心の中でだが、噂をすればなんとやら。
「お待たせー」
ミストたちがやってきた。よかった、シルヴィアも元気そうだ。
「お。お仲間来ちゃったか。じゃあアタシは他を当たるわ! 飲みはまた今度ってことで!」
「はーい、調査頑張って!」
「お互いに!」
そんなやり取りにを交わすと、そのままゼスタは去っていった。なんだかんだ良い人だったな。
「今の人ってもしかしてゼスタちゃん!?」
年上も一切関係なくちゃん付けしているシルヴィア。女の子の世界ってそんなものなのか?
「そうだよ。掲示板見てたら話しかけられた」
「相変わらずフレンドリーなんだな」
エルヴァの口振りからすると、やはり普段からああいう感じらしい。
強いパーティに在籍していてフレンドリーってすごいな。
「ね、何の話してたの!?」
「一緒に飲もうって誘われたけど、酔って起きれなくなったら大変だから断ったところ」
思いがけぬ攻撃にビクリと肩を震わせるシルヴィア。かわいいやつめ。
「……それで、別の人に声かけまわってるのかな」
「そうじゃないかな。あの人なら綺麗だし面白いしですぐに誰か……」
ミストがゼスタの去った方向を見ながら呟いたので、それを拾いながらどんな人に声をかけているのだろうかと目をやってみると……その相手、まさかの受付嬢。
この世界は街のナンバーワン剣士が一緒に朝から飲むのが普通なのだろうか。
……いや、他の三人の呆然とした顔を見るに、どうやら違うらしい。なんだあの人。
「そ、それはそうと、何かいいあったか?」
若干引きずって動揺気味のエルヴァが強引に話を引き戻す。
「うん。星4だけど、コレ」
「……正気か、ミラ」
俺は依頼の紙を見せたのだが、なにやらお気に召さなかったらしい。
なんだろう。何がダメだったのだろうか。
「おいミラ、難易度4以下って言っただろ?」
「え? だからそうしたじゃん。はら、星4つ」
「あー……」
俺の返事を聞いたエルヴァが頭を押さえた。
なんだ、なんだというのだ。気になるから早く教えてほしい。
「あのな、危険度と難易度は別物なんだ。危険度はモンスターの個体に遭遇した時の遭遇者への危険の度合い。難易度は、クエストをクリアする難しさだ。で、これの難易度は6な」
そんな区別があったのか。紛らわしいな。
「え、でもアレに負ける冒険者は稀って言ってたけど」
「ああ、負けるヤツは稀だろうな。だが、勝つヤツも多くない」
……は? 意味が分からん。
「どういうこと?」
「だから勝てないし負けない相方ってことだ。チョトツキユウは攻撃力も防御力もけっこう高い。ただ攻撃パターンが単純すぎて、まあその攻撃をマトモに食らうヤツは居ない。だからステータスに反して危険度が低めに出る」
な、なるほど。なんともややこしいモンスターだな。今度から気をつけよう。
「とりあえずキャンセルだな」
「ちょっと待って」
キャンセルの意見には俺も賛成だったのだが、我らがイケメンヒーローのミストがストップをかけた。三人の視線が自然にミストのほうへと向く。
「どのみち負けない相手ではあるし、受けてみるのはどうかな。キャンセル代もあるし、きっとこの他になかったんだよね?」
「う、うん。後は高難易度ばっかりだった」
「だったら他にやることないしね」
まあ昨日贅沢もしたし、ここで帰って寝るだけじゃぐうたら生活になっちゃうしな。
それにミストの活動資金だっていつまでももつわけじゃない。
「……それもそうか。幸いうちにはすっごい魔法使いが居るしな」
「ちょ、ちょっと待って。まだそれ引っ張る……?」
「たしかに! ミラちゃんすっごいもんね!」
「あぐぅ……」
悪気のないシルヴィアの追撃にきっかけを作ったエルヴァが思わず吹き出した。
なんで俺はあの時、調子に乗ってしまったのだろうか。後悔してもしきれない。
なんだか出鼻を挫かれた気分だな。
それでは、よいお年を。