005:社畜、スマホを諦める
世界が改変できたら普通はどうします?
チートで無双? ハーレム生活? 大金無双!
ここにいるのはチートを手に入れるのを拒否し続ける社畜
今日もまた佐藤匠海による、自身の心の絶対的平穏を勝ち取るための戦いが始まる
たっぷり3秒はフリーズしていたかもしれない
「山南:スマホの電源入れてよ。佐藤匠海。」
再度同じメッセージが表示され、我に返る。
何だこれは、山南なら一昨日倒れて病院送りになってる。
このメッセージの送信者っていうのは……まさか……。
「山南:勘がいいねぇ。正解だからご褒美にスマホの電源入れてあげるよ。面倒なんだろ?」
そのメッセージが表示されるやいなや、カバンの中から微かな振動音がした。
マジかよ。本当にこいつ電源入れやがった。
背中に冷たい汗が流れるのを感じた。
「山南:キミの会社のシステム良くできてるよ。このアカウントじゃないと入れなかったしね。」
何言ってんだ、こいつ。
「山南:そろそろ面倒だからスマホアプリ開けてくれない?」
なるほど。こいつは例の管理者アプリとやらをどうしても開けさせたいわけか。
そうはいくか。
そっちがその気ならこちらも考えがある。
山南のメッセージを全部遮断する設定に変えれば大丈夫なはず。
何なら山南のアカウントも消してしまえばいい。
どうせ復帰なんかしないだろうさ。
それから俺のスマホはだいぶ古いから最近じゃ電池が半日くらいしかもたない。
放っとけば電源切れておさらばだ。
こうして俺は元通りの平穏な時間を手に入れた。
……はずだった。
◇
平穏な時間が壊されたのは、夕方の一番めんどくさくなる時間だった。
「山南:よぉ。元気か?」
最初何かの冗談かと思った。
昼前に消したアカウントが何故か生き返ってる。
ゾンビかお前は。
「つれないなぁ。少しは相手してくれてもいいじゃないか。」
お前がそう言うのは、例のアプリを使わせたいからだ。そうはいくか。
「あ、そうそう。キミのスマホの電池直しといたから。新品同様にしたからあと24時間は戦えるぜ。」
まさか…そう思ってカバンからスマホを取り出すと信じられないことに電池残量が100%になってた。
何やったんだ?こいつ……。
「キミもアプリを使えばこんなことは朝飯前だぜ」
これはウイルスが電池表示をごまかす何らかのハックだろう。どこかで聞いたことがある気がする。
どうしたって俺にこのアプリを使わせたいんだ。
分かった。そっちがそう来るなら俺は覚悟を決める。
物理で破壊すればこんなわけのわからないウイルスは消えるはずだ。ウイルスはアカウントに紐づく訳じゃないからな。
物理破壊すればどうにもならないはず。
俺はトイレの洗面台に水を張り、スマホを沈めて壊すことにした。
幸いにも俺のスマホは防水に対応してない。古いからな。
スマホの破壊は色々な意味で痛いが、俺の心の安寧を壊されるよりはいい。
ホチャン。
水に沈んでいくスマホの画面に次第に幾筋もの縞模様が入り、最後に黒くなるのを確認した。
物理破壊成功だ。これで俺の平穏が確保できた。
佐藤匠海は自分の平穏のためならスマホの物理破壊も辞さない男です。
冒頭のシーンにいつになったら戻れるのだろうか…。




