第6話 豬突豨勇 ③
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「お前さ、明らかにお前の出番じゃないところででしゃばってくるのやめてくれない?」
『な、なんですか! ちゃんと説明して怒られるなんて理不尽です!』
「それを言うなら普段からまじめにやれよ」
絶賛セイン説教中。
もちろん、アイリスとハモった件である。だがセインは悪い意味で物怖じせず。
『まじめで思い出しましたが、ミラちゃん魔王軍幹部を撃退したって本当ですか』
「お、おい。ツッコミが追いつかないから、ゆっくりボケてくれ」
『なんですかそれは』
確かに我ながら変なことを言ったとは思うが、そこにすかさずツッコんでくるのはなんか腹立つな。
『それより、私の知らないところで撃退しちゃったんですか? 素直にすごいです。やっぱり私の的確な指示があってこそですね』
「おい、今『私の知らないところで』つっただろ。いつお前が指示出したんだよ」
『誤魔化さないでください』
こっちのセリフだよ。
『いつ倒したんですか。私は女神の弟子ですから、知る権利があります』
「勝手に倒すな。あと弟子がえらそーにすんな」
『ツッコミはいいですから、早く教えてください』
「お前がボケんな。……フィオナの件は完全に勘違いだよ」
『フィオナを倒したんですか!?』
お前、本当に話進める気あんのか。
俺は一刻も早く【ディスペルフォース】をかけて逃げたかったが、『真面目』というワードで思い出される以上、たぶんこの後も永遠に聞かれ続けるので、辛抱することに決めた。
「だから勘違いだって言ってんだろ。根も葉もない噂だ」
『ああ、ただの噂でしたか。……ちなみにどうしてそんな噂が流れちゃったんですか?』
やっと理解してくれたか。俺は少しの感動を感じていた。やっぱり人間話せば分かるんだな。
「あれだよ。お前も見てただろ? 前のフィオナとの戦い」
『……? でもあれは倒していないじゃないですか』
……そうは問屋が卸さない、か。そういえばこいつ人間じゃないな。
「お前、勘違いの意味分かる?」
『それなりには』
頭が痛くなってきた。こりゃダメだな。もう適当に終わらせよう。
「とりあえず俺は魔王軍幹部は倒しちゃいない。あの噂は嘘。いいな?」
『……分かりました。そこまで言うなら』
どうしてここまで言わなきゃならないのかは俺も知りたいところだが、とりあえず誤解は解けたと思うのでこれで流すことにする。
というかセインとバカなやり取りをしているうちにだいぶ歩いていたようで、もうギルドが目の前にまで迫っていた。俺はそのまま中へと入る。
ここは酒場として冒険者が集まる場でもあるのだが、今はテーブルを囲む冒険者はそう多くはない。みんなおそらくクエストに出ているのだろう。
どうやらこの世界の冒険者は基本的に金がないらしく、ほぼ毎日稼ぎを得たいそうだ。元の世界なら自転車操業とでも言うのだろう。
そもそも職業柄簡単に死ぬせいで貯金という概念がほとんどないらしい。
そうなると依頼を受けることになる訳だが、受けりゃいいって話じゃない。自分の身の丈に合い、それでかつ報酬がいいのが理想だ。となれば、こんな遅い時間にノコノコとはやってこない。
そういう訳で、掲示板にも手ごろなクエストはもう残っていなさそうだ。
「や、クエスト探し中?」
「うわぁぁっ!?」
やっぱり手ごろなものなんて残ってないな、と掲示板を見ていると、突然ボンッと手を置かれて思わず肩を揺らしてしまう。驚くなという方が無理な話だ。
しかしその犯人は一切悪びれた様子を見せずに。
「ごめんごめん。驚かしたつもりはないんだ。アタシはゼスタ。剣士やってるよ」
「ぐ、剣士……!?」
「そ。剣士。すごいっしょ?」
ゼスタと名乗ったその女性は、ニカッと白い歯を見せながら、冒険者カードを突き出してくる。
そこには確かにそう書かれており、並ぶステータス値もなかなか高い。
『見惚れるのもいいですけど、早く名乗り返さなきゃ失礼ですよ』
唐突に聞こえたそのセリフ。一瞬理解が追いつかなかったが、どうやらセインが俺に向けて発したらしい。
おそらくセインが初めて役に立ったことに、今度こそ軽い感動を覚えながら冒険者カードからゼスタに視線を戻した。
「ごめんなさい、つい……。私の名前は――」
「ミラ、だよね。聞いてるよ、魔王軍幹部を撃退したって」
あー……。またその話か。
思わずそう思ってしまった俺はきっと顔を引きつらせていたのだろう。ゼスタがまた楽しそうに笑った。
「あはは! ごめんごめん。その顔だと聞かれ飽きたって感じかな? 分かるよ、やってもないことで勝手に騒がれるの」
ああ、なんかこの人、エルヴァと似た匂いがする。
……って待てよ。今聞き捨てならないことがあった気がする。
「やってもないことって、何で知ってるんですか?」
「おっと、アタシには敬語不要だから。……うーん、自慢になっちゃうけど、街で一番実績を残してるパーティにはその街のギルドの情報をもらえるでしょ? だから、ミラ……ミラちゃんって呼んだ方がいい?」
「ミラで」
「本当はミラが撃退したわけじゃないってこともね」
なるほどな。理由は分かった。
正直そんな制度があったのか、と驚きたいところだが、これは常識みたいだし、知っている風にしておいた方がよさげかな。
しかしなんとも複雑だ。誤解を解く手間が省けたのはうれしいが、騒ぎ立ててもらえないとなるとそれはそれで何か寂しいな。
「で、邪魔しちゃったね。クエスト探してるんだよね?」
そういえばそうだった、と忘れていた本来の目的のために再び掲示板に目をやる。
しかし、さっきも見たところだが、やはり手ごろなものはない。難易度4以下か……。
「チョウトッキュウってなんだ……?」
「チョウトッキュウ?」
一つだけ、難易度が4のクエストを見つけたのだが、そのモンスターの名はまったくもって聞き覚えがない。
さらに隣のゼスタも知らないようで、首をかしげながら俺の指差す紙を見る。すると、ああ、と声を漏らして。
「チョトツキユウ、のことかな?」
「チョトツキユウ?」
ゼスタの訂正を受けて改めて見てみると、確かに俺の読み間違いだったようだ。
いや、でも結局知らんな。
「チョトツキユウ? ってどんなモンスターなんですか?」
「敬語はいいってのに。チョトツキユウってのは、四足歩行の獣型だね。ただただ真っ直ぐ突進してくるだけのモンスターだよ」
「? それだけ?」
「うん。あれに負ける冒険者は稀だろうね」
何だそれは。何でそんなヤツが星4なんだ。
まあいいか。エルヴァの条件にも合ってるし。これで行こう。
「え、それにするの?」
「え、そうですけど……狙ってました?」
「いや、アタシらはもう違うの受注したから問題ないけど……」
じゃあ何で驚いたんだろうか。
もっと強いモノにしろ、ということかとも思ったが、それを勧めてくる気配もない。
ま、いいか。とりあえずこれにしよう。
今日の18時から連載が始まった恋愛小説の方もよろしくお願いします。




