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哲学的ゾンビを研究していた俺、気がつくと異世界でNPCになっていた  作者: ちょこだいふく


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2.観測者

高い場所を見るたびに考えるようになってから、

俺は村の外に出ることが増えた。


理由はない。


ただ、この世界に端があるのかどうか、確かめたくなっただけだった。


森を抜け、丘を越え、川沿いを歩く。


どこまで行っても景色は続いていた。


終わりは見えない。


だが同時に、どこか整いすぎている気もした。


道は歩きやすい場所に続き、

川はちょうどいいところで曲がり、

森は進める範囲で途切れている。


まるで、

外に出すつもりがないみたいに。


その日も、丘の上に登っていた。


村を見下ろせる場所だ。

気づけばよく来るようになっていた。


落ちるなら、ここだな。


そんなことを何度も考えた場所だった。


少し踏み出せば、終わる。


そう思いながら、いつも同じところで足が止まる。


——怖かった。


ここが偽物かもしれないと思っているのに、死ぬのが怖かった。


——もしここが現実だったらどうする。


——もし元の世界の方が夢だったら。


——もし俺は、最初からここにいたのだとしたら。


「お、こんなところにいたのか」


声がした。


振り向くと、見知らぬ男が立っていた。


村の人間じゃない。


服装が違う。

立ち方も違う。


妙に軽い。


この世界の人間は、こんな風に立たない。


「……誰だ」


「ん?ああ、ただの通りすがり」


軽い口調だった。


この村の人間は、そんな答え方をしない。


——もっと遠回しに言う。

——もっと曖昧に言う。


…でも、こいつは違った。


「いい場所だよな、ここ」


男は丘の下を見ながら言った。


「景色いいし。落ちたら普通に死にそうだし」


心臓が跳ねた。


「…今、なんて言った」


「ん?」


「死ぬって言ったか」


「言ったけど?」


当たり前みたいに答えた。


当たり前すぎて、逆におかしかった。


この世界の人間は、そんな言い方をしない。


「お前、この村の人間じゃないな」


「まあな」


「どこから来た」


「外から」


——外。


その言葉に、背中が冷えた。


「…外って、…どこだ」


男は少しだけ考えて、それから肩をすくめた。


「説明めんどいな」


「まあ…遠いところだよ」


曖昧なのに、嘘をついている感じがしなかった。


この世界の人間とは違う。


こいつは、ここに縛られていない。


気づけば言っていた。


「……頼む」


男がこちらを見る。


「ここから出してくれ」


言った瞬間、自分でもおかしいと思った。


——どこへ出る?


——どこに戻る?


…分からない。


……でも、ここじゃない。


ここじゃない場所があるはずだった。


男は少し驚いた顔をした。


それから、黙って俺を見ていた。


まるで、何かを確かめるみたいに。


「…ここから出すって」


「いったい…どこに?」


言葉に詰まった。


「…ここじゃない場所だ」


——それしか言えなかった。


男は眉をひそめた。


「変だな」


「何がだ」


「いや……」


少し迷ってから、言った。


「普通、この辺のNPCって、そんなこと言わないんだけどな」


心臓が強く鳴った。


「……NPC?」


男は口を押さえた。


「あ」


少しだけ気まずそうに笑った。


「悪い、気にすんな」


「今のは独り言だ」


そう言って、丘の下を見た。


しばらく黙っていた。


それから、ふいに言った。


「なあ」


「お前さ」


「…自分がここにいるって感じ、する?」


意味が分からなかった。


「いるに決まってるだろ」


そう答えた瞬間、自分の声が妙に軽く聞こえた。


——本当に?


本当に、いるのか?


男は何も言わなかった。


少しだけ考えるような顔をして、


「……まあいいか」


そう言って立ち上がった。


「また来るかも」


軽く手を振って、そのまま丘を下りていった。


一人になってからも、しばらく動けなかった。


風の音だけがしていた。


頭の中で、さっきの言葉が何度も繰り返された。


——自分がここにいるって感じ、する?


空を見上げた。


本当にここにいるのか。


それとも、


見られているから、


ここにいるだけなのか。


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