表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Halloween Night 2  ~屋根裏が魔界とつながっている件について~  作者: EntroP
第1章 これほどまでに果たしたくない再会があるか。
1/13

1.これほどまでに果たしたくない再会があるか。

 僕は目覚まし時計の音で、はっと目を開けた。


 朝7時。

 外はいつも通り真っ暗だ。


 night町の太陽の電池が切れてから、はや数年。毎日太陽が昇らず、毎日ハロウィーンのようなお祭り騒ぎのこの町にも、ようやく少し慣れてきた。


 ベッドから出て部屋の電気をつけた。ぐちゃぐちゃに散らかった部屋の惨状が目に飛び込んできた。空き巣にでも入られたのかと思うほどの、悲劇的なテイストの部屋。自分一人で暮らしていたら、絶対にこうならないと言い切れるほどの散らかり具合。


 僕は部屋を見回してため息をついた。


 昨夜、僕の部屋は謎のハロウィン生命体による侵略を受けた。魔女やら吸血鬼やらオオカミ男やらに部屋を乗っ取られ、勝手にハロウィーンパーティを開かれた挙句、よくわからない鬼ごっこにまで付き合わされ、夜の街を駆けずり回った。


 その結果、僕はへとへとに疲れ切り、部屋はすっかり『マナーの悪い人が去った後のパーティ会場』になってしまった。


 だが、どうにか魔界人たちを魔界に送り帰すことには成功した。それだけでも救いだな。と自分を慰めた。あいつらとこれ以上関わっていたら、僕まで脳みそが腐りそうだ。

 

 ったく、出だしから日常系小説とはとても思えない単語ばかりだな。

 もはや異世界モノなんじゃないのか、この話。

 と僕は、誰にとは言わないが文句をぶつけた。


 話を戻そう。

 散らかりすぎた居住空間の話だ。


 僕の部屋には見覚えのない丸テーブル、いす、部屋の飾りなどが散乱していた。誰かが持ってきて、そのまま置いて帰ったものだ。今からこれを、片付けなければならない。僕が散らかしたわけじゃないのに。


 ホント、迷惑なやつらだった。

 帰ってくれて、せいせいした。


 飾りつけは全部捨てるとして、テーブルなんかはどうしようか。と僕は部屋を歩き回る。


 おいておくには、あまりにも大きい。邪魔だ。一人暮らしを想定した部屋なので、余分な家具を放置できるほどスペースは余っていない。面倒だが、こいつをどうにかして部屋から運び出し、捨てなければならない。


 僕はテーブルにかかっていた、床につきそうなぐらい長い、真っ黒なテーブルクロスをつかんだ。


 部屋の異様な散らかりっぷりに対し、このテーブルの上だけ、なぜか何も置かれていなかった。不自然だな、と思いつつ、テーブルクロスを外した。


 そして僕は、硬直した。


 テーブルの下に見覚えのある顔ぶれがあった。

 カミ男、リン、トマだった。


 3人は仲良くテーブル下で眠っていた。


 大きめとはいえ、まだ常識的なサイズの丸テーブルの下に、よくもまあこんなにキレイに収まったもんだ。人が3人も眠れるようなスペースはなさそうなのに。


 3人は立体パズルのように折り重なって寝ていた。最密充填構造という単語が頭の中を駆け抜けていった。


 そして、テーブルクロスを外したことにより、もう一つの新事実が明らかになった。


 丸テーブルだと思っていたものは、実はテーブルではなかった。本来物を載せるであろうはずの場所が、くりぬかれていた。これでは、ただの『足のついた輪っか』だ。


 なるほど、だから何も上に置いていなかったのか。と一人で納得する一方で、こんな疑問も浮かび上がる。


 じゃあこれはいったい、何に使うための何なんだろうか。


 いや、今はそれはどうでもいい。僕は他人の家で眠りこけている3人の魔界人をにらみつけ、叫んだ。


「お前ら! 魔界に帰ったんじゃなかったのか!!」

 朝っぱらからセリフがtwitters送りになる。が、それは無視した。いちいち反応してられない。


 僕の怒号に、カミ男とリンが目を覚ました。


「ふぇー?」「ふぉー?」


 完全に寝ぼけている。トマに至っては、起きる気配すらない。

「3人とも、昨日帰るって言ってたよな。ワープロードに入っていったよな」


 リンは「んあー」とあくびをしながら伸びをした。

「なんかー、カミ男が、帰り道にある関所で、ドレスコードに引っかかっちゃってぇ」


「ドレスコード?」

 僕は思いがけない発言に、訊き返した。

「そんなのあるの?」


 リンはテーブル、というか足のついた輪っかの下からもぞもぞと這い出した。

「そぉなの! カミ男のズボンが破れすぎだったから。3人まとめて送り帰されちゃった。ホント、やんなっちゃうよねー」


 やんなっちゃうのはこっちだよ。僕は思いながら、カミ男のズボンを確認した。


 もともとダメージジーンズだったズボンは、昨日の鬼ごっこでさらに激しく破れていた。もはや布よりも破けている部分のほうが多いぐらいだ。


 マジか。

 送り帰されるのか、こんなことで。


「っていうか、なんで3人とも返ってきたんだよ。カミ男だけでいいだろ」


 僕が言うと、リンは

「連帯責任なんだってー」

とめんどくさそうに言った。


 なにその無意味な連帯制度!

 せっかくややこしいのがいなくなって、スッキリした朝を迎えたのに。


 ぬか喜びだったとは。


 リンに続いて、カミ男がテーブル状の足つきリングから這い出てきた。


「ったく、どいつもこいつも、俺のイカしたファッションをボロボロとかぬかしやがって」

 起き抜けから不機嫌なカミ男に、リンが油を注ぐ。


「イカれたファッションのまちがいじゃないのー?」


 カミ男はさらに不機嫌そうな顔をして、立ち上がった。

「おいスバル、きいてくれよ! 関守のヤツよぉ、俺のこと見るなり『ズボンが自然(ただのひも)に帰りかけてんぞ。帰れ』って言ったんだぞ。ふざけんな!ファッションだっつーの!」


 知らねーよ。僕に報告するなよ。


 トマがようやく輪っかの下から出てきた。僕らの会話で目が覚めたらしい。


「だが、カミ男」

 トマは落ち着いた老紳士的ボイスで、落ち着きのないオオカミ男に語りかけた。


「お前のジーンズが、昨日の鬼ごっこでボロさを増していることは、弁解の余地もないほどの事実だ。諦めて、新しいのを買ったらどうだい?・・・スバルもそう思うだろう?」


「ボロさとか言うな。れっきとしたファッションだ。まあでも、新しいのを買うってのは、悪くない。なぁ、スバル?」


「えー。そんなボロいデザインのズボン、人間界(こっち)では売ってないんじゃないのぉ? ねぇ、スバるん?」


 僕は3人の視線を一身に浴びて、つぶやいた。

「いちいち僕に話を振らなくていいから。それより、部屋の片づけ、手伝ってくれないかな」


「そんなことより、スバル。俺は新たなダメージジーンズを・・・」

 カミ男が文句を言い切る前に、彼のセリフを遮った。

「部屋が片付いたら、そーゆーロック系の店、教えるから。店が開くの10時からだし、それまでは片付け手伝え。っていうか、元はと言えば、お前らが散らかしたんだからな!」


「わかったよ。スバルがそこまで言うなら、仕方ないな」

 カミ男はしぶしぶうなずいた。


 それを聞いたリンは

「え、こっちでもボロズボン、売ってるの?」

とビビッた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ