第七章
60日目.
朝の祈りと食事を終え、型稽古をこなした後、魔法訓練へ。
その新しい「影盾」の訓練中、ふと突破口が見えた。
前世で耳にした「ブラックホールには出口がある」という仮説を思い出す。
ならば、自分で小さな入口を作り、そこを強力な出口へと繋げられないか。
その出口に選んだのは、、、祠の空間収納だ。
俺は祠の中に新たな空間収納を設置し、そこに繋がる入口を小さくてもいいから発生させる。
祠の外に出て、そのイメージを固める。
「新・影盾」
それはあっけなく完成した。
ここ数日の魔力量増加訓練の成果もあるだろうが、やはり祠の力を借りたことが大きい。
ともあれ、これが第一歩だ。
俺はヒョウに最上の感謝の念を込めて言う。
「ヒョウ、ありがとうな。」
「くぅうんっ」
そこで祠に戻り、魔法訓練の続きで寝落ちする。
目を覚ますと午後。南の森へ向かうことにする。
新・影盾を使って薬草や果実を採取する訓練と、この森最強の魔物、ワイルドベア(自称)を狩るためだ。
ワイルドベアとは、以前倒した最凶の熊が魔物化した存在。
動物の熊ですら、この森で生きられるほど凶暴だったのに、それが魔物化すれば強さは言うまでもない。
滅多に起こらない魔物化だが、ここ数日で出現し、この森の生態系すら崩しかねないことを知っている。
それでも俺の胸中では、危機感より「この森最強を一人で倒せるか試したい」という思いが勝っていた。
「これから森に行ってくるけど、お前はどうする?」
「くぅううん」
「そっか。じゃあ、行ってくるな。」
一人で森へ入り、野苺、傷口草、解毒草、鎮痛薬草、止血草などを採取。
新・影盾が周囲の草木や蔦まで強引に吸い込もうとするため、影槍で切りながら力加減を調整する。
そこへ、俺の魔力に反応したワイルドベアが近づいてきた。
「待ってました」
そうなることを見越して、この場所を選んでいた。
「ガルルルルルッ」
まるで前世のトレーラーか鉱山で働く重機かと思わせる、ぱっと見でも10mは超える物体が、あからさまな殺意をその目に宿し睨んでくる。
「これは気張んないとだな。」
初めて魔物と対峙した、レッサーボアとの戦闘を思い出す。
ナイフ片手にブルブルと緊張して震えていたことを。
だが今は、こんな巨大で禍々しい魔物を前にしても、武者震いはすれど恐怖はない。
それどころかワクワクする気持ちもある。これまでの訓練の賜物であろう。
「どっちからいくか?」
そう言い終わる前に、ベアから魔法の球が10個放たれる。
「ガゥッ」
「えっ!ファイアーボールっ!?」
「影盾!×10」
咄嗟に水採取を含めた影盾で対消滅させる。
「バスッバスッバスッバスッバスッバスッバスッバスッバスッバスッ」
「森の魔物が火属性だとぉっ!?」
森の生態系どころか森そのものを脅かす存在だ。
ベアは次々とファイアーボールを10個、10個、20個と放ってくる。
水影盾でそれらを対消滅させていくが、最後の20発の処理に時間を取られた。
その隙に、ベアは目の前で特大ファイアーボールを生成し始める。
「まずいっ。」
俺は咄嗟に祠奥の新たなブラックホール出口をイメージし、新・影盾を特大ファイアーボールの前に展開。
「影盾っ!」
同時に、まだ火球生成中のベアに駆け上がる。
立ち上がったベアの15mはあろう上空の顔に目掛け、後足、前足と切り付けながら駆け上がり、影槍を纏った木刀を喉元に突き入れる。
「ガフッ」
「どさっ」
その場でワイルでベアは崩れ落ちる。
終わってみればあっという間だった。
恐らくベアは、ファイアーボールを10発放つのが当たり前と俺に思わせつつ、急に20発放つことで隙を作り、その間に特大ファイアーボールで止めを刺すというパターンを想定していたのだと。
だが、俺には通用しない。
グレーターボアも大黒蛇ももっと巧妙なブラフを張っていた。
レッサーボアでさえ、その身を賭してフェイントを掛けていた。
この差は経験値の差だろう。
ワイルドベアは魔物化して間が無かったのであろう。
今後もしワイルドベアが発生した際にはもっと警戒しよう。
そしてこの場でベアの解体に入る。
血抜きをして水で洗った肉を、内臓から順番に新・影盾で最初の空間収納に収めていく。
ベア皮はもう一度洗い、乾かし、それも丸めて収納する。
祠に戻り、ヒョウにベアの内臓を切り分けて大皿に載せる。
「ほら、今日の御馳走だ。」
「くぅんっっ」
ヒョウも嬉しそうだ。
そのまま内臓を切り分けていると、心臓の中からまた石があるのに気付く。
「これも魔石か?」
取り出すと、薄赤く輝く親指の節位ある丸みを帯びた石を取り出す。
「綺麗だ。」
グレーターボアの琥珀色の石とは違い、色は薄めだが、黒いくすみが殆どない。
「これはこのまま飾っても装飾になるなぁ。」
その魔石を眺めながら、切り取った内臓を少し、火に煎って食事にする。
熊肉とは違って魔力が込められている分、いくらかは美味しい。
俺はベアの魔石を空間収納に収めると、明日を大黒蛇との決戦日と定め、そのための準備として、もう一つ空間収納を祠の奥に生成する。
先程のベアの特大ファイアーボールを保存食用の空間収納に繋げたくなかったのと同じように、大黒蛇の毒息もどちらの収納にも一緒にしたくない。
それと、特大ファイアーボールの炎を、闇魔粒子で採取する訓練を行う。
いずれ俺の魔法で炎、火を熾せないかと。
今では水を自在に扱えるのだ。
火もそうなりたい。
食後は明日に向けて、黒蛇に対しての動きを徹底的におさらいした。
午後も同じく行い、夜は朝のベアの炎の研究で魔力を使い果たして寝落ちする。
61日目。
すっかり心身ともに晴れやかに目覚めた俺は、本当に今ある自身の周りに存在する全てのものに感謝の祈りを捧げる。
今日は大黒蛇を倒す日だ。
俺はヒョウにはベアの内臓を、俺にはベアの内臓を少しと残っているボア肉を少しを、いつもの火打石で火を熾して朝食とする。
俺は食べながら今日の戦闘を頭の中で色々想定してみる。
一番の懸念点だった毒息は新・影盾で完全に防げる。
問題は次点の睨みによる硬直だ。
一度受けているので来ることは分かっている為、その対策だ。
受けたことのある経験上、体は硬直しても一瞬なら魔法は発動出来ると。
ここが一番の賭けだが、何とか睨みを発動の瞬間には新・影盾を発生させてやる。
その部分を何度も想定し、食事を終えた俺は立ち上がり、
「じゃあ、行ってくるな。」
とダンジョンへ目指す。
「心配すんな。勝ってくる。しかも無傷でだ。」
「くぅんっ」
そうしてダンジョンと呼んでいる北西の祠に着き、階段を降りる。
そろそろ大黒蛇のいる大広間が見えた所で独り言をこぼす。
「今日こそはやってやんよっ。」
大黒蛇に対峙すると、奴もこの前仕留め損ねた獲物を見付けたと、にやりとしたように見えた。そして、
「シュッシュッシュッシュッシュッ!」
黒蛇の左右から俺に向けて10本ずつの黒石槍が放たれる。
と、同時に黒蛇自身も視界から消える。
最初から全力戦闘をかましてくる。
しかし俺には想定内で、新・影盾より生成スピードが速い影盾を20枚作って躱した。
そしてすぐに、俺が躱した先に影盾を突破した黒石槍が軌道を変えて向かって来る。
更に俺はそこに合わせて大き目の影盾を生成し、その隙を狙ってくる黒蛇の突貫に対しても俺は同時に影盾を作って止める。
すると全ての黒石槍と自身の突貫も防がれた黒蛇は、その隙に、反対に伸ばしていた尻尾で俺を攻撃する。
それすらも想定していた俺は尻尾に向けて影盾を生成し、咄嗟に影移動で躱す。
ここまでほんの数秒。
5秒と掛かっていない。
俺は新たな新・影盾を取得すると共に、魔力量も大幅に増加したが、全ての魔法の生成スピードも大幅に向上していることと、影移動戦闘もかなり速くなっている。
しかし、この1合で俺からは攻撃の隙を作れなかったのも事実。
奴の速さには俺の魔力や攻撃は全てギリギリで防戦一方だ。
このまま奴か俺の魔力や体力が削られ続け、どちらか先に隙を生じた際に決定打を打たれて終わる。
俺は奴に隙が出来たなら、影槍か影槍を纏った木刀で一撃を喰らわす準備はある。
と同時に奴も俺に隙が生じたら、睨み、から毒息と止めにくるだろう。
だが俺にはわざと隙を見せる余裕はない。
このままやり合うしかない。
そこから2合、3合と奴の攻撃、奴のターンだけが重ねられる。そこで5合目の時、同じ攻防に飽きたのか奴は大技に出た。
奴は俺の正面にある顔の左右から10本ずつの黒石槍、俺の背後に回した尻尾の左右に10本ずつの黒石槍を俺に放ってきた。
俺がそれを躱せたら奴自身に向かって来るのにだ。
俺はその隙を逃さず影移動で黒石槍の軌道から外れ、奴の目を目掛けて突きを入れる。
が、それは奴のフェイントで、自身に向かう自身の黒石槍には目もくれず、俺に顔を向け睨みを入れる。
「ドクンッ」
睨みの魔法を俺に入れると同時に、奴に黒石槍が刺さる。
かと思いきや、奴の体に当たる直前に消滅した。
(あぁ、自身の魔法では傷つかないことは承知で、あれはブラフだったんだ)
だが、それでも俺はこのタイミングは逃さず、新・影盾を俺自身の目の前に、体が硬直する直前に発動させられた。
奴が発した全ての毒息が新・影盾によって回収されていく。
そしてまだ毒息を吐き続けている黒蛇に向け、一瞬早く睨みから解放された俺が、目には木刀、喉には影槍を叩き込む。
「シュシェェェェェ--ッ」
変わった断末魔を上げ、大黒蛇はその場で倒れる。
やっと終わった。
目に見える怪我はないが、心身の疲労はかなりのものだ。
「ふぅぅぅぅ。こいつどうしよ。」
俺はこの蛇肉を食べたいとは思わないが、この黒光りしている皮や、恐らく取れるであろう魔石は貴重な素材になると思い、血抜きと洗浄だけして最初の空間収納に収める。
すると、大黒蛇が居た辺りに、これまた黒光りする石の塊を見付ける。
「こ、これは、ドロップ品かっ。」
良く見ると、薄青く光る黒い鉱石のようだ。
「師匠はこれを持ってこいと言ったんだな。」
久しぶりのみつかいさんの大きな「ピンッ」を聞くと、北東の師匠が現れる草原まで進む。
すると久々にその場の空間に闇が現れ、いつもの師匠の出現を見るのだった。
「やったんだな。」
「はい。」
「ほほぉ、鉱石だな。随分と苦労したとみえる。」
「まあ、今後それも必要になるからな。それはこちらで預かっておこう。」
と手を伸ばしてくる。俺はその預かろうという言葉に素直に鉱石を渡す。
「この後鍛錬をつけてやる。従魔と共に来るが良い。」
「えっ?あ?従魔?」
俺は要点を得ず、そう聞くと、師匠は何も言わずその場で消えていった。
俺は師匠が言う従魔とは、思い当たるのがヒョウしかおらず、しかし従魔にした覚えはないし、俺より強いヒョウを従えるとか、ない、ない、ない。
そう思いながら祠に着くと、ヒョウは何故か全てを分かっているかの様に、先ずは食事からとばかりに大皿を鼻で動かし催促する。
「そんなにお腹空いてたのか?」
「くぅうぅん」
俺は収納から肉を取り出し、遅めの昼食を摂る。
二人とも食べ終えるとヒョウは起き上がり、祠を出ようとする。
「え、師匠、テネブラエの言う従魔って、お前のことなの?」
「くぅんっ」
「俺はお前のこと従魔だなんて思ってないぞ。それこそ恩人(恩魔?)、もしくは親友だと。」
「くぅうぅん、くぅうぅん」
「それでいいってか。そういうものなのか。」
それだけ言うと、ヒョウと共に北東に向かった。
いつもの場所に着くと、いつもの様に師匠が現れ、
「掛ってくるが良い。」
とだけ。
その姿を見ると持っているのは杖のまま。
今度は少しも構えようともしない。
俺はその態度に少し怒りを覚えた。
あれから俺は相当強くなったと自負している。
なめられたもんだ。その怒りと共にこちらから突進する。
「うりゃぁああっ!」
構えも取っていない師匠に向け、初手に渾身の一撃をと、俺の最速の突きを放つ。
すると、
「シュッ」
と軽い音だけ残し、師匠は何の動作も前触れもなく、俺の視界から消える。
俺は、多少また型の動きからだと思っていた所もあり、油断した部分もあった。
しかし、大黒蛇を倒してからの稽古の続きということもあり、実戦形式になると予測していた部分もある。
それでもこの動きは予想以上だ。
どちらに動いたのかさえ感じ取れなかった。
「マジかっ、左右どちらだっ!」
俺は完全に師匠の動きについていけず、どちらを警戒するのかも決めきれず固まっていると、師匠の杖の攻撃を俺の左に感じ、杖が当たる直前に木刀を滑り込ませることには成功する。
「ぐわっ」
一応木刀で受け止めた師匠の攻撃は、俺の木刀をいとも簡単に折り、その勢いを止める事なく、俺毎叩き切った。
俺は10m近く吹き飛ばされ、その出来た間ですぐさま起き上がり、折れた木刀を手放し、両手に影盾に近い性質の影槍を纏わせると共に全身に黒粒界を纏った。それと同時に元居た場所に目掛け、影刃を10枚広がる様に放った。これを左右どちらに避けるかで次の攻撃が予測出来る。
そう思った俺は後悔する。既に影刃を予測して軌道を躱していた師匠は、俺の背後を取った。
「ぐはっ」
ギリギリ生成途中の影盾が、多少の威力を遮り、失神は免れたが、前方に大きく転がった。
間を置かず起き上がったが、俺にはもう、どちらから攻撃が来るか分からなくなった。
今の俺では攻撃を始める隙を突かれて止めを刺される。
黒粒界を纏い防戦一方にしてもいつまでもつか。
それからは視認には頼らず、全ての感覚で喰らわせられるであろう方向に、両手のどちらかの影槍を挟み、防御していく。
それしかないと思った。
が、そこでふと違和感を感じる。
ここまでの戦力差、いつでも止めを刺せたはずだ。
(俺は死なないが)
何かを試しているのか、俺の成長の為か。多分後者だ。
俺の魔力か体力が尽きるまで、圧倒的な力の差を見せようとしているのだ。
その為にヒョウを連れて来いと。
そうと分かればそう簡単にはやられてやらない。
「まだまだぁっ」
その気合は虚しく次の1手で簡単に気絶した。
しかし師匠は俺を気絶させる最後の一撃の前に奇妙なことを言っていた。
「四半月もすれば大黒蛇は復活しておる故、また倒してこい。」
64日目。
俺はまた、2日間も寝てたようだ。
また俺はヒョウに水や肉を起きれないまま与えて貰っていたようだ。
だが、今日も生きている事、こんな俺を指導してくれる存在が居る事、この世界に連れて貰えた事、この世界の存在に、全てのものに感謝の祈りを捧げる。
前回俺が寝込んで、次に対決出来るまでに2週間。
かなり時間のロスをしたが、その後の努力で失った時間を取り戻せただけの成長が出来たと俺は思っている。
「今回のロスも必ず成長に替えてみせる。」
今日は体も起こせないから魔力の鍛錬だ。
先ずは操影を森に向かわせ、材木の伐採。
ある程度間伐して10本ばかり持ち帰ってくる。
その中から広葉樹を選び、更に一番硬そうなのを1本選んで、先日折れてしまった木刀を作る。
スペアも含め全部で5本。
木刀の長さは前世のものに合わせた。
たまたま前世での生前、その頃の日本では物騒になり、辺り構わずといって良いような素人による強盗が流行っていた。
その為の護身用に何かを求めた際に、俺は木刀を選んだ。
剣道などの心得はないが、室内で包丁などの刃物やバールなどと対峙すると考えた時、木刀が最適だと。
俺が反対の立場なら怖い。
もし自分の手に刃物やバールを持っていてもだ。
木刀の持つ間合いとそれを室内でも力いっぱい振るえる長さ、それが良い。
そうと決まってネットで探し始めたものの、木刀には長さが大刀、中刀、小刀とあり、3種類あるのにその長さが表記されていなかったことに不思議に思って調べた。
それぞれ101.5cm、91cm、54.5cmだったと思う。それで小刀はないと思いながら大中どちらにしようと悩んだ際、両方注文した。
届いてみると大刀は少し長くて室内だと使いにくそう、中刀は間合いが足りなそうと思ったものだ。
それでも折角のものだから、大刀では突きの練習を、中刀では振りの練習をした。
この世界にきて真剣に剣を学びたいと思い、木刀の長さは今までも今回の物も全て大刀の長さ位に作成した。
それと仕上げに、以前アブラナに似た花から種を採取していて、それから圧搾した菜種油を削った木刀に塗り込む。
これが強度にどれ位影響するか分からないが、思ったことは何でもしてみることにした。
残った魔力でファイアーボール研究を行い、最後ブラックホールの出口を祠に頼らず作れないか試して寝落ち。
起きるとこれを繰り返し寝落ちし、夜の最後の寝落ち前に毒息で毒息耐性を高め、解毒草を飲んでから魔力欠乏で寝落ちして翌朝を迎える。
65日目、祈りを捧げ朝食を摂った後、まだ体内に毒が残っていて体が思うように動かず、暫くは魔法の練習。
終えると早めの昼食を摂り、多少動けるようになったので午後から体力トレーニングを入れていく。
勿論重力操作付きの剣の型稽古だ。
1.5倍からだ。
この型稽古というのは本当に良い。
無心で出来るし、目を瞑ってても出来る。
目を瞑って相手を想像し、相手の動きに合わせて多少変更しても、基本の型の動きになる。
そして体を鍛えるのにも丁度良い。
俺が師匠の他に武器を持った敵といつ戦うことになるとは想像できないが、魔物との戦闘にも役立っている。
あれ?ボアとの戦闘で偶然できた動きを型に入れたんだったっけ。
いや、それだけではない。
ホークとの戦闘でも、それこそこの間の黒蛇との戦闘でも型稽古からのレベルアップから倒すまでに至っている。
体がかなりきつくなってきて、回復と魔法練習の為に祠に戻る。
ブラックホールの出口を練習して直ぐに寝落ちる。
起きると夕方近くで、それでも動けるうちに体を動かす。
型稽古重力2倍。
一通り動いたら夕食。
ヒョウと共に摂ったら、もう一汗流し、終えるとその汗を流して、乾かして、祠に戻り、毒息を採取して落ちる前にファイアーボールの研究とブラックホールの出口練習で寝落ちる。
66日目、今朝は毒は殆ど残っていない。
祈りと朝食の後直ぐに体を動かす。
型稽古で重力は2.5倍だ。
日が中天を差すまで行い続けると、かなり疲れが出てきて一度祠で食事とブラックホールの出口の練習で寝落ちだなと考えた、その瞬間、
「出口って、出口だけ作るのもありなんじゃね?」
そういうと、俺は自身の足元に影を少し伸ばし、初めて祠に来て、祠の魔力を借りて空間収納を生成した際の記憶を再現し、自身の陰に祠の空間収納と繋がる空間をイメージする。
と、簡単に空間収納の出口が完成する。
「え?こんなに簡単に??」
俺はその収納から収めてた肉を取り出しながら、自分で自分に問いてしまう程あっけなく生成された収納出口に一言溢した。
確かにこれは祠で休憩しながら寝落ちしてきた魔法とは違う。
俺が練習してきたのは、新・影盾のブラックホールの出口を、祠に頼らず自身の魔力で生成する練習であった。
だが、祠の魔力を借りれば出口だけなら簡単に作れるということだ。
「ということは、だ。」
俺は独り言をぶつぶつと呟きながら、焚き火跡に向かい、薪を徐に並べる。
そこで、
「炎採取(自称)」
と叫び、ベアの特大ファイアーボールを収納した空間収納と、目の前に影を発生させ、そこにその空間と繋がる出口を生成し、そこからファイアーボールの炎を薪が燃える程度だけ採取して火を熾す。
「火魔法、出来ちゃったよ。」
そう口にはしたが、これは借り物魔法であって、火魔法を修得した事にはならないなと思った。
そんな事より、出口だけなら作れる事実だ。
祠に充満する魔力程の魔力量を持てるようになれば、俺の魔力だけで空間収納や、ブラックホール、長いから名前を空間収納は、「収納」ブラックホールは「黒穴コッケツ(自称)仮」とし、この両方を使えるようになることが解っただけでも、今後の目標になる。
なにせ魔法はイメージが大事だからね。
焼けた肉を影で持つとそのまま祠に入っていった。
「くぅうぅんんっ」
とぽかんと俺を見上げるヒョウに、俺は、
「そう、こんなことが出来る様になったんだっ。」
と言いながら、今までの影を祠の奥の収納に伸ばすのではなく、影をヒョウの大皿の真上に生成し、そのまま直接肉を取り出して並べた。
「くぅんっ」
ヒョウも喜んでくれた。
(肉が現れることでなく現れた肉にだったのかもだが)
「ぅぅん、何かもっと他にも見落としとかありそうだなぁ。」
そうぼやきながらも、とにかくがむしゃらにやってると、いつも、ふと答えが現れる事には変わりが無い事だけは、はっきりとしたかな。
「うんっ、練習あるのみだっ。」
「くぅんっ」
「だよなぁ。」
「くぅんっ、くぅんっ」
「ははははっ。」
「あっ、そうだ、これだけは先に試しておこうっ。」
俺はいつも火を、朝昼のはそのまま放置し、夜の火だけは水で消していた。
朝、火を熾す際には水分操作で乾かしてから。
今回試すのは二つ。
俺は影を伸ばし、幾分か弱っている火に薪をくべ、勢いを取り戻させる。
その勢いがついた火を新・影盾を生成し、ファイアーボールの収めてある収納に収める。
そして暫く様子をみる。
今度はその場で出口を作り、収納した焚き火を見てみると、そのままの状態で保存されていた。
「良しっ、やったぁっ。」
俺が試した二つとは、焚き火がファイアーボールの炎に飲まれないかと、魔力でない自然現象の焚き火が消えてしまわないかと、だ。
どちらも問題ないことに俺は喜ぶ。
「これは色々快適な使い方が発見出来そうだっ。」
色々試したい気持ちは一旦抑え、先ずは魔力量の増加の為に寝落ちする。
今一番魔力を喰われる”黒穴引コッケツイン”(自称)、”黒穴出コッケツシュツ”(自称)と黒穴の入口と出口の同時生成を試み、寝落ちる。
起きるとまた日が傾き始めていた。
「体力が戻ってくると一日2回しか寝落ち出来ないなぁ。」
そう言うと、時間が勿体ないので夕食までの時間を型稽古に当てる。
表に出ると、
「そろそろ出来るはず。重力3倍。」
今までの最高を超え、3倍の重力の中で型稽古を行う。
と、午前の疲れも完全には癒えておらず、あっという間にバテる。
「これは夕食後は動けないなぁ。」
そう言うと汗を水で流し、それを乾かすと、焚き火跡に薪をくべ、その薪の山の下に黒穴出で良く燃えている薪を入れる。
すると大きく煙を吐きながら薪が一斉に燃え始める。
「これは、随分と火熾しが楽になったな。」
そうしてヒョウと食事を済ませると、いつもより寝るには時間が早い。
「丁度今晩は試したいことがあったからいいか。」
そう言って、最近使わなくなった「影縫い」の改良を考える。
重力操作も加わった影縫いは、一時とても有用性があったのだが、森を移動して、殆どの魔物が魔法を使うようになってからは余り使えなくなっていた。
それは、飛んでいるブラックホークは論外なのと、ワイルドボアでさえ影縫いを伸ばすと、その魔力に反応して飛んで避けていた。
それより強いグレーターボアやこの辺りに居る魔物は、影縫いを伸ばそうとしただけで、その魔力に反応し、その軌道から避けられていた。
「伸ばす、ではダメなんだ。」「なら、何がある?」
「理想は突然、相手の足元に生成される影縫いだ。」
そう、そこから考えればいいんだ。
今の影縫いの現実と、理想の影縫いの間を近づけるイメージだ。
「先ずは離れた場所に生成させるより先に、俺が離れても生成される。か。」
設置型の魔法トラップか、引っ掛かる奴も少ないと思うし、引っ掛ける為には相当苦労しそうだな。
だが、先ずは最低限これだな。
「その次位は目指したいな。」
広範囲で使用している魔法、索敵か。
「そうだな。先ずは設置型を訓練して、その先の索敵と繋げる方法を模索しよう。」
そうは言っても設置型は自身が移動しないと発せられないので、明日だ。
今晩は索敵から影の生成だな。
そして索敵を発動させ、その小さな一粒を床に落とすイメージから、その落ちた一粒が大きく広がり、影縫いを発動させる。
そこまで考えると既に足元に影が広がって重力操作が出来ている。
「そっか、祠だと何でも出来るよな。」
自分で言って自分でハッとする。
「そうだ、完成前の魔法はここで完成させて、出来るイメージを持たせればいいんだ!」
これは大発見だが、40日以上経って気付けたのが、なんと勿体ない事か。
「な、なんてこったぁーーーっ。」
だが、そんなこと叫んでいても何一つ好転しない。
後悔先に立たずだ。
「今出来ていない魔法は、全て今晩ここで完成させてやる。」
「先ずは身隠し。」
「あれ?身隠しはここに来た日からやってたな。」「じゃあ何が違う?」
何が違うのか考える。
「そうか、俺は身隠しに、祠の魔力を借りようとしていなかったのか。」
確かに、逆に身隠しで魔力切れを起こそうと練習していた。
「そうか、使い分けが必要か。」
「そうと分かれば、身隠し!」
おぉ、そうそう、もっと細かく、もっと濃く、もっと広範囲に、で身隠しが祠を超えると一気に魔力を持っていかれる。
「まずい、まずい。落ちるところだ。」
「次だ、次は黒粒界!」
おぉ、これもこれだ、もっと細かく、もっと硬く、
「良し、良し、この位硬ければ殆どの魔物の攻撃はこれだけで受けられるな。」
「寝落ちは身隠しだな。」
祠の大きさに合わせて
「身隠し。」
良し、良し、徐々に広げ、外の認識阻害結界と少しだけ重ね、違いを確認する。
「うぅ、落ちそう、まだだ、我慢、我慢。」
「もっと細かいのか、あと何か阻害力というか何かが・・・」
寝落ちた。
67日目、今日はここ最近ではかなり気持ちの良い目覚めだ。
いつものみつかいさんを初め、全てのものに感謝の祈りを捧げる。
昨晩魔法練習に張り切り、毒息耐性訓練をしなかったからだ。
本当にもっと早く知りたかったな。
まあ、今日も後悔していても何も始まらない。
切換え、切換え。
かなり早く起きれたので朝練。
表に出て、
「重力3倍。」
型稽古を720通りを通しで。
一汗かいて部屋予定の屋根の前にある、焚き火跡に薪をくべ、火を熾す。
「黒穴出。」
火種を薪の下に置き、肉を取り出し、串に刺して火の回りに刺しておく、そのまま祠に戻る。
ヒョウも起きてきて
「ヒョウおはよう。もう食べるか?」
「くぅんっ」
「そらよっ」
と大皿の上に黒穴を生成して肉を取り出す。
そして昨晩の続きでここから俺の串肉を確認する。
索敵を焚き火までの小さい範囲のものを生成して、焚き火の手前に闇影が生成されるようにイメージする。
索敵の小さな粒子が集まり、大きくなり、一つの闇影を生成するように、
暫くすると不安定だが薄い影がゆらゆらと生成されるのが感じ取れる。
「もう少しだ、もっと濃く、もっと厚く。」
徐々に影といえるものになっていく。
「よぉし、そのまま肉の焼け加減を調べろ。」
ゆらゆらとした闇影が焚き火の周りに広がる。
「よぉし、どんなだ、どんな状態だ?」
いつもの操影の時の様に鮮明な情報が入ってこない。
「ゆっくりでもいいから、索敵の粒子に沿って状況を教えてくれ。」
薄っすらとだが、徐々にいつも操影から送られてくるような情報が直接頭に入ってくる。
無数の情報の断片みたいなものが、頭の中でパズルのように埋められていくとでも表現しようか。
そしてそれが大方集まったところで。
「良し、焼けてるな。」「今度はそれを運ぶんだ。」
闇影に数本ある串をそのまま持ち上げ、こちらに運ぶイメージだ。
かなり動きは遅いが、徐々に串はゆらゆらとする闇影と一緒に上に上がり、その後こちらに向かって来る。
索敵の魔粒子を伝ってくるように。
そして、それが祠に入った瞬間、はっきりとした闇影に変わったと思ったと同時にこちらにぱっと飛んでくる。
「良し、何とかなったな。」
俺はそのまま闇影に俺の近くで串を持たせたまま、一本ずつ受け取り食す。
「他にもっとやり方あるんじゃないか。」
収納の魔法も、祠の魔力を借りて、外で俺の作った影に作成できたんだ。
収納だから祠の魔力を借りるイメージが付きやすかっただけで、借りる方法があるはずだ。
そうでなければ祠の外であれを生成できた証明にならない。
ならどうする?
「索敵の粒子を使って祠から借りた魔力を外に運ぶ?」
それならイメージが出来る。
今さっきゆっくりだけど実現出来た魔法だ。
「それならっ、索敵。」
また小さな焚き火まで届く索敵を生成する。
祠の魔力を俺の索敵の粒子一つ一つを伝って焚き火の前に黒穴引を生成させる。
そのイメージが出来た瞬間、
「ぶわぁっ!」
と焚き火の前に黒穴引が発生し、焚き火毎収納される。
「出来たっ!」
良しっ、これなら完成イメージは全てのものに使える。
俺はこのまま魔法訓練に明け暮れたい衝動を抑え、体力訓練と唯一ここでは出来ない魔法訓練を行う。
設置型トラップだ。
折角移動もあるので、塩とミネラルウォーターを採取する。
そこで、祠の魔力を借りて、広範囲索敵を行う。
「ここの力を借りたら、海まで索敵できるんじゃないか。」
俺は自身の力で索敵を、海がある南西に向けて発動させる。
1.5km位まで伸び、そこに祠の魔力を借りる様に延長していく。
すると先程の時より簡単に魔力が繋がり、どんどん先まで索敵が広がっていく。
広がる速さが早すぎ、次々と入る魔物と動物の情報に、先に俺の方が倒れるのではと心配する程。
約100kmを超えどんどん伸びると、想像もつかない姿の魔物も検知し始める。
「これは海の魔物だな。」
ここで索敵を止める。
「良しっ、大体把握したな。」
「ヒョウも行くよな?」
「くぅんっ」
「良しっ、行こうっ!」
「くぅんっ」
俺は移動優先で鞄は持たず、ナイフと木刀を腰に差し移動を開始する。
「行きは魔物は全て回避だ。」
「くぅんっ」
先ずは湖を右回りで滝の上、ヒョウに続いて俺も影移動の応用で飛ぶ。
6,7mは飛んで難なく川の始まりを超える。
ここから移動に設置型の練習を入れていく、先ずは索敵から闇影の生成だ。
今の俺は索敵は1.5kmを超える範囲で作れるが、500mに抑えて設置型の練習に充てている。
川を下っていくと大樹の辺りを通り過ぎ、動物の生息域に入り、久々に兎は狩っておこうと、進行方向上にいる茶兎を一匹、吸収で仕留め、そのまま血抜きを行い、時間が惜しいので、茶兎の耳を腰紐に結んで海を目指す。
そのまま進むと出発からざっと3時間強で海に到達。昼まではあと2時間弱といったところか。
前回の海へは、明るくなったら出発し、海で昼食を摂ったら帰り、祠に着くと暗かったのを考えると片道5時間半から6時間弱といった所か。
ここ30日ちょっとで約半分に縮められたことになる。
修行の賜物だな。
先ずはこの距離でも空間収納が発動できるか。
「黒穴引。」
いつもよりかなり時間と魔力が必要だったが、出来なくはないといったところ。
それに茶兎を収納し、続けて、
「水採取。」
で水を同じく収納。更に、
「塩採取。」
を行い、同じく収納。
「後は魚もいくつか獲っておくぞ。」
「くぅんっ」
俺は索敵で近くの魚を10匹位、
「吸収、吸収、吸収、吸収、吸収、吸収、吸収、吸収、吸収、吸収。」
で仕留め、浮いてきたものから血抜きを行い収納していく。
「お前は生きたままの方がいいんだよな?」
「くぅんっ」
じゃあ、なるべく大きめなのを10匹、
「操影っ」
操影を海の中を這わせて掴み取りしていく。
掴み取ったものから収納を繰り返す。
「まだ生きたものの収納したことないから、どうなっても知らないからな。」
「くぅんっ」
なんだ、平気ってことか、大丈夫ってことか。どちらにしても
「まだ早いから今は食べないだろ?」
「くぅんっ」
「なら全部収納するな。」
「くぅんっ」
そうこうしてる間に10匹収納した。
「まだ時間あるから、帰りに兎を狩っていくからな。」
「くぅんっ」
「良し、じゃあ行くか。」
「くぅんっ」
川沿いに北東に進みながら、索敵で見つけた兎の反応があった北へ向かう、吸収で仕留め、血抜きをし、腰に結ぶ。
「後2匹は欲しいな。」
そうして3匹狩れたところで一度止まり、もう一度黒穴引を発動させ収納する。
「それじゃあ次は採取だ。果物がいいな。」
俺は索敵を更に縮めて、探索に切り替える。それでも500m範囲だ。俺は範囲内にある木の上や蔦の先に丸みを帯びたものを注意深く確認していく、
「ここから北に行ったところに何かある。」
そこに着くと、
「これ、ビワじゃないかっ?」
黄色く小さい丸い木の実が、木の上にぷくぷくと生えている。
だが、殆どのものが鳥か何かに突っつかれており、綺麗に残っているものは少ない。
それでも
「残ってるのでも構わない。」
俺は影を這わせて、綺麗な形のものだけ切り取り、収納していく。
「もうあと1,2週間早ければ最収穫期だったな。」
でも、あるだけでも嬉しい。
全部で12個のビワ(自称)が採れた。
「他にないかな?」
と、探索をもう一度行う。
更に北に反応。
進めると、
「こ、これは、」
まるでスイカの様な果実の小さい実が、森には珍しく日が良く当たる場所になっている。
「このまま育てれば大きくなるんじゃないか?」
俺は昔、甥っ子の夏休みの自由研究でのスイカ作りを手伝ったことがある。
確か夏休み中に採取可能に育つ為に逆算し、4月下旬か5月初旬に種から発芽させたような。
その後葉っぱが幾つか咲いたら蔓を4本に絞るはずだ。
絞って実を大きくしたはずだ。
「この実はどの蔓に咲いてる?」
「最初の蔓はどれだ?根はどっちだ?」
俺はそれぞれ探っていくと、実が成っているのは根から伸びた蔓の最初の枝と、2本目の枝に咲いていた。
「確か1本目を切って、次から4本残して元の蔓から切るんだったかな。」
「よーし、それなら、2,3,4,5でこの先を切ればいいはず。」
「他にもないか?」
近くにもう3本の株を見付け、同じ様に蔓を4本までに剪伐した。
実が付いてたのは、見付けた最初の株の2個のみだった。
「後はこの位置を覚えておかないとな。」
「探索・高い木と川のみ。1.5km」
1km南東に川か。
それだけでは特定できないな。
もっと絞って、もっと広く、
「探索・高い木のみ。3km」
2km超北東にあの大樹だな。
これならここの位置が特定できた。
「待たせたな。良し、帰ろうか。」
「くぅんっ」
俺がこの世界に着いたのが5月位に相当するとのことだったので、今は7月初旬から中旬といった所か。
それと開花後から一ヶ月から一ヶ月半が収穫期だったと思うので、最初の実は後30日後位か、そこから半月から遅くても一月だろう。
ちょくちょく実の成長を見に来たいなぁ。
他に取られない対策もしたいしなぁ。
最悪は種だけでも回収して、来年、近くに栽培とはいきたいね。
「そうだ、もうすぐ日が中天に掛かるから、大樹でお昼にしようぜ。」
「くぅんっ」
あっという間に大樹に着き、影で薪を拾って昔の焚き火跡にくべ、黒穴出で火を熾しながら、ヒョウに、
「どこに出す?」
と、聞く、
「くぅうぅぅん」
じゃあ、木陰のこの辺りにするぞ、と別の黒穴出を発生させ、大皿と先程摂った海魚のなかでも大きいものを取り出し、目の前に置く。すると、
「ぴちっぴちんっっ!」
出された海魚は大皿の上で飛び跳ねる。するとヒョウが咄嗟に、
「がぅっ」
と唸り、前足でがしっと抑え、がぶっと食べ始める。
「お前は本当に魚を美味しそうに食べるなぁ。」
「がぅっ、がぅぅぅっ」
「ははっ」
ヒョウの食べてる姿に微笑ましく感じると、自分の熾した火にふり返る。
勢い良くなっている焚き火に、血抜き済みの魚を一匹、たっぷりと塩をまぶして、枝で作った串に刺し、火にくべる。
「懐かしいよなぁ、ここ。」
「くぅうん」
「そっか、お前にとっては苦しんでた時の記憶しかないか。」
「起きられるようになったらその日の内に帰り始めたもんな。」
「くぅんっ」
「ま、あの時は帰るのに2日掛かってたけどな。」
「そっかぁ、俺は成長したけど、お前は本調子でなかったってことだな。」
「くぅんっ」
そうして俺は焼けた魚を皿に載せ食べ始めた。
「うひゃあぁっ、久しぶりの焼き魚うっめぇええ!」
毎日が肉だと時々の魚が大変美味しく感じる。
しかし、やっぱり魚の内臓は苦手かも。血抜きと同時に抜いておけば良かった。
と思った。するとヒョウが、
「ばんっばんっ」
と大皿の横らへんを右前足で叩く、俺がそこに視線を移すと、もう食べ終えたヒョウがお替りを所望しているようだ。
「なんだヒョウ、俺が食べてるのをみてまた食べたくなったか?」
俺は少しふざけた口調でそう聞いた。
「くぅんっ!」
と勢いのある返事。
「え?本当に?さっき相当でかいの渡したぞ!?」
ヒョウには前世の鰹に似た魚で、体長も6,70cm位のを渡していた。
俺には鯛に似た体長30cm位のだ。それでも俺は半身だけ食べてまた収納する予定だった。
「俺の食べてる魚、もう半身は残す予定だったが、それならどうだ?内臓付きだぞ?」
「くぅんっ、くぅんっ」
「そっか、そっか、先に俺の半身を取っちゃうから待ってな。」
そういって綺麗に中骨の上部分だけ取り除き、残りをヒョウの大皿に載せてやる。
「くぅうううっん」
「なんだ?焼き魚もいけるのか?」
久しぶりの魚を、久しぶりの場所で、食事中のヒョウとの穏やかな会話も楽しんでいたが、俺の脳裏には先程の光景が深く残り、頭を駆け巡っている。
(生きたまま収納から出てきた。魚だけじゃないよな。収納時間は関係あるか。今後の為に何から試せば良いか・・・)
今考えても答えは出ない。
一先ず今日、明日の事を考えよう。
「ヒョウ、今日はビワもあるけど食べるか?名前は自称だけど、果物だ。」
「くぅううん」
「そっか、肉、魚オンリーか。」
「じゃあ俺だけ喰うからな。」
そして収納からビワを2つ取り出し、口に運んでみる。
「おぉぉ。甘ぁい。」
地球のと同じく種が大きく実が少ないが。続けて二つとも一気に食べきる。
「それじゃあ帰るか。」
「くぅんっ」
俺は焚き火を黒穴引で吸い取り、帰り始める。
祠に着くとまだ少し夕食には早い。少しだけ型訓練を行う。
720通りを一通り、重力3倍で。
汗を水で流し、乾かして、焚き火跡に薪をくべ、黒穴出で火を熾し、ボア肉を串に刺していき串を火の回りに刺す。
祠に入っていき、
「ヒョウは今晩何にする?」
「くぅんっっ」
「この反応は魚だな。」
「くぅんっ」
俺はヒョウの大皿の上に黒穴出で魚を出す。また、
「ぴちっぴちんっっ!」
に、ヒョウは嬉しそうに前足で、がっと押さえ、食べ始める。
「本当に嬉しそうにたべるなぁ。」
そうして食後に魔法で火を片付け、毒息耐性訓練、魔法訓練で寝落ちる。




