↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Halloween Night 2  ~屋根裏が魔界とつながっている件について~  作者: EntroP
第1章 これほどまでに果たしたくない再会があるか。
PR
2/13

2.空に帰るスタイルなんだな。

 カミ男がズボン購入欲求に負け、部屋の片づけを手伝うことになると、リンとトマもその気になってくれた。

「あたしたちも、カミ男のボロズボンがどうにかなるまで、帰れないし。しょーがないから、手伝うよっ」

「私も手伝わせてもらおう。まずは、この三脚からだな」


 トマはそう言いながら、例の丸テーブルもどきに手を伸ばした。


 それって、三脚だったのか。

 理科室に置いてある、あの三脚か?

 あの三脚だったのか?!


 にしてはデカすぎるだろ。


「そんなサイズの三脚、何に使うのさ」

 僕は三脚を持ち上げようとしているトマに尋ねた。


「ああ、これはなあ・・・」

「こうやって使うんだよっ! 見ててスバるん!」


 リンはトマのセリフを遮ると、さっきのテーブルクロスを持ってきた。それを丁寧に4つ折りにする。


 4つ折りになった黒い布を三脚の上にポンと乗せると、テーブルクロスだったものは、うにょーんと形をぼやけさせ、大きめの金網に変わった。バーベキューとかで見るような網だ。


 相変わらずハイテクだな。

 テクノロジーじゃなくて、魔法なんだっけ?

 まあ、どってでもいいけど。


 続いてリンは、飛び交う矢印(Wi-Fi)をボケーッと眺めていたカミ男をひょいッとつかむと、金網の上に乗せた。


 リンめっちゃ腕力強いな。

 それとも、カミ男が中身スカスカなのか?

 どっちもあり得るな。


「おい、なにすんだよ!」

 じたばたするカミ男を押さえつけて、リンは楽しそうに指をパチンと鳴らす。


「で、こうするの!」

 金網の下で、炎が燃え上がった。

 リンはひょいッと金網から離れた。


 取り残されたカミ男は、一瞬何が起こったのか事態を察しかねたあと、

「あっっっっつ!!!!!!!!」

と叫んで飛びあがった。炎がカミ男の服をなめた。


 リンはすぐに炎を消したが、カミ男のロック系Tシャツはすでに煙を上げていた。時すでに遅しというやつだ。カミ男は悲鳴を上げながら、部屋の中を駆けずり回る。


 あとでご近所さんに謝りに行かなければいけないかもしれないな、と思った。


「こんなふうに人を絶叫させるんだよ! スバるんも、絶叫する?」

 リンは何事もなかったかのように、三脚の説明を締めくくった。


「イヤ。いや・・・嫌」

 どう考えても嫌だろ。僕は小刻みに素早く、何度も首を横に振った。


 お前ら、鬼ごっこに引き続き、絶叫マシンの概念も間違ってるぞ!


「昨日は炎の妖精が、三脚下で炎役をやっていてくれたんだ」

 トマは穏やかに要らない情報を付け加えつつ、Tシャツを鎮火しようとワタワタしているカミ男を、キッチンに連行した。


 すぐに水が流れる音がした。カミ男の悲鳴はボリュームを絞られたように小さくなった。


 無事に消火活動が終わって戻ってくると、カミ男は目に殺意をたたえてうなった。

「それ・・・ただの焼き肉用の三脚だろ! 絶叫マシンじゃねぇだろ!」


 焼肉って、三脚でやるものなのか?

 と聞いてみてもよかったが、今、カミ男にツッコミを入れるのはKYかな、と思い直した。


 きっと魔界人は三脚で焼き肉するんだろう。と自分を納得させるにとどめた。


 怒り狂うカミ男の視線の先で、リンは「てへっ。カミ男を見たらつい、やりたくなっちゃった♡ ごめ~ん笑」とへらへらしていた。


「お前ら・・・部屋片づけろよ」

 僕はその辺に散っていた、雲の姿の飾りをごみ袋に入れた。


「すまないな。いつもこんなふうなんだよ、私たちは。慣れてくれ。さあ片付けるぞ」


 トマは気合を入れなおすと、改めて三脚と金網を持ち上げ、玄関のほうへ向かった。ふう、やっとやる気になってくれたか。


 って、どこ行く気だよ。


「ちょ、トマそれ・・・」

 僕が追いかけていくと、トマは玄関を開けた。

「さあ、三脚、金網。空へ帰りなさい」


 すると三脚の金網が光り輝いた。次の瞬間、三脚は小鳥に、金網は・・・小さな金網に変形すると、二羽は元気に空へ飛び立っていった。


「えーと、これは、どういうこと?」

 僕があっけにとられているのを見て、トマは笑った。


「昨日はあの三脚で、鳥肉を焼いたのでな。驚かせてしまったかい?」

「はあ・・・そうですか。三脚って、鳥肉を焼くと空に帰るんだ・・・」


 いや、全然説明になってねーよ。何、納得させられてんだよ。空に帰るってなんだよ。三脚は空からはやってこねーよ。っていうか鳥肉って。お前らが焼いたのは鶏じゃないのか? いったい何を焼いたら、三脚と金網が空へ飛び立っていくんだ?


 脳内をたくさんのはてなマークが蹂躙した。


 が、すべてに対して答えを出すことをあきらめた僕は、おとなしく片付けに戻った。

 世の中には理解できないこともあるんだな、と悟った。


   ***


 それから、僕は細かいごみを袋に詰め込み、トマが大きい物品を空に返し、リンとカミ男がその辺をテキトーに掃除してくれたので、部屋は何とかそれなりの状況になった。


 時刻は8時を過ぎていた。4人がかりで1時間もかかったのか。まあ、まだ仕事が始まるまで時間はある。朝ご飯にしよう。僕はキッチンへ向かった。


 今日は仕方ないからあの3人の分も用意しないとな。確か野菜類、卵系なら、たくさん残っていたはずだ。僕は記憶を頼りにそう考え、冷蔵庫を開けた。


 すると、さっきの三脚と同種の鳥が数羽、ピヨピヨ鳴きながら飛び出してきた。


 ・・・昨日焼いた鳥肉、冷蔵庫で保管してたのか?

 っていうか、マジで何鳥なんだよ?


「あ、スバるん。それ、焼いて食べてみるー?」

 リンは小鳥たちを見るなり、瞬時に動いた。瞳に鋭い光が宿ったかと思うと、目にもとまらぬ速さで鳥たちの羽をおさえ込んでいく。リンはものの2秒で、すべての小鳥を捕獲した。


 そしてその3秒後、小鳥たちは全てさえずるのをやめた。


 ・・・プロの狩人か、お前は。


「焼くよぉ♡」

 リンは炎の魔法で、鳥たちをそのまま丸焼きにした。僕は図らずも、人生で最も動物虐待に近い焼き鳥に立ち会ってしまった。


 リンは焼けた鳥たちを、いつの間にかやってきていたカミ男が、いつの間にか用意していた皿にのせた。


「はい。完成!」

 リンは嬉しそうに言った。


 なんか、食べる気がしない。

 僕は冷蔵庫の中を改めて覗き込む。そしてあることに気付いた。


 あれ? 冷蔵庫の中身、減ってないか?


 卵がかなり減っていた。製氷用の水も尋常じゃない減り具合だ。残り物のおかず類も、何者かに食い荒らされた形跡があった。


 カミ男が、冷蔵庫の卵ポケットを見て言った。

「このピヨ鳥たち、どこから出てきたのかと思ったら、この卵からかえったんだな」


「え? この卵はかえらないと思うけど。ここは養鶏所じゃないからね? 分かってると思いたいけど」

 

 僕が言うと、カミ男はチッチッと指を振った。


「甘いな、スバル。卵はなあ、隙あらば孵化するんだよ。孵化したしたピヨ鳥は冷蔵庫の中で、食料を食い荒らして成長するんだ。ほら、この辺とか、やられてんぞ」

 カミ男は残り物のおかずたちを指して言った。


 いや、でも。と僕は納得がいかない。


 冷蔵庫の卵はスーパーから買ってきたやつだし。

 お前らみたいな異世界チックな存在じゃないし。


「人間界の卵は、孵化しないと思う」

 僕はなおも言い張った。すると、リンがハッと思い出したように言った。


「昨日、恵みの妖精メグヨちゃんが、『卵に恵みあれ』って、祈りささげてたよ! たぶんそれで、その卵にピヨ鳥が宿ったんだね」


 何してくれてんだよ、メグヨ。

 他人の家の卵に、無断で命吹き込むなっつーの。


「とにかく、たべるよーっ!」

 リンはいらだつ僕を差し置いて、ピヨ鳥の乗った皿を、元から僕の部屋にあったテーブルのほうへ持っていった。


 冷蔵庫の中身も結構食い荒らされてるし。

 食べるしかないか・・・。


 僕はピヨ鳥の丸焼きを食すことに決めた。


   ***


 8時半ごろ。僕らは狭いテーブルを囲んで、ピヨ鳥と相対していた。


 ピヨ鳥はエメラルドグリーンと白が混ざり合った、マーブル模様の小鳥だった。文字通り丸ごと焼かれているので、羽もつきっぱなしになっている。ピヨ鳥たちが皿の上から、小鳥らしからぬ死に切った眼で僕のことを見つめてきた。


 正直、あまりおいしそうではない。


「なあ、スバル。この部屋、何で椅子が二つしかないんだよ」

 カミ男がテーブルの近くの壁にもたれかかりながら、不満をこぼした。


 僕は椅子に座った状態で言い返した。

「仕方ないだろ。一人暮らしなんだから。椅子ばっかりいっぱいあっても、どうしようもないよ」


「いっぱいあったら、椅子でタワーが作れるぞ。私の友でかつて、椅子を200個積み上げて、5000mのタワーを作った者がいたぞ」


 トマがくるくる回るタイプの椅子に座った状態で、会話に参戦した。椅子の足の部分にタイヤがついているのがお気に召したらしく、さっきから一定速度で前後に移動し続けている。


「あー、アレ。すごかったよねー! 驚異のバランス感覚っ!」

 リンがホウキに座った状態で言った。ほうきの可動性がお気に入りらしく、さっきから一定速度で左右に移動し続けている。


「噂によるとあの椅子、積み上げるためだけに、全部特注で作ったらしいぜ」

 カミ男は壁際でそう言いながら、なにが良いのか知らないが、さっきから一定速度で膝を90度に曲げたり伸ばしたりしていた。


 お前ら、視覚的にも騒がしいな。

 落ち着けよ。

 話が頭に入ってこないだろ。


「僕は椅子でタワーなんか、作らないからいいんだよ」

と返事した。


 僕は思った。

 200個で5000mって。

 椅子1個、25mもあるじゃないか。


 そんな椅子、一人暮らしじゃなくてもいらねぇよ。


 家の中に25mプールを縦向きに置いてるようなもんだろ。

 『使い道がない』を極めたような代物だ。


「そっかー。まあ確かに、あの後、タワーが崩れて大変だったもんねぇ。やめといたほうがいいかもっ。あの椅子、全部大空に帰すの、めっちゃ時間かかったしぃ。椅子もせっかく作ったのに、もったいなかったしー」


 リンはそう言って、ピヨ鳥をホイっと口に放り込んだ。

 なんで家具はすべて、当たり前のように空に帰してしまうのだろうか。


 リンは「んんーっ」と目を輝かせた。

「おいしいっ!!」


 それに続いて、トマとカミ男もピヨ鳥に手を伸ばした。

「ふぉー、ほいふぁふぃふぁふぁ(おお、良い味だな)」

「うめぇぇぇぇぇ!!!!」


 2人の魔界人も大絶賛だ。そんなにおいしいのだろうか。

 ものすごく雑に丸焼きにしただけの、一口サイズの鳥なのに?


「はい、スバるん。口あけてっ!」


 リンがピヨ鳥を手に取った。

 そんなに僕にピヨ鳥を食べさせたいのか。


「いや、自分で食べられるから・・・っ!?」

 僕が話すために口を開くと、リンの手からピヨ鳥が放たれ、猛烈な勢いで僕の口の中に飛び込んできた。世にも珍しい『人体バードストライク』が起こる。


 直後、むせ返りかけた口の中に、ふわっと甘みが広がった。


「あえ・・・ふぉいふぃー(あれ・・・おいしい)」


 ピヨ鳥は、肉というよりスイーツに近い食物だった。程よく焼いて表面が溶けかかったチョコレートの味。それでいてパンとグミの中間のような食感。飲み込んだ後に残る、ミント系のサッパリした後味。


 おいしいな、ピヨ鳥。

 

 ありがとうメグヨ。と僕は心の中で手を合わせる。

 次来たときは、卵1ケース全部ピヨ鳥にしてくれ。


 一瞬ピヨ鳥マジックで心を許しかけた僕だったが、ミントの味が消えると、再び思考力も戻ってきた。


『いや、やっぱり来るな、メグヨ。昨夜の鬼ごっこで妖精を追い返したばっかりなんだ。また追い返すことになったら、だるすぎる』と思い直した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。