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糖度100パーセント  作者: リクルート
24/70

俺たち、入部する

 俺たちは唖然としていた。執事役の北には驚いた様子はなかったが、俺たちは声も出なかった。球は急に曲がったように見える。まさに、インチキのように見えたのだ。

「驚いてるようね。でも、本当にあるのよ、この技。プロの人も使っているらしいわ」平然と言ってのける九々。

「やりたいのなら、教えてもいいわね。やってみる?」

「……すごいっ! 何今の。私もできるかな」

「何度も練習すればできるわ。私もかなり時間がかかったの」

 こうしてビリヤード対決は終わった。三重人格の彼女が仲間入りした。


 この娯楽倶楽部は九々、じゃなくて姫灯(ひめり)が部長ということになっているらしいが、公式ではないのであまり関係はないそうだ。しかし、表に出てこないのはこのスペースを独り占めできるかららしい。しかし、この空き教室の並びに迷った北は姫灯にここに一度招かれて、それからこの倶楽部に入ったそうだ。

「わ、私は、これで、辺泥君と一緒に居られるの?」姫灯はキューを離してからは緊張モードに入っていた。

「そうですよ。私たちは仲間なのです!」織姫は嬉しそうにそういった。

 それに賛同する他の二人。北は俺のことをうらやましそうに見ていた。こういっては失礼だが、なりたくてなっている状況ではない。

「それで、その、この部室は、勝手に使ってもいい、から。だから、この部活の部員ということにしてもいいかな」

 それはいい。今までは俺の教室まで迎えに来てくれていたが、ここに集合すればいい話になるし、集まる場所があるのは繋がりが強固になった気がして嬉しい。俺たちの居場所ができるということが嬉しい。

「それでいいよな、みんな」俺の言葉に三人は頷いて、答えた。

「そういうわけだから、これからよろしく。姫灯、北」


「では、マッセの撞き方を伝授するわ。というか、まずは普通に撞く練習からね」

 それから、彼女にビリヤードを教えてもらって、時間が過ぎていった。


 窓から指す光は橙色をしていた。それなりに時間が経ってしまっていたらしい。そろそろ下校時刻の六時だ。

「そろそろ帰るか。下校時刻になるしな」

「そうですね。暗くなる前に帰った方がいいでしょう」

 それぞれがビリヤードの球やキューをしまった。それから、俺たちが部室を出た。姫灯は部長の責任があると言って、最後に点検しなくてはいけないという決まりを律儀に守っていた。俺たちは待っていると言ったが、先に帰っていてほしいと何度か言われて、無理強いすることでもないと思って先に学校を出た。不思議ではあったがそんなに追及するほどでもなかったので、一度学校を振り返るだけで、帰路についた。


「マッセだっけ。あれ、すごかったね」来織がそんなことを言った。

「ぎゅんって曲がった」

「そうです、そうです!」

 三人は俺が送ることになった。来織は俺の家の隣なので一番最初に家に帰り、その次が織姫、最後は灯勇となる。灯勇を送るころには、橙の光は薄まって、夜の闇が空に広がり始めていた。


「暗いな。今まではこんな時間になったりはしなかったんだが」

「別にいい。今日は楽しかった」

 街灯が照らす薄暗い道を俺たちは歩いている。隣を歩く灯勇の表情は明るく、本当に楽しそうだった。二人並んで、今日の娯楽倶楽部の事を話していた。灯勇の家に近づいてきた。マンションの入り口が見えてきた。そこで彼女の顔を見ると何か、不安そうな顔をしていた。

「どうした。何かあったのか」

 その問いには彼女は首を振った。しかし、感情が表情に出やすい彼女の事だ。きっと何か不安があるのだろう。それが何なのか俺にはわからない。

「大丈夫か。何か気になることがあったら言ってくれ。俺は心配でしょうがない」

「うん」こくりと頷いて、彼女は言葉をつづけた。

「最近、私の事つけてきている奴がいる。姫灯じゃない誰かが」そういう彼女の表情は一層不安そうに見えた。

「そうか。じゃ、今日は来織の家に泊まるか?」

 一人では不安だろう。しかし、俺の家に泊めることはできない。男女が二人だけで一つ屋根の下にいるのは彼女が不安になるだろう。来織ではそんな心配はない。

「でも、迷惑になる」

「来織はそんなこと気にしないって」そう言って彼女の手を強引に引いた。


「来織。悪いんだけど、灯勇を泊めてくれないか」

 来織の家についてまず要件を話した。来織は何か考えていた。俺は気づいていなかった。こういうとき、彼女の決まって俺の行って欲しくない方に状況を持っていくのだ。

「じゃ、みんな呼んでお泊り会だ!」


 そう言って集まった面々。来織、織姫、灯勇、姫灯。いつの間にか姫灯とも連絡がつくようにしていたらしい。

「辺泥君の家に来れるなんて、嬉しいなぁ」緊張モードとはまた違うモードで来たのは姫灯。

 というよりも、多分緊張モードはもう来ない気がするな。うまくは説明できないけれど、彼女はもうこの集まりに馴染んでいる気がする。

「ねぇ、姫灯。あっきーのこと名前で呼ぼうよ。みんな、名前のあだ名で呼んでるからさ」

 俺は特に困りはしないのだが、確かに彼女だけ一般的な苗字の呼び方だ。仲間はずれとは言わないが、心の距離みたいなものが一人だけ開いている感じなのはあまりいいものではない気がする。

「そ、そんな。でも、名前、かぁ。くくっ、今日中に考えておこうじゃあないか」中二病はいつ出てくるかわからない。

 そんな和気藹々としたお泊り会が開始した。場所は俺の家だが。


続く

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