リン、成人する
リンは もう一人にリンの記憶を探すため ローストに近ずく
パイロンが、ローストの元に戻って半年後。リンは遠方の親戚のところに向かうということで、薬屋イバの仕事を辞めた。
辞職の話をしたとき調剤長がリンの身の上を知っていることを知った。リンが一人でも生きていけるように、隣の街の薬師試験の手続きを勧めておいてくれた。リンはカイル調剤長に深く頭を下げた。感謝を伝えることしかできなかった。
退職した足で髪を切り、男の子の服を購入した。リンは育ち盛りの時に栄養が足りなかったせいか、それとも体質か背は伸びたが、女性らしい体型にはならなかった。髪を切って服装を変える。化粧でひ弱な青年に見せた。
パイロンのもとで仕事をするのに女では、差しさわりが出てくる。リンは、母に似ていた。成長と共に殺した姉に似た女の子では困る。少しでもローストに疑われるのは避けたい。男の子の下働きとして入ることにした。女の子を思わせるものは、すべて処分した。少ない荷物がさらに少なくなった。
お給料は、薬師ギルドカードに入れて胸に下げているのでさらに身軽なのだ。パイロンには、仕事先が、貴族様のところなので女の子では、不安だと言っておいた。パイロンは、ローストの女好きは知っていたので、その方が安全だと納得していた。
高台の貴族街の一角にモーリアス子爵邸はあった。年代を感じさせるお屋敷は、名に恥じないたたずまい。よく見ると石壁が傷んでいたり、窓が曇っていた。屋敷回りも手が足りないのか荒れていた。
思い出の中のバラ園は、中庭にあったがどうなっているだろうか。
パイロンに案内された調剤室は、屋敷の離れに建てられていた。昔は多くの人が働いていたのだろう。立派な調剤室に、立派な薬品棚、薬草保管室、会議室、事務室などが1階にある。さすがに薬品保管のために あちこちにしっかりした鍵が付いていた。
2階は、住み込み用に小さい台所やシャワー室、トイレも付いた個室がある。今は使われていない。
パイロンは、屋敷から通う。リンは、2階の個室を使えば十分暮らしていける。
半年かけてパイロンが整備できたのは調剤室と薬草保管室だけだったので、
残りはリンが、仕事の合間に少しづつ片づけることにした。
箒や雑巾で、埃だけの掃除をしていたらローストが声を掛けてきた。
「パイロン、この子が君の言っていた下働きの子かい」
「初めまして、リンといいます。よろしくお願いします」
「父上、街で修行中薬屋で働いているリンと仲良くなったんだ。薬草の事もよくわかっている。薬剤助手までやっているから安心して」
じろりとリンを見下ろす。
「まだ子供なのに優秀だね。パイロンを手伝ってくれると助かるよ。でも薬扱うから、もう少し身ぎれいにしてくれ。ところで、パイロン。いつから薬作れるんだ・・・・・」
ローストは、リンの事など気にかけず、パイロンと薬の打ち合わせの話を始めた。耳だけは、ローストの声を拾いながら、掃除に精を出した。
「父上、一般的な風邪薬。頭痛薬。腹痛止めなんかしかできないよ」
「それでは街の薬屋と一緒だろ。避妊薬や精力剤・毛増剤・化粧品なんかを作れないと困る」
「おいおい勉強するけど、結構難しい。辞めていった薬師に戻ってもらうことできないの?」
きっと永遠に作れないとリンは思った。
「難しいな。今は、闇取引で手に入るけど利益が少ない。まあ、お前が薬師になれたから爵位が継げる。それだけでも良かった。落ち着いたら父上に継承の事を話さないとな。いつまでも死んだ姉さんや義兄の事思ったって、生き返らないのに。俺だって、息子なのに……」
リンの存在など気にかけることなく二人は、これからの事を話していた。これが貴族なのか?人の死など気にも留めない。ゴンばーを殺したことなど忘れている。
パイロンもいずれはローストの様になっていくんだろう。そっとその場を離れ調剤室の水回りの掃除を始めた。
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