次はポイ捨て狩り
如月真琴さんこと真琴さんに魔法が使えることがバレてしまってから数日が経ち、俺はタバコ違反狩りの次にやることを決めた。
まあ内容はほとんど似たようなものだが、次やることはポイ捨て狩りだ。
街を歩いていて思うのがポイ捨てが多いこと。歩道も空き缶やタバコ、コンビニで買ったもの等を捨てたい放題。道路にも車から捨てまくり。
スマホで調べたところによるとゴミのポイ捨ては法律違反らしい。懲役や罰金もある。まあ当然だろう。しかしだ、現状ポイ捨てが横行していることは事実である。タバコ違反狩りで日本中を回った時に特に思った。
そこらじゅうで法律違反が横行しているのに、この国の人はなぜ平気な顔をしていられるのだろう?
前世では悪いことをした奴は街全体で批判をしたし、許さなかった。そう言うことができていないからこんな現状になっているんじゃないだろうか。
自分には関係ないからと思ってスルーしている人が多いのだとは思うが、そう言うことを許すことによって結果的にルールを守らない奴らが調子に乗って、真面目に生きている人が生きにくい世の中になると思うのだが。人口が増えすぎた弊害なのか国民性なのかわからないが俺は気に入らない。
と言うことで俺はポイ捨てが気に入らないので、自己満足のためにポイ捨てをする奴らから金を巻き上げようと思う。
スマホでポイ捨てについて調べたところ、管理人がいないキャンプができる場所でのゴミの置き去りがひどいらしいのでそこをターゲットすることにした。
俺は群馬県のとあるキャンプ場へやってきた。ここには基本的に管理人が常駐しておらずゴミの置き去りが酷いらしい。許すまじ。
ちなみにゴミのポイ捨てを発見できるまで滞在する予定だ。まあ天気などにもよるが。
俺はどう寝泊まりするのかって?もちろんタバコ違反狩りで稼いだお金でキャンプ道具を買ってきたさ。
前世では野営をすることもあったから俺のキャンプ技術は一流だ。と思っていたのだがその考えが甘かった。今の時代のキャンプ用品はすごい。何がすごいってシンプルに軽くて丈夫なのだ。しかもどれもデザインが凝っていてかっこいい。俺が知っている野営道具は重かったし嵩張って持ち運びが面倒だったしダサかった。
初めてのアウトドアショップで俺はテンションが上がりまくってしまった。1人用のテントでもいろんな形があるし、焚き火をするための道具や寝袋、かっこいいナイフなど男心を刺激するアイテムに夢中になってしまった。火なんて魔法やライターでつけたらいいのだが、擦り合わせるだけで火花が散って着火するファイヤースターターと言う物もあってそれも買ってしまった。
結果、俺はかなりのお金を使ってしまった。後悔はしていない。
もはやキャンプが楽しみすぎてゴミのポイ捨て狩りと目的が変わりつつあるが、それはご愛嬌だ。ゴミのポイ捨てを見つけたらしっかり狩りをしようとは思う。
まずはテントの設置だ。平な場所でかつ雨が降っても水溜りにならならそうな場所に組み立て方法が書いてある説明書を読みながらテントを設置する。俺が購入したテントは1人用であまり大きくはないドーム型だ。寝ることだけを想定した細長いテントも興味深かったが、今回は広さを重視してドーム型にした。と言っても1人用なのでそこまで大きいわけではないが。
テントの設置も終わり、ここからはキャンプの醍醐味である焚き火だ。最近は地面が焼けて自然環境や景観を悪くしなように焚き火台と言う金属製の台の上で焚き火をすることが主流のようだ。とアウトドアショップのお兄さんが説明してくれた。
前世では機械が発達していなかったし、高位の魔法使いは自然環境すら変えることができたため一般人が自然環境に配慮することなんてなかったので不思議な感じだ。ついこの間までいた俺が育った村も自然が豊かだったのであまり問題視してこなかったが東京を歩いてわかった。自然は大事にしなきゃだめだ。
自然環境について考えながら早速新品の焚き火台を設置する。かっこいい。
買ってきた薪とそこら辺で拾ってきた木の枝を焚き火台にセットし、麻でできた紐をほぐしてファイヤースターターで着火する。麻でできた紐は火が付きやすく着火剤としてキャンパーの間では重宝されているらしい。これもアウトドアショップのお兄さんに教えてもらった。アウトドアショップで働いているお兄さんはなんでも知っていてすごい。
順調に焚き火を起こした次にやることは決まっている。俺は徐にクーラーボックスからキンキンに冷えたコーラを取り出しプシュッと開け、喉に流し込む。
「ぷはぁっ!」
たまらん。気分的にはビールをクビっと行きたいところだが俺はまだこの世界では未成年だし、めっぽう酒に弱いことがわかっているため残念ながらコーラだ。
しかしコーラと言えども普段飲むコーラとは一味違うぞ。それは本格的にキャンプをしたことがある人しかわからないだろうが。
「よーし、次は肉を焼くぞ!」
これもまた定番だろう。来る途中で買ってきた少し高めの牛肉の塊を焼く。これまたアウトドアショップで買った鉄板を焚き火台の上に乗せて温め、牛肉に付属していた牛脂を鉄板にこれでもかと塗りたくる。なんだかすでにうまそうである。そしてその上に牛肉の塊を乗せるとジュワーっと心躍る音が鳴り響いた。
「くっ、たまらんっ」
口の中で溢れ出る涎をゴクリと飲み込みながらミディアムレア程まで焼き上げ、鉄板を焚き火の炎から遠ざけてナイフで切り分ける。仕上げに岩塩を軽く振りかけて完成だ。俺はたまらず肉を口の中に放り込み噛み締める。
「はぁ」
あまりの美味しさにため息が出てしまった。幸せだ。
前世の野営は魔物や盗賊、あるいは野生動物がいつ襲ってくるかわからないような環境であったため飲酒はご法度だったし、常に神経を張り詰めていた。しかしこの世界はどうだろう、おそらく自然界で脅威となる動物は猪と熊ぐらいだろうし、人の気配があるところにはあまり近付いてくることはない。最悪襲われたとしても熊程度なら撃退する自信がある。つまり俺は今ノーストレスでキャンプを楽しんでいるわけだ。これが楽しくないはずがない。
「こんなに平和だから、逆にルールを守らない奴が増えるのかなぁ」
食事と自然を楽しんでいるとあっという間に日が暮れて夜になってしまった。
焚き火の炎とランタンの淡く輝く光、月の明かりに照らされながら孤独を楽しむ。
「慣れてきたら今度は真琴さん誘ってみようかなぁ」
ひとしきりソロキャンプを楽しんだ後はテントの中に入り、寝袋に潜り込んで眠りについた。
ポイ捨て狩りキャンプ初日は平日だったこともあり、他にキャンパーがいなかったためターゲットを発見することはできなかったが個人的には満足だ。よしとしよう。