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第六章

 師匠が消えた後、まだ動けると感じている俺は、その足取りで北西の祠に向かおうとした。が、ヒョウにそれを止められる。

 「くぅうぅぅん!」

 「え、駄目なのか?」

 「くぅうん!」

 ヒョウに言われ、渋々祠の前まで帰った。すると、


 ヒョウが突然、俺に向き直って、

 「ぱんっ、ぱんっ」と地面を叩いて、俺に構える。

 「えっ!?」「何?何?」

 「ぱんっ、ぱんっ」

 「えっ?掛かって来いって?」

 「がぅっ」

 「えぇーーーーーっ」


 すると突然ヒョウの前に俺の影槍に似た、だが遥かに鋭く漆黒に輝く槍が5つ形成され、次の瞬間、俺に向かって飛んできた。

 「しゅっ!」


 目では追えなかったが、俺の位置を狙ったことは明らかだ。

 大きな影盾を作って後ろに飛び退く。

 「ぱきんっ」


 5本の槍はあっけなく盾を破壊すると軌道を変えて俺に向かって来る。

 最初の一本を剣で振り払い、2本目のを厚い影盾で止めるも、残りは3本は間に合わずどかどかと俺に刺さる。

 「どすっ、どすっ、どすっ!」

 「う゛ぅ゛っ」


 怯んだのも束の間、槍を撃ったと同時に姿を消していたヒョウが突然左に現れ、右前足の爪で俺を切り裂く。

 「うぅっ」


 何とか右の前足を剣で受けるが、すかさず繰り出された左前足の攻撃に、影盾が生成される前に吹っ飛ばされた。

 「ぐ、ぐぅ゛」


 たった1合で俺はもう起きられなかった。

 みつかいさんの加護が無ければ、今ので何度命を落としていたのだろうか。

 ヒョウがここまで強いとは。

 一緒に戦っていた時は、何か事情あって本調子ではなかったのだろう。


 確かに祠に戻ってからのヒョウは、魔力……エナジーと言うべきか、それがみるみるうちに増していってるような感覚があった。

 おそらく何らかの事情でこの地を離れていて、力を取り戻せないままゴブリンに囲まれ、偶然そこに俺が出くわした……ということなのかもしれない。

 きっと、まともな状態のヒョウは、このあたりの森の魔物ごときでは到底倒せない存在なのだ。

 そして、そのヒョウが大黒蛇に対峙するには早いと。

 先ほどの一合程度の攻撃なら、大黒蛇でもできる──ヒョウの意図は、そういうことなのだろう。

 そこまで思うと俺の意識は落ちていった。


 翌朝目覚めると、俺は祠の中にいる。

 「悪いな、ヒョウ。」

 「くぅうぅぅん。」


 まだ体を起こせない俺に、ヒョウは祠の奥から昨晩狩ってきたであろう茶兎を3頭運んできた。

 その内1頭は毛皮になっている。

 昨晩の食事だったのだろう。


 「悪いな。ちゃんと毛皮を残してくれたんだ。」

 「くぅうん。」

 「俺はまだ動けなさそうだが、操影で解体だけするな。」「生のままでいいか?」

 「くぅうん。」

 「そっか。じゃあ。」


 俺は操影で2体の茶兎を穴の外へ運ぶと、肉を解体し、残った血を抜いて、木の大皿に入れて持ってくる。

 「一つは俺が頂いてもいいのか?」

 「くぅうん。」

 「じゃあ、遠慮なく。」


 そのまま操影で1体の肉から、4つに切り分け、その中の一つを更に切り分けて串に刺して、焚き火の跡の周りに刺していく。

 器用に操影で火打石で火を熾し、焼いていく。

 残りは空間収納に入れておく。


 肉が焼ける間に、いつもの朝の感謝の祈りを捧げる。

 今日は寝たままだが、気持ちはいつもと同じように。

 焼けた串を一つずつ自分の方まで運び、口に運ぶ。

 全て食べ終えると、急に眠気が襲ってくる。

 慌てて先程解体した残りの肉と内臓と、以前収納したホーク肉を大朴葉に包まれたまま別の大皿にそれぞれ載せておく。

 「たぶん起きられないから、昼と夜の分だ。」

 「くぅうん。」


 まあ、俺が居ない頃はここらで獲物を狩って生活してたのだろうから、余計なことかもしれない。

 だが、折角一緒に生活してくれると言ってくれたのだから、食事は俺が担当したい。そう思って用意すると、そのまま寝落ちた。


 そのまた翌日。

 その日はまだ暗いうちに目が覚めた。


 「昨日よりは回復しているということか。」

 俺はいつものように全てのものに感謝の祈りを捧げる。


 体は起こせるようになっていたが、まだ無理はできない。


 「何か体に入れないとだな。」

 そう呟き、空間収納から自分とヒョウとの食料を探し出そうとしたとき、


 「くぅぅぅぅぅぅんっ。」

 と、伸びをしながら起き上がるヒョウに。


 「お前、昨日用意した肉食べなかったんだな。」

 そういって空間収納から昨日大皿に取り分けた茶兎肉を出した。


 「くぅんっ」「くんっ」「くんっ」

 と頷き、その後祠の上を向く。


 俺はそれが何なのかと気配を感じ取ると、どうやら昨日仕留めた獲物の残りを祠の上に吊るしてあるらしい。

 操影を伸ばして確認すると、レッサーボアが枝に吊り下げられており、内臓と一部の肉は食してある様だ。

 「お前はボアでいいんだな?」

 「くぅうんっ。」


 「もしかしてお前、俺に兎肉を食べる様にと?」「前にお前を看病した時のようにか?」

 それだけ言うと

 「くぅうんっっっ!」


 そうだったんだ。

 昨日の茶兎は俺の看病の為のものだったんだ。可愛い奴。

 「そうか、じゃあ遠慮なく頂くぞ。」

 「くぅうんっ。」


 丘の上のボアを解体し、一度水で洗浄し、余分な水分を取る。

 それを大朴葉に包む分と、大皿にのせるのとを分け、ヒョウの前に。


 自分の分は、大皿の兎肉を焚き火場所に運び、火を熾し、串に刺して周りに刺していく。

 同時に昨日の兎皮3枚とボアの皮をポッドの上に設置する。


 熾した火の中から炭をいくつか取り出し、3つのポッドに入れ、上から枯れ葉を被せる。

 影の筒を作って枯れ葉の中に空気を送り込む。


 ポッドの枯れ葉は煙を立ち込め始める。

 俺はこれらの作業を全て操影で行っている。

 体は起こし胡坐をかいた姿勢でだ。

 すると瞑想と同じ効果が発せられ、体の状況が刻一刻と詳細に頭の中に入ってくる。


 どうやら俺はヒョウの攻撃で、4回ほど絶命に至る負傷を負ったと。

 勿論みつかいさんの加護によってその直前で防がれ、命は繋いでいるが、命に係わる怪我を4つ受けた状態から回復を図っているともいえる。


 この祠の中では回復力が高まり、しかも命に係わる部分から癒えていくため、薬もなしに今日まで持ちこたえられたのだ。


 その4つの攻撃で気絶しなかったのも、師匠との訓練の成果という訳だ。

 「一体どんな耐性を持ってるっていうんだ。」


 しかし流した血は直ぐには補えない為、眠る時間が多かったようだ。

 「じゃあ血肉の為に内臓から頂くな。」


 そういって生焼けの内臓の串から祠に運び、順に食べていく。

 胸肉一塊分も切り分け串に刺し、焼いてそれも食べる。

 残りは空間収納に。


 「また、休ませて貰うぞ。」

 「くぅうんっ。」


 昼過ぎまで眠り、起きたらまた食事。

 ヒョウにはボア肉の塊を渡して。また寝る。


 夕方目を覚ますと、今晩休めば明日は動けるなと感じる。

 自分には軽く最後の兎肉を、ヒョウにボア肉の塊を用意する。


 「腹の傷は塞がったし、今晩から少しずつ慣らしておこう。」

 そう言って、その場でストレッチを行い、体を動かすのはこの位にしておく。


 続いて魔法訓練。

 操影を祠の外まで伸ばし、影槍の速さ鋭さ硬さ、影刃の速さ鋭さ硬さ、影盾の生成速さ硬さ、といった具合に試す。

 今の自分の状態を確かめるように、できる魔法を一通り確認していく。

 そして何巡目かの身隠しで大量に魔力を持っていかれ、寝落ちるのだった。


 43日目の朝は雨の中だった。

 それでもこの祠は全くの無音だし、雨はその穴の先5mもある屋根の向こうに降っているだけだ。

 何も嫌な感じはしない。

 それよりも、体が回復したことによる爽快感の方が上回り、とても気持ちの良い朝を迎えられた。

 今日も全てのものに感謝の祈りを捧げる。


 今日からは大黒蛇対策。

 なるべく早く倒し、また師匠に剣を教えて貰わねば。

 加護の期間が半分に迫っている。

 そうはいってもこの3日分の体力を戻すことから。

 おれは木刀を持ち外に出て、重力を1.5倍にして走り出す。

 すると雨も凄い速さで落ちてきて痛い。

 流石にこれは厳しいので、体の周りの身隠しに、水分搾取を持たせてみる。


 かなりの水分量に魔力操作が厳しいが、返って良い訓練になる。

 剣を振りながら丘の周りを走っていると、小一時間が経った際に剣が折れた。

 影を纏って強化していたのに。

 先日のヒョウとの戦闘でギリギリだったんだろう。


 いったん朝食の時間にする。

 在庫の肉を確認する。

 「お前は何の肉がいい?」

 「くぅくくぅぅん。」

 「何でもいいか。」「じゃあ、朝は鶏肉だ。」

 そう言って、ホーク肉を2塊取り出すと、一つはそのまま大皿に、もう一つは、

 「あ、火が使えない・・・」

 そう言って、処理肉が無いか確認する。と、熊肉の燻製がある。

 「熊肉かぁ、まあいいか。」


 そういって熊肉の燻製をナイフで切り取りながら朝食に。

 食べながら操影で木材を切り出し、適当な長さで切ったら屋根の下まで運び、乾燥させて、削って木刀を作る。4本目だ。

 食事を終えるとまた外に出る。


 身隠しで雨は全く通さなくなった。

 目を瞑りヒョウとの戦いを思い出す。

 重力を1.5倍にして動きを合わせてみる。

 動きがゆっくりになった分、思考には時間が出来る。

 何度も何度もあの攻撃を全て躱せるようにはどうしたらいいのか。

 5つの魔法を全て剣で掃うのは今の俺では先ず無理だ。

 なら躱す?どうやって?

 「やはり影移動戦闘しかないな。」


 俺は未完成の影移動戦闘を完成させる事が唯一の切り口と判断する。

 そうとなれば、

 「重力2倍っ」

 その重力を跳ね退ける程の影移動だっ!


 全然武骨だが、先ずは身隠しの雨避けと重力2倍と影移動とを同時発動させ、その中でヒョウの攻撃を躱せるだけの反応速度の練習。

 ひたすら

 「影移動っ」「影移動っ」「影移動っ」「影移動っ」「影移動っ」「影移動っ」「影移動っ」「影移動っ」「影移動っ」「影移動っ」「影移動っ」「影移動っ」

 「はあぁっ、はあぁっ、はあぁっ、はあぁっ」

 少し休憩したら、また影移動。

 昼過ぎまで続けると、流石に体がもたない。

 一旦休憩にする。


 俺は朝昼熊肉は流石に気持ちが乗らず、ボア肉に塩を塗って少し置く。

 ヒョウは俺が朝熊肉を食べてたのを見て食べたくなったようで、熊肉の生肉を取り出し大皿に置いてあげる。

 ボア肉の水分が抜けてきたら水分採取で干し肉に。

 それをナイフで切り取り昼食に。


 午後は俺の最大威力の重力2.5倍。

 その中で止みそうもない雨を身隠しで遮り、影移動。

 リハビリにしては急に最大重力とは考え物だが、影移動中心である為筋力トレーニングというよりは魔力トレーニングである為続行。


 くたくたになった夕方、身隠しを解いて雨で体を流し、身隠しを張ってその中で濡れたからだの水分を除き、さっぱりとした中祠に戻り夕食。

 昼と同じく熊肉をヒョウに用意し、俺は昼の残りの塊からナイフで切り取って食べる。

 最後昨日と同じように一連の魔法を順番に確認、強化練習し寝落ちる。


 翌日も全く同じ流れ。重力は朝から最大の2.5倍で。


 その翌日は梅雨の晴れ間みたいにカラッと晴れた。

 いつもの様に祈りを捧げる。


 今日は狩りだ。

 丁度在庫が切れかけてた頃だ。

 それと、そろそろ牛肉と行きたい処だが、パイソン系(自称)は居るには居るが、西の森の先の草原が生息地らしい。

 ここからだとかなり遠い。

 それに途中にゴブリンの生息地がいくつかある。

 今はあいつらを構ってる時間は勿体ない。

 まあ近くのボア系が妥当かな。


 そう思いながら索敵を行うと、

 「おぉっ!この大きさ。グレーターボア(自称)だな!」「初めてだ。」

 俺はグレーターボアを獲物に定めると、一直線に向かっていく。

 大黒蛇を相手取る前には丁度いい相手だ。

 何かしらの魔法も持ってる。

 ヒョウには祠で待ってもらった。

 近くにいるだけで相手にとって牽制になってしまうからだ。

 これくらいの相手に無傷で勝てぬようなら暫く大黒蛇を相手なんて出来ない。

 この二日間の成果を確認するんだ。


 グレーターボアが視界に入り、対峙する。

 と、余りの大きさに足が震える。

 前世のダンプカー位の大きさがある。


 「こんなのが暴れるなんて、マンモスかよっ!?」

 そう言って軽くにやけると、少し落ち着いた。

 しかしこんな魔物に木刀とナイフで挑むなんて、傍から見たら笑っちゃうよな。

 自分で自分を奇知外の者に思える。


 「まあ、ここを通らずして先は無いからな!」

 「掛ってこないなら、こっちから行くぞっ!」

 そう声を発すると、ボアの前方に石で出来た槍が2本生成される。

 その直後、

 「シュシュッ」


 俺は躱さず、影盾で受け止める。

 「がしんっ、がしんっ」

 これは牽制だ。


 すかさずボアは5本の石槍を続けて打ってくる。

 俺はその瞬間、同じくそれよりも早くに5本の影刃を生成して放つ。

 「しゅしゅしゅしゅしゅっ」「ぱりぱりぱりぱりぱりんっ」

 対消滅させる。


 これまでは牽制で、ボアは次の瞬間20本の石槍を生成して放っていた。

 「シュゥウンッ!」


 (マジかっ、俺はまだ同時生成8本が限界だっ)


 「しゅぅぅぅぅっ」

 8本の影刃を対消滅させると同時に石槍の軌道を右に躱す。

 躱しながら剣で二振り。

 一振りで3つの石槍を消滅させる軌道で。

 「ぱりぃっぱりぃっぱりぃっん」「ぱりぃっぱりぃっぱりぃっん」


 それでも残った石槍が、軌道を変えて避けた自分に向かって来る。

 それを今度は左に躱した所に音速のボアの突進が向かって来る。

 「読んでたな!」


 そういう俺もここまでを読んでる。

 ボアの突進は、昨日までの練習の成果、影移動でまるで無重力の様に、まるでふわりと浮いた木の葉に向かって突進した後のように。

 俺はボアの頭上にふわりと避ける。


 慌てたボアは、急いで体制を整え、ふわりと舞っている俺が地面に落ちる前に止めを刺そうと再度突貫してくる。

 俺はその突貫の届く直前に地面に足を着き、足の運びだけで突貫を避けながらの攻撃、身躱し突き、を放つ。

 「グヒャァアアアアッ」


 俺はグレーターボアの突進を右に180度回転して避け、そのまま270度回転してボアの左の耳に突きを入れる。

 それは右耳に掛けて貫かれ、ボアは倒れる。


 俺はその場で命の恵みに祈りを捧げる。

 そしてボアの体を操影で祠まで運ぶ。

 同時にボアが攻撃の際に薙ぎ倒した樹木も一緒に運んだ。


 祠前の丘に着くとボアを操影で吊るして解体を始める。

 これだけの大きさだと内臓だけでも何食分かになる。

 俺はヒョウに聞く。

 「今朝の朝食はボアの内臓でもいいか?」

 「くぅうんっ。」


 しかし、そうは言ってもグレーターボアの内臓の量は只物ではない量だ。

 でもヒョウがどの部位が好みなのかまでは分からない。

 それぞれをいくつかに切って取り分ける。

 肺も胃も腸もそれぞれ適当な大きさで切って、大皿に乗せ、肝臓も心臓もいくつかに切り分けた時、心臓の中に、まるで胆石のような固い石があるのに気付いた。

 それを洗って目の前に運ぶと、琥珀色をした小指の先の一節位の大きさの、丸みを帯びた石が、所々黒く澱んではいるが、綺麗に輝いている。


 「こ、これは魔石か?」「ピンッ」

 久々に前世のラノベの知識とみつかいさんの大きな「ピンッ」が重なった。


 「へぇー、あるんだ魔石。」

 前世のラノベ通りなら、結構高い金額で買い取って貰えるかも。

 そうでなくても現物を見てる俺からすると、ペンダントにしてもいいし、杖かなんかの装飾にも出来そう。

 しかもこの石からは土属性の魔力が満ち溢れている。

 それを魔道具か何かに転用するということもあるのでは、と。

 楽しみは増えるばかりだっ。


 そうこうしてる間に、切り分けた部位をそれぞれ大皿に乗せて、いっぱいになったところでヒョウの前に置く。


 俺は中皿に入れた自分の分の内臓を持って焚き火跡の前に座る。

 すっかり濡れている焚き火跡を、水分操作で乾燥させ、火を熾す。

 内臓を一切れずつ串に通し、周りに刺していく。


 切り分けたボア肉は適当な大きさの塊にして空間収納に保管していく。

 そして大きすぎるグレーターボアの皮は、今の大きさのトライポッドだと12基位は必要で、諦めて洗って乾かし、そのまま絨毯のように巻いて空間収納に収める。


 しかし、今となっては、グレーターボアですら文字通り朝飯前の一狩りになっているとは。

 人の成長とは目を見張るものがあるね。

 なんて、みつかいさんからの早熟チートのお陰なんだけどね。


 食事をしながら、燻製部屋を先に作るべきか、や、一旦街に行ってそれらを含む情報を得ようか、とか。

 色々思うことはあるが、本質はそこではない。

 加護の期限が迫っている最中、出来るだけ自身を成長させ、どれだけでも生き延びるのに必要な知識と経験を積む。

 これが最優先だ。


 食べ終える前にヒョウに聞く、

 「この後、この前の様な対戦してくれないか?」

 「くぅうぅぅぅんぅ」

 ヒョウは嫌そうだ。

 「そこを何とか。」

 「俺は防御一方に集中すれば、ある程度熟せると。」

 「くぅううん」

 「絶対に死なない様に大黒蛇に挑んで、奴の攻撃特性を知って対策したいんだ!」

 「くぅうううん。」


 俺は無理やりにでも再戦の場を作って貰った。

 が、余り乗り気ではないヒョウの攻撃は、以前の禍々しさは全くなく、俺は影盾と剣の捌きで全てを躱す。

 その後もいくら攻撃の手数を変えてきても、俺は防戦特化で全てを防ぐ。


 その後、ムキになったヒョウの攻撃も、強化した影盾と影移動で躱し、その次の攻撃も読んで躱す。

 その後の何時間の攻撃に対しても全て躱し、日が暮れ始める。

 昼食も摂らずに夕暮れまで訓練し続けた。

 暗くなってきて訓練を止め、食事にした。

 ボア肉を取り出しヒョウに渡す。

 俺は焚き火跡に火を熾し串に刺して並べて焼けるのを待つ。


 「明日、大黒蛇に対峙してくる。」

 「くぅうぅぅんっ」

 「今日やってみて分かるだろ?防戦に徹すれば死ぬことはない。」

 「くぅうぅぅんっ」

 「前にも話したろ?期限付きで元々死なないんだ。」

 「俺は急いでいるんだ。早く大黒蛇を倒して師匠の修行を再開したいんだ!」

 「その為に一度対峙して特徴を掴んでくるんだ。」

 「くぅうぅぅんっ」

 「ま、お前がどう言おうが、行くっちゃ行くんだがな。」

 「くぅうぅぅんっ」

 「防戦して観察してたら隙見付けて倒せちゃったりな。」

 「くぅぅぅ」

 俺は食事をしたら、汗を流し、魔法訓練で寝落ちるのだった。


 46日目。

 いつもの祈りと朝食を済ませると、一言ヒョウに掛けて雨の中、北西の祠に向かう。

 「じゃあ、行ってくる。」

 「くぅぅぅん」


 俺が湖を回る様に歩くと、いつも師匠が現れる草原に着く、が、師匠は現れない。

 そのまま通り過ぎて祠に向かう。

 程なくして祠の前まで着く。


 「こりゃぁ恐ろしいのが居るなぁ。」

 祠の中から禍々しい妖気が溢れている。

 「こりゃあ気合入れないとだな。」


 俺は祠の穴から真っ直ぐ下に伸びた階段を降り始める。

 数段降りると陽の光が入らず暗闇となるが、壁や階段の石が薄っすら光っていて、歩くのには困らない。

 この真っ暗闇の中に薄暗く光る石壁が、高さは3m位、幅は2.5m位の大きさのまま、真っ直ぐにずっと伸びている。


 俺はこの光景には既視感がある。そう、ダンジョンだ。

 石壁で出来た通路を歩いたり、階段を降りたり、その先に魔物の部屋があるなんて、ダンジョンそのものだ。

 そう思いながら進めていき、100段近くは降りたであろうか。

 するとそこには前世の学校の体育館位の広さの部屋が広がっている。

 そしてこの禍々しい妖気を放っている張本人が、この部屋の中心辺りにいて、そのオーラを隠そうともしないでこちらを伺っているのが分かる。

 そして、1歩その部屋に入った瞬間。


 「シャーーーーッ!」

 と部屋の中心に、部屋の薄明かりを鱗が黒光りに反射させた、全長10mはあるであろう、こちらに向けた鎌首が床から3m位の高さにある、大きな黒い蛇が威嚇する。


 優しいもんだ。

 この威嚇で思い直し、引き返したら見逃してくれるのか。

 いや、その後ろから不意打ちを浴びせるのか。

 俺にはどっちでもいい。

 やり合う為に来たんだからな。


 木刀に影を纏わせ、それを片手に構え、そのまま大黒蛇に向かって進むと、

 「ビュンッ、ビュンッ」

 と黒蛇は左右に2回尻尾を振ると、その先に黒い石の槍が左右2本ずつ現れ、こちらに飛んできた。

 「影盾×2!」

 「ぱりんっ、ぱりんっ」

 「様子見かよっ。」

 俺はそう言うと、影移動で一気に間合いを詰める。

 すると黒蛇は更に大きく尻尾を左右に振った。

 「ビュンッビュンッ、ビュンッビュンッ」


 今度は左右に黒い石の槍が5本ずつ、合計10本の黒石槍コクセキソウ(自称)が左右から俺に向かって飛んできた。

 「影盾っ」

 と叫び、大きな影の盾を生成し、後ろに飛んだ。


 「ぱりーっん」

 黒石槍は半分に減るも、残りの黒石槍が軌道を変えて俺に向かって来る。

 「想定済みだよっ」


 「影盾」

 もう一度影の盾を生成し、俺は右前方に影移動で飛んで黒石槍の軌道から離れ、一歩着地するとそのまま黒蛇に向かって一気に間合いを詰める。すると、


 「シュンッ」

 とだけ小さく音が発せられたと思ったら、黒蛇は姿を消した。


 「何っ?」

 と声を発した時には、物凄い速さで俺の右側に移動していた。

 この暗さと黒蛇の速さで視認できなかったのだ。

 それと同時に10本の黒石槍と尻尾による攻撃が俺に向かってくる。


 「うぅっ」

 俺は後ろに大きく弾き飛ばされた。

 が、攻撃は全て”黒粒界”によって受け止められていた。


 これも予想済みだった。

 魔法を尻尾の動作で生成して見せたのはブラフだと。

 俺が隙を突いて突っ込んできた隙を狙っての攻撃を読んでいた。

 そして俺は密かに毎日強度を高めていた黒粒界が、最初に影盾で受けたものなら受けられると分かった。

 だから敢えて黒蛇の攻撃を見る為に隙を見せた。


 だが、そこまでだ。

 俺は結局一度も攻撃を入れられなかった。

 

 「ヒョウの言う通り、まだ遠く及ばないか。」


 今度はどちらも間合いを保ったまま睨み合う。

 俺は、もう少しやり合って情報を得るか、今すぐ階段に向かうか考えながら隙を伺う。


 「逃げるにしてもあの速さは厄介だな。」

 そう言って視線を黒蛇と入り口とに交互に送っていると、


 「ヒュンッ」

 と尻尾を大きく入り口側に広げ、俺に向かって攻撃と同時に黒石槍も放ってくる。


 「読まれたかっ」

 とその直後蛇は頭を大きく伸ばして俺の死角に。


 「囮かっ」「影盾×2!」

 前方と後方に同時に盾を生成する。


 そして生成と同時に攻撃の軌道から離れようとした瞬間、


 「ドクンッ」


 と頭の中に大黒蛇の顔が、特に両目が大きく映し出され、心臓が大きく一度だけ鼓動し、俺の体は移動できずその場で一瞬固まる。


 「なぬっ」(これも魔法か!?)

 その固まった瞬間を蛇は逃さず俺に顔を近づけ、


 「フファーーッ」

 っと物凄く臭い息を吹き掛けてきた。


 俺はその息を掛けられた直後、筋肉は固まり、肌の至る所から血が噴き出し、体は麻痺し、意識が遠のき始めた。


 (ま、まずい。このまま喰われたら、胃の中で加護が切れて即死だ)


 黒蛇は更に俺の体を尻尾で絡め、締め付ける。


 「ごきごきっ」


 俺の骨が折れる感触がする。が、意識は擦れ痛みは感じない。


 (あぁ、もう本当に終わりだ)


 と、そう思った時、何処からか風が起きる。

 「しゅーーーーーっ!」

 「がぅっ」


 と一言だけ発し、俺の首をがぶりと銜え、そのまま蛇から俺の体を引き抜き、大きく飛んで黒蛇から距離を取った。


 ヒョウだ。


 ヒョウは俺の首をかぶりついたまま、獲物を横取りする獣の様に走り出し、階段を駆け上った。

 俺の意識はそこで途切れた。


 いったい何日経ったんだろう。

 記憶が飛び飛びでしかない。

 意識が戻った時、毒の影響だろう、燃えるような高熱で喉が渇き、ヒョウが雨水を溜めてくれた大皿を俺の口元に置いてくれて、起きるたびに浴びる様に飲んでた記憶。

 ヒョウの大きな前足が俺の胸の所を何度も押されて意識を取り戻す記憶。

 俺の意識が戻ると何かの薬草を噛み砕いて俺の口に入れてくれた記憶。

 おそらく干し肉を噛み砕いて俺の口に入れてくれた記憶。

 どれも意識が上ずっていておぼろげではあるが、確かにあったことだ。


 ようやく体を起こせるようになった俺は、

 「ヒョウ、ありがとうな。」

 と一言だけ。

 「くぅぅぅん」

 分かってるよとでも言ってるのか。


 恐る恐る俺はヒョウに聞いてみる。

 「俺は何日寝ていた?3日か?」

 ヒョウとの戦闘の後も2日掛かっていたので3日位かと思って聞く。

 首を横に振るヒョウ。


 「4日かっ?」

 少し強めに聞く。

 それでも首を横に振る。


 「えっ5日も寝てたのか?」

 「くぅん」

 こくっと頷くヒョウ。


 「マジかぁーーー。」

 師匠との稽古を早めたいが為の行動が、大きく遅らせる事になるとは。

 「じゃあ、今日はもう52日目ってことか!?」


 寝てる間に加護期限の半分を超え、未だ本調子でもない俺は、加護の残りカウントダウンが開始されたように落胆する。


 「いや、そうじゃない。ヒョウも止めたのにあんな魔物と対峙して命があるんだ。」


 これは加護を与えてくれたみつかいさんに、忠告を無視したのに助けてくれたヒョウに、今ある命に、こんなにもまだまだやりたいことが湧いてくるこの世界に、感謝の祈りを捧げるのであった。


 「よしっ、そうと決まれば今日からリハビリだ!」

 「くぅんっ」

 「リハビリと言ってもまだ体が起こせただけだがな。」

 「くぅぅぅ」

 「このボロボロの服を直そうかな。」

 しかしみつかいさんに用意して貰ったこの一張羅以外には、服も布もない。どうしたもんか。


 「材料って、、、革しかないんだよなぁ。」

 俺は一度上着を脱いで服の状態を確認する。

 見事に左肩の部分が裂け、左胸の部分に穴が空いている。

 全体的にもかなり寄れて痛んでいるが、その裂けた部分や穴の開いた部分に革で補強したイメージを想像してみると、

 「んな訳ないなぁ」


 と思ったが、革の位置を考えると、

 「そうか、革鎧、というか革の胸当てに近いか。」

 「ヒョウが以前獲ってきたレッサーボアの皮を貰ってもいいか?」

 「くぅんっ」


 もう梅雨?は上がったのか今日は雨は降っていない。

 俺は操影で焚き火の所に火を熾し、ボア肉を串に刺して食事の用意をして、ボア肉の固まりを二つ程ポッドの内側に掛け、雨の日様に燻製肉をいくつか作る。

 その後、先日なめしたレッサーボア革を取り出す。

 「しかしグレーターボアを一頭狩ると暫く肉には困らないなぁ。」

 「くぅんっ」

 そうして食事と、魔法の訓練でのリハビリと、同じく影を使ってなめしたボア革で胸当ての作成をして一日が終わった。


 53日目。

 朝の祈りを捧げると、今日もリハビリだ。

 もう一刻も無駄にしたくない俺は、リハビリも大黒蛇を倒すための訓練になるものを取り入れる。

 

 先ずは毒息対策。

 俺はこれを重力操作で対応したいと考えている。

 俺は、この重力というのが闇属性魔法の真骨頂だと思っているからだ。

 何故かというと、闇というと語弊があるが、光と闇の対比と考えると、光はそのままの意味だとしても、本当の光の反対は闇ではなく重力、もしくはブラックホールだ。


 これは俺が前の世界の物理が好きで、前世の現代物理学の動画を漁った時に衝撃を覚えた時の内容だ。

 地球上での殆どの物理法則については、百数十年前に確立していたと。

 それを現代物理学が実際に証明してきていると。

 凄いと思った。

 そんな昔に理論は完成していて、現代技術でそれを実験で証明出来たと。

 

 そして現代物理学のもっぱらは量子力学で、あと何が物理学の全てを把握するのに必要かといったら、それはブラックホールだと。

 重力の塊のブラックホールを研究出来れば、前世の宇宙真理が解けるとのことだった。

 その中で、ブラックホールは光の真反対の性質を持っているのではと仮定されていた。


 前世でこの事を題材にした映画を観た時に、映画上の設定だと思っていても面白くて何度も観返したのに、それが物理学的な事実にそっていたと知ったら、更にハマった。

 そしてまた何度も観返した。


 それ程この重力に対して興味を持っていた。

 だって重力によって時間が短縮されたり、距離も短縮されるのが本当に起こり得るというのだから。

 今までの自分の感覚では追いつかない事実が、実際に前世では証明されていたのだ。


 そしてこの世界も、物理法則はほぼ前世と同じだとみつかいさんが言っていた。

 今の俺がこの闇属性魔法を極めて、重力の力の全てを使える様になったら、その宇宙真理が解明出来るということになる。と。


 まあ、この力を極める事も、この力を持って地球に戻る事も、想像以上に難しい事、というか先ず俺が前の世界に帰る事は出来ないのであろう。


 かなり話は逸れたが、毒息の様な攻撃は、今の影盾では防ぎきれないだろうし、影盾は物理攻撃に寄り過ぎだとも思い始めてた。

 相手の魔法攻撃を防ぐのに使ってはいるが、実際に防いでいるのは、魔法で生成された物理的な物質だ。


 もしかして魔力その物だったり、光属性の光魔力を凝縮した物を放ってきたら、今の影盾では抑えられない気がしていた。

 だが、重力とブラックホールの力を備えれば、影盾は無敵な防御魔法に成り得るのではと考えている。

 そしてその答えは既に俺の近くにあるということも。

 重力の操作は出来ているし、闇魔粒子によって水や空気や毒や魔力や生命力といった様々なものを、抜き取ったり吸い出したり吸収まで行っている。

 また、祠の力に頼っているが、空間収納も存在し、時間が停止されているのも既に実感している。


 俺はこれらを統合し、自身で発現出来るかどうかだけの問題なのだ。

 イメージはある。そして魔法はイメージ出来れば実現できるとも。


 「よーし。ぱぱっとやっちゃうよーっ。」


 物凄く明るく言葉にしてみたが、実際にはとても地味にその場で影盾を生成し、魔力をその影盾に注いで水採取や塩採取や空気採取、魔力採取、生命力採取といった力を付与し続け、その影盾にその場にある全てのものを採取するイメージを付けていくと、その後に祠にある空間収納の深く広く無限の力をイメージを重ね合わせて、俺が思っているブラックホールの様な力を完成させようとした瞬間、俺の持っている魔力の殆どを一瞬で持っていかれ、気絶しそうになった。

 その場で魔力を一瞬にして遮断して、それまでの作業を全て止める。


 俺は今までには味わったことのない感覚に、何が起きているのかを事の顛末から思い出しながら納得いく答えを探し始める。


 似た感覚は以前にもあった。

 そう、ヒョウの祠の結界が、俺の身隠しの完成形であると知った時だ。

 その日から俺は身隠しが祠の結界とどこが違うかを訓練しながら合わせた時のとだ。

 だが、その身隠しの訓練の時とは段違いで早く魔力が枯渇する。

 毎日の魔法訓練で当初の10倍以上になった俺の魔力がだ。

 だけど、今の俺にやれることは殆ど無い。

 ここでぶっ倒れて、また回復してを繰り返し、体力的にも回復したら次を考えれば良い。

 と、いうことで、影盾ブラックホールをイメージする。


 「うっ」

 もう殆ど残っていなかった魔力が一気に空っぽになり、一瞬で意識がなくなった。

 その後も少しは回復して目覚めるも、影盾ブラックホールで意識を無くす。

 と繰り返した。途中食事は摂ったものの、体はまだ思うように動かせず、足りない魔力量上げに励んだ。


 54日目。

 ようやく立てるまでに回復した俺は、朝の祈りを捧げたあと、朝食を摂り、表に出る。


 「うわぁー、体が硬ーーい。」

 俺はそう言うとボロボロの体に、これからこの体を動かしますよ、と伝わるように十分にストレッチを行い、丘を走り出した。

 走ると言っても歩くよりも遅い。

 よちよち歩きの様な走り。

 それでもいち早く体力を回復したいため鞭を打つ。

 折角祠の回復が魔力だけでなく体力も回復する為、時間短縮。

 ひたすら限界まで走る。

 もうこれ以上はもたない、となったら祠に向かい。

 「次は魔力だな。」

 と、影盾ブラックホールを一発。(まだ発動すらしないけど)

 で、寝落ちる。


 目が覚めると陽が中天にある。

 ぎりぎりまで体力を回復したい俺は、操影で食事の用意。勿論ヒョウの分も用意している。

 「また行ってくる。」

 とだけ言って、丘を走り出す。


 また暫く走っているとクタクタになり、祠で影盾ブラックホールで寝落ちる。


 今度目が覚めると日が傾き始めており、もう一度丘を走り出す。

 これもクタクタになったところで水採取で体を流し、乾かし、食事の用意。

 食事が終わると影盾ブラックホールで寝落ちる。


 55日目。

 今日も祈りを捧げることから。

 昨日とほぼ同じ訓練。


 1日3回魔力切れを起こせば、3倍とまではいかないだろうが1回の時よりは成長するだろうと。

 ただひたすら、影盾ブラックホール、新・影盾(仮名)を行うのに、圧倒的に足りないのが魔力量だからだ。

 それは、祠の中に空間収納を生成した時に分かっている。

 祠に充満する魔力を借りることで生成が可能であったからだ。


 「いや、むしろ祠の魔力に導かれた?」

 最近のみつかいさんは殆ど小さい「ピンッ」だ。

 もうこの50日を超える日々の中で、俺が頭の中で疑問をして、その答えを仮定する度に答えて貰ってきたんだ。

 おそらく殆どの事を聞いてきてるのであろう。

 しかも俺のボキャブラリーではピッタリと言葉が当たらないのだろうと。

 いくら物理法則が近い世界を選んでくれてるとはいえ、根本的に魔法が存在する世界を選んでくれたんだから。

 それも俺の希望で、だ。

 その中で俺の魔力だけでブラックホールを生成するには海と水溜まり程の差で魔力量が足りていないのであろうと。


 では、あと46日このまま訓練を続けても、その領域には到達しないのでは。

 大黒蛇には敵わないのでは。

 毒息対策は完成しないのでは。


 それらの答えは合っているようで、合っていないとも言える。

 そこまで完成しなくても毒息を防ぐ方法はあるし、大黒蛇も倒せる。

 俺の魔力量だけでも空間収納まで作れるようには絶対になれる。

 そう教えてくれている。


 後は、がむしゃらに訓練し続ける事と、訓練の質を変え、イメージを強く持ち、なんならそれらを全てすっ飛ばして、完成した姿を完璧にイメージ出来れば発動するかも。

 と、とにかく諦めないで行う事だ。

 だって”出来る”という保証があるのだから。


 朝食後、木刀を持って走った。

 まだ、型の動きは全く出来ないが、上半身にも負荷をかけて早く回復に持っていきたいから。

 昨日と同じく、3回寝落ちる。


 56日目。

 今朝はすこぶる元気よく目覚める。

 体力がかなり回復してきた。

 その嬉しさも合わせ感謝の祈りを捧げる。


 今日から720通りの型稽古を行う。

 まだ体はどこか硬いが、それでも型の動きを始めると、こんな体でも次の動きを体の方から示してくれているような感覚で動ける。


 だが、まだまだこわばっている体では720の全てを出し切る前にバテて、刻は日が中天に指し、祠に戻って新・影盾。

 当然重力操作や吸引対象を色々イメージして改良してだ。

 それであっけなく朝の寝落ち。


 目覚めると、体の方は問題なく回復しており、720まで足りなかった50数通りを行うと、何か少し物足りない。

 やっぱり体力増加も、ギリギリまで消化しての回復で増加してる。

 それを感じて、

 「よしっ、それならっ」


 俺は重力操作1.5倍で型稽古を続ける。

 何とか720を1周行えた所でバテて、新・影盾で寝落ちる。

 当然多少は改良はしてたが。


 夕刻前に目覚めた際には、重力1.5倍では暗くなる前までに体力を削られない位までになっており、途中から重力操作2倍で型稽古。

 何とか暗くなる前に体力を限界まで削ることに成功し、水浴び、乾燥、夕食、で、魔法訓練で寝落ちる。


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