『ホトケが知らぬ』
疲れ果てたアッシュはリリアからの知らせを待ちながら『シュック・ハック』を探す事にした。
取り敢えず路地裏から表通りに出ようと出口へと進む。
ザッザッザッ。
アッシュは摺り足でダルそうに歩く。
路地裏の出口に差し掛かろうとした時、アッシュは声をかけられた。
「そこの青年よ、けーきはどうかね?」
アッシュは声の主を探す。
路地裏から表通りに出る角の壁際に一人、黒フードを被った老人?が机を置いて椅子に座っている。
アッシュは力無く答える。
「景気??今しがた財布を盗まれたとこだよ。良いとは言い難いね。」
…………………………
………………
……
妙な間が開いた後に老人が
「それは災難じゃったな。」
と答えた。
アッシュは(何だったんだ今の間は。)と思いながら老人をじっと見る。
「青年よ、そこに座りなさい。」
老人は自分の対面席をアッシュに勧めた。
「何だよ、何する気だよ。」
「そなたを占って差し上げようと思ってな。」
「占うだ?爺さん何者だよ。」
「ホトケ。」
「ホトケ?何だいそりゃ??」
(「放っとけ」って言ったのか??)
「全てを見通す眼を持つ者。」
「全てを見通すだと?」
(怪しさ満点だな。)
アッシュは疑いの目で老人を見る。
「そなた、先程財布を盗まれたと言っておったが、持ち金を全部盗られたという訳では無いな??」
「何でだよ。財布ごと盗られたんだから全部だろ。」
「左の靴の中に予備の金貨を数枚入れておるな。」
(ッ!!!)
「何故それを。誰にも言った覚えは…………。」
「どうかね?座る気になったかね?」
アッシュは考える。
(そう言えば、前の村にも剣の声が聞こえるとか言う爺さんが居たな。)
(この爺さんもそういう類いのアレなのか??)
(確かに、前の爺さんの時にはこのドラゴンキラーを貰ったんだ。)
(今回も何か有るかも知れない。)
アッシュは暫く考えた後、
「分かった、良いだろう。」
と言って老人の対面席に座る。
すると、早速老人はアッシュの顔をじっと見る。
「う~ん。」
「そなたの身近に居る人物………………何か企んでおるな。」
「企むって…………何をだよ。」
「はて、ぼんやりしていてハッキリはせんのだが…………良い事か悪い事か………………何か企てている映像が見えおる。」
(ぼんやりって…………全てを見通すんじゃなかったのかよ。)
「むむっ!そうか…………そなたは………………。」
「何だよ。俺が何なんだよ。」
「そなた、人探しをしておるのか。」
「人探し??そ、そうだよ。俺は親父を探してるんだ。爺さん、俺の親父を知らないか?」
「知っておるとも。」
「ホントか!?」
「あぁ、ワシには見えとる。そなたの親父さんが誰なのか。」
「前回の来魔を鎮めた勇者じゃ。そなたはその息子じゃったか。」
(…………………………???)
アッシュは一瞬考える。
「イヤ、爺さん。『親父を知らないか?』ってそ~ゆ~意味じゃない。」
「人探ししてんだから、『親父の行方を知らないか?』って事だよ。」
「知らぬ。」
「えぇっ!!全てを見通す眼は!?」
「う~む。正確には見えんのだよ。だが、居なくなる直前までそなたと一緒におったのではないか?」
アッシュはギクリとする。
確かに親父は自分の目の前で消えた。
(この爺さん、あながち適当を言っている訳でも無いのか。)
「爺さん、他には?他に今後俺に関わる重大事項は??」
「知らぬ。」
(……………………またかよ。)
「だが………。」
老人がポツリと言う。
「だが?」
「探し人は最終的に見つかる。そう出とる。」
「そうか。ありがとな、爺さん。で、お代は?」
「結構。そなた財布を持っておらぬのだろう?」
「だが、見抜かれた通り予備の金貨なら数枚。」
「そうか。では……………………」
老人は少し間を置いてからこう言った。
「私の後ろの建物。とある店なんじゃが。」
老人は自分の背後の壁を親指で差した。
「その店で『X』と言う商品をお買い求めなされ。」
「商品、エックス??」
アッシュは怪訝な顔をして商品名を復唱した。
老人に言われるがまま、アッシュは建物の裏側に回るとすぐに店の入り口があった。
アッシュは店のドアを開け、中に入る。
チリンチリン。
ドアの上部に付いた鈴が軽やかな音で鳴る。
「はぁ~い、いらっしゃい。」
アッシュを出迎えたのは目鼻立ちのハッキリしたエプロン姿の快活な女性だ。
「はい、どれにしましょうか?」
どれ、と聞かれ何の店だかも分からず入店したアッシュは戸惑う。
アッシュの目の前にはショーケースが有った。
アッシュはショーケースの中身をサッと見通す。
そこには色とりどりのお菓子が並んでいた。
(お菓子屋さん………………か?)
アッシュは再度、ゆっくりと商品を見渡す。
が、そこに商品名のプレートに『X』と書かれた物は無い。
「すいません。」
アッシュは小声で店員の女性を呼ぶ。
「はい。お決まりですか?」
「あの………………、エックスと言う商品は有りますでしょうか?」
「エックス。」
そう呟いた女性の耳がピクリと動いたのが分かった。
「まぁたお爺ちゃんね。あなた、お店の裏で占い師みたいな格好した老人に声かけられたでしょ。」
「え?あ、はい。」
アッシュは反射的にそう答えた。
「もぅ、仕事もしないで毎日毎日。」
女性は誰に言うでもない愚痴をこぼす。
「分かったわ、あなた少しここで待ってて。すぐ用意したげるから。」
そう言って女性は店の奥へと消えて行った。
待つ事5~10分程だろうか、女性が店の奥から戻って来た。
その手の上の紙皿には何やら黄金色の円盤が2枚重なっている。
「ほら、これが『X』よ。持って行きなさい。ゴメンなさいね紙皿で、ウチ持ち帰りしかやってなくて。」
女性店員は微笑みながら謝った。
アッシュはじっとその『X』なる物を見て訪ねた。
「な、何ですか、コレは?」
「ウチのお爺ちゃんがレシピを開発したホットケーキよ。」
「ホ…………ホトケケーキ??」
アッシュの耳にはまだ「ホトケ」の音の余韻が残っていた。
「ホットケーキよ、ホットケーキ。」
女性店員は再度商品名を告げる。
「お代は要らないわ。お爺ちゃんにそう言われてるから。」
「ホント、ウチのお爺ちゃんたら仕事もしないで毎日何やってるのかしら、ねぇ?」
言いながら女性は目を大きめに開いて、アッシュに問う様なサインを送る。
「さ、さぁ。占いみたいな事はしてましたけど………………。」
アッシュは女性の視線に圧され、質問に答えさせられた。
だが、答えながらアッシュの脳裏にあの老人の第一声が再生されていた。
(『そこの青年よ、けーきはどうかね?』)
(『けーきはどうかね?』)
(『ケーキはどうかね?』)
アッシュはそこでハッと気付く。
もしかして、あの老人は客引きをしていたのか???
だがアッシュは女性店員に「お爺さん、(客引きの)仕事してましたよ。」とは告げなかった。
店を後にしたアッシュはもう一度老人にお礼を言おうと路地裏へと回ったが、
そこに老人の姿はもう無かった。
不思議に思い、またお店の入り口へと向き直ったが……………………
そこには壁があるばかり。
入り口も、お店すら無くなっていた。
何かしらの痕跡すら残っていない。
アッシュは夢でも見ていたのだろうか……………………。
ただ、アッシュの手にはホットケーキという現実だけが残っていた。




