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傭兵王はガハハと笑う 〜え、半裸のろくでなしが伝説の英雄!? 木刀一本で全てをガハハと解決する、笑いと涙の人情無双ファンタジー〜  作者: 益城 茜


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北方編:アルカディア 「聖女の決意と不敵な一手」

いつも皆様お楽しみいただきありがとうございます。

さてと、長く続いた北方編もラストとなります。

お楽しみください。

尚、次回アップは8/17月曜からです。

以降も月、水、土曜 18時の週3回投稿予定です。

月水土曜はガハハの日 お忘れなく。

アルカディア教国、聖都。


大僧正院の深奥、かつてセラフィナ大僧正長らが国家の重要な決断を下していた重厚な執務室。

今やその部屋は、アウレリアによって設立された『四聖女』——エリシア、セレナ、ミレイユ、リュミナの合議の場となっていた。


だが、重々しい木製の扉が閉じられた室内を満たしていたのは、かつて抱いたはずの「正しく国を導く」という誇りではなく、息の詰まるような沈黙と、ジワジワと忍び寄る「違和感」であった。


「……ねえ」


最初に静寂を破ったのは、栗色の三つ編みを握りしめたセレナだった。

いつもどこかおどおどとしていた彼女の瞳が、今ははっきりと怯えに揺れている。


「……アウレリア様、何かがお変わりになられたわ。国境からお戻りになってから……あの圧迫感、何なの? 以前のような優雅な気品じゃない……まるで、すべてを呑み込む『大きな穴』の前に立たされているような……」


「……無自覚だからこそ、余計におそろしいのですよ」


白銀色の髪を小さく揺らし、淡々と応じたのはエリシアだった。

灰青の瞳を伏せ、組み重ねた自らの指先を見つめている。


「教王様は……ご自身が発しておられる圧に気づいておられません。国境で何があったのかは存じませんが、あの瞳に宿る黄金の熱は……尋常のそれではありませんでしたわ」


「それだけではないわ」


黒髪をきっちりと結い上げたミレイユが、名門貴族の出らしい鋭い観察眼で低く告げた。

僧衣を纏いつつもどこか軍人めいた立ち振舞いの彼女の顔には、濃い陰りが差していた。


「国境に配されたジョルカス帝国軍……数万の精鋭基地。アウレリア様は『圧力をかけるための手駒』とおっしゃっていたけれど、あの規模は『接収』なんて生易しいものではない。帝国が本気でこの教国を飲み込もうとしている陣容よ。……それに」


ミレイユは声を落とし、室内の空気を伺うように言葉を継いだ。


「見たでしょう? アウレリア様の右手に嵌められた……あの鈍く光る『鷹の指輪』を」


「「……っ」」


エリシアとセレナが息を呑む。最年少のリュミナは、小さく肩を震わせた。


「帝国の……皇位継承権の証……」


リュミナの翡翠色の瞳から、ポロポロと涙が零れ落ちる。


「私たちは……アウレリア様に『スペアではない』と言っていただけて……教国を正しく導くために『四聖女』になったはずです……。でも…………!」


リュミナの絞り出すような独白。彼女は最後まで言葉にすることが出来なかった。その沈黙が部屋の空気を重くする。


自分たちは、メルツラという傑物の陰で「スペア」と冷遇される苦しみから救われたのだと思っていた。

合議制によって神意と国政を正しく動かす、新しいアルカディアの柱になれるのだと信じていた。


だが、蓋を開けてみればどうだ。

教国は帝国の軍靴の音に怯え、教王となったアウレリアの右手には帝国の皇位継承権が光る。

自分たちが手に入れた『聖女』の地位は、アウレリアが帝国と結び、教国を自らの私物とするための「駒」に過ぎなかったのではないか——。


「……いまさら、立ち止まることなどできませんよ、リュミナ」


エリシアが静かに、だが苦い諦観を込めて呟いた。


「私たちは自らの意志でアウレリア様の手を取り、セラフィナ様とメルツラ様を追放したのです。今さら『乗せられた』と被害者顔をしたところで……救ってくださる方など、どこにもおられない」


「……ええ」


沈黙を守っていたミレイユが、ふと窓の外——北方のアドラス山脈の彼方を見つめながら低く呟いた。


「アウレリア様の野望に呑み込まれたとしても……私たちはこの『四聖女』として進むしかないのよ。……でも救いなら、ひとつだけあるかもしれないわ」


「ミレイユ……? どういう意味ですの?」


「アウレリア様がなぜ国境へ出向き、あれほどまでに尋常ではない『熱』と『圧』を身に纏っておられるか……あなたたちも薄々気づいているでしょう?」


ミレイユの問いに、エリシアとセレナは顔を見合わせた。


「……あのお方の視線は、もはや教国にも、帝国にも向いていない。あのお方を狂わせ、あの巨大な穴を開けている原因は……ただ一つ」


「……私たちの聖人『黄金の番』……ガルハート様……」


リュミナが小さくその名を口にすると、室内に不思議な緊張が走った。


「ええ。アウレリア様の執着は、いまや隠そうともされていない。教国の教王でありながら、あのお方はたった一人の男に命運を狂わされているのよ。……それならば」


ミレイユは振り返り、三人の聖女たちの顔を静かに見回した。


「アウレリア様が直々に招待状を出したという、あの黄金の男がこの聖都へやって来た時……状況は大きく動くわ。……私たちにできるのは、ただ一つ」


エリシアが灰青の瞳を細め、ミレイユの言葉を引き継いだ。


「あの方……『黄金の番』という不確定要素に、私たちの運命を賭けること。……それだけですのね」


「……ええ。ガルハート様が聖都へ入った時、何が起きるか。私たちはその瞬間のために、四聖女としての力を磨き、教団の安定に全力を尽くすのよ」


四人の聖女たちは、教王アウレリアの執着の影に蠢く「黄金の男」の存在に己の運命を託すことを、静かに決意するのだった。


◇◇◇


「……ハッ、あのアウレリアって女、『正統派』立ち上げの急報を受け取った直後に、この招待状を寄こしてきやがったか」


ガルハートは慇懃無礼な羊皮紙を指先で弾き、ニヤリと笑った。

そこには『新体制となった教都へ、地母神の聖人たる「黄金の番」ガルハート殿を正式にお招きしたい』と、全能感を隠そうともしない華麗な文章が躍っている。


「危険すぎます、ガルハート殿!」


セラフィナが即座に声を張り上げた。


「アウレリアの罠に決まっています! 今、教都へ向かえばそのまま監禁されるか、教団の権力闘争に利用されるだけです!」


「まあ落ち着けって。聖女メルツラが運んできたあの『退任合意書』なんざ、俺たちが『正統派』をぶち上げた瞬間にただの紙くずになったんだ。向こうも旧体制の退任手続きなんざどうでもよくなって、力ずくで俺を引きずり出す方向に切り替えてきたってわけだ」


「だからこそです! 相手の誘いに乗る必要など……!」


「だからこそ、行って堂々と『招待』に乗っかってやるのさ。向こうは自分が盤面を支配してると思っていやがる。正面から乗り込んで、内側から吹き飛ばしてやるのが一番手っ取り早いだろ」


「もう、あなたという人は……!」


呆れるセラフィナとセーラを制し、ガルハートは留守番組の配置を言い渡した。

『正統派』の看板である真の聖女メルツラ、組織の司令塔たるセラフィナ、そして立ち上げの実務を担うグレゴは、北方に残って組織の盤石化を図る。

新婚のカインとシルヴィには「二人で仲良く留守番してろ」と笑って残すことに決まった。


「よし、じゃあ俺は単身で……」


「「誰が一人で行かせてあげるって言ったのよ!?」」


ガルハートの言葉が終わるより早く、背後から二つの鋭い声が飛んだ。

押しかけ女房二人である。


「ガル一人で行かせるなんて選択あるわけ無いでしょ!」

「お猿さんの放し飼いなんて危なくってしょうがないでしょ。勝手に死なれても、私には大損害よ!」


腕を組んで仁王立ちするミーナとリノンの姿に、ガルハートは苦笑いするしかない。


一方、スターレ家側でも同行者の選定が行われていた。

ヒサメが「私が行きます! 敵陣突入の機会はめったにありません。腕がなります!」と胸を張るが、当主オルトが即座に首を振る。


「今回に関して、ヒサメはだめだ。今回は単身での高度な政治判断力が必要になる。腕前は問題無いが経験が足りない。残念だが、北方の守りに付いてくれ」


「……残念ですが、仕方ありません。次は父様を納得させられるように精進します」


肩を落とすヒサメを余所に、オルトは静かに次女へ視線を向けた。


「……メイ。お前が行け」


「……はい、わかりました父様」


一礼して進み出たのは、スターレ家の次女、声楽の徒でもありながら天下十剣に数えられるメイであった。長身な彼女は、可憐な外見に似合わない肉厚の両手剣に触れるとまっすぐと父親オルトを見据えた。


長女であるセーラも当主オルトの決定に賛同した。


「メイは声楽家として多くの国を来訪しているし、外交的な判断も申し分ないものね。『正統派』の立ち上げが無ければ、私が行きたかったんだけどな」


軽く肩を落とすセーラに父であるオルトは軽く耳打ちした。


「『正統派』の立ち上げの補佐は、お前にしかできない。すまないが、今回はあきらめてくれ。ガルハート殿と共に仕事を成す時はすぐに来るさ」


父の小さな耳打ちに、顔を真っ赤にしたセーラは大声で反論した。


「な、な、なんてこと言うの!別に私はこんな風来坊みたいな奴、何とも思ってないんだからね!」


父の気遣いをまるで意に介さない長女の発言にオルトは苦笑いをせざるを得なかった。

二人とも若干デリカシーに欠けるのだ。本当に似た者親子である。


「ガハハハハッ!押しかけ女房持ちの男に惚れるなってなあ、先生も業が深いな!」


その不条理なドヤ顔と豪快な高笑いに、セーラが真っ赤な顔で「誰が惚れるかーっ!」と叫んだ。どう考えても不要な一言を放つガルハートに、ミーナとリノンから同時に冷ややかな視線が突き刺さった。


ガルハートは飛んできた雑多な野次をひらりと受け流すと、背負った木刀『世界樹』の柄をトン、と床に叩きつけた。


「よしッ! 腹は決まったな! 『正統派』の看板と北方の盤面は、聖女さんたちとスターレ家、鋼鉄の牙が居れば守りは固いだろう。俺たちは招かれた『客』らしく、最高に華々しく聖都へ乗り込んで、ひっくり返してやろうじゃねぇか!」


碧眼に尋常ならざる知性と不敵な狂気を宿し、ガルハートはニヤリと口角を吊り上げた。


「待ってろよ、アウレリア。……お前さんの思い通りにはなってやらねえぜ!」


「ふふふ、よろしくお願いしますね~、ガルハートさん、ミーナさん、リノンさん。」


その様子にメイも笑いながら、メイとリノンと握手を交わした。オルトやセーラの言う通り気遣いが出来如才ない対応である。


かくして、黄金の男と二人の押しかけ女房、つかみどころのないスターレ家の次女メイという奇妙な四人の『招待客御一行』は、アウレリアの待つ聖都へ向けて旅立つのだった。


いつもご愛読いただいありがとうございます。

次回アップは8/17月曜からです。


別作品の紹介

重力1/100 〜コンテナ暮らしの宇宙人は世界を救う神らしい〜

https://ncode.syosetu.com/n7660me/

火木金の週3投稿です。

どうぞ気軽にご一読ください

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