038:社畜、懐かれる
世界が改変できたら普通はどうします?
チートで無双? ハーレム生活? 大金無双!
ここにいるのは定時退社の社畜
今日もまた佐藤匠海による、自身の心の絶対的平穏を勝ち取るための戦いが始まる
藤原課長代理……補佐?……もう藤原補佐でいいや。
……藤原補佐の活躍で当初残業ベースでなどと言っていた入り口の補修は定時内に完了したのであった。
大体、業者さんがドアの枠を持ち上げるのに3人とかでやってるのを1人でやっちゃうのはどうかと思う。……それって重機じゃん。
……この人絶対職種間違ってると思うんだが、総務系の仕事も超人なんだよな。
ヘルパーで配置されるのはよく分かる。
そして、藤原補佐は定時になった途端、スーツをミシミシ言わせながら宣言した。
「みんなっ!今日はもうこれでお疲れさまだっ!今日の仕事は今日で終わらせるっ!明日でいい仕事は明日だっ!しっかり休んでいい筋肉を作ろうっ!」
まさかの定時退社宣言……これで筋肉じゃなければなぁ……。
◇
帰り道、スマホが震えてるのに気づいて管理者アプリを思い出した。
……いや、ほらあんな新キャラ来たら誰だって忘れるよな。
通知40件……この間よりは少ないからまぁいい。
『き・ん・に・く』
『枠持ち上げるとか人として何か忘れてる。佐藤匠海内緒でステータスいじったろ』
藤原補佐は山南もどきにも刺さったようだ。
あいつはこういうの大好きだからな、今回の人事だっていじってないとは限らないし……。
「それはないよ。あんなのいたの知ってたら管理者アプリ渡してたよ」
まてこら。お前管理者アプリは内側からのミクロな改変にとか言ってたくせにウケ狙いかよ。
「筋肉で全てを決める世界とか面白そうじゃん?」
おいやめろ、絶対。そんなことしたら世界が筋肉に呑まれる。
危うくこの世界が筋力至上主義のディストピアに改変されるところだった……。
藤原補佐にこのアプリが渡らなくて心底よかったと思う……。
……で、今日は何の用だ?
……珍しく返信がない。いつもなら即レスなのにな。
こういう時は悪巧みしてるんだよな……大体。
……放っといてたまにはベンチでコーヒーでも飲むか。
そう思った俺は自販機でコーヒーを買う。
公園のベンチに座った俺の足に猫がすり寄ってきた。
『佐藤匠海。僕だよ』
「は?喋った?……俺疲れてるのか?ストレッチのやりすぎかな……」
あまりのことに目眩がした。
『ひどいな、いくらなんでもストレッチで幻覚は見ないでしょ』
猫が器用に前足で顔を洗う仕草をしながら、頭の中に直接響くような声で喋る。
やっぱり山南もどきだ。
「お前……なんで猫なんだよ。アプリから出てこられるのか?」
『端末経由のテキストだけじゃ臨場感ないじゃん? 近くに手頃な野良猫のローカル端末があったから、ちょっと意識を間借りしただけ』
「何がローカル端末だ。猫を機械かなんかと勘違いしてハッキングするなよ」
『外からならローカル通信という形でハッキングは可能だよ。手続き面倒だからやらないだけだし。特に人間体はね』
「お前さ、お手軽ハック的な感じにしてるけど、猫じゃあ何もできないだろう?」
猫?はぴょんとベンチに飛び乗り、座る。
「だってさ、佐藤匠海って魔法少女物好きだったじゃん。特にお供の妖精的なやつ。わざわざその夢を叶えてみたんだよ」
「お前なぁ、それは俺がガキの頃の話だろ。今の趣味は違うわ!」
猫?は顔を洗いながらニヤニヤしている。
「そうかなぁ……今期の夏アニメの魔法少女物ガッチリ見てたの知ってるよ。ずっとフィギュア買おうか悩んでたじゃん。お供の妖精の」
こいつはどこまでストーカーなのか。
「買ってないからセーフだ。おい、そんな喋ってていいのか?お前は猫だろ?」
すると猫?は伸びをしながら恐ろしいことを言った。
「他の人にはニャーとしか聞こえてないから問題ないよ」
なら安心、珍獣見たさに寄ってくるやつはいない……いや待て。
「俺が今こうやってお前に話しかけてるのはどうなるんだ?」
「そりゃあ猫に一生懸命話しかけてる痛い人だよ」
……猫?の顔が一瞬ニヤけたように見えた。
その言葉にハッとして周りを見ると、少し遠くでヒソヒソと何やら話しながらこっちを見ている連中がいた。
そいつらは俺がそちらを見たのに気付くと、露骨に視線を逸らしそそくさと立ち去ったのである……。
そして再度振り返ると、猫は「にゃーん」という鳴き声を残し走り去った。
どうやらコントロールを奪い返したようだ。
精神攻撃の威力が半端ない……筋肉より疲れた……。
今週は強烈な話が続いてしまいました。
来週はもう少しまともになるかと。お楽しみに。




