#4
恋人も切り捨てる。
綿貫の言葉に、智紀はわずかに息を飲んだ。
「七瀬先輩には敵がたくさんいるから、そのうち貴方もとばっちりに合いますよ。けど、肝心の先輩が貴方を守ってくれる保証はない。リスクを犯してまで彼と一緒にいる価値はない。って思いません?」
「……」
湿気をまとった空気が瀰漫する廊下。
「そっか……」
居心地が悪いのは、恐らくお互いさまだろう。
「よく分かった。教えてくれてありがとね」
俯いていた顔を上げ、智紀は微笑んだ。
「でも、俺は大丈夫だと思う。夕夏に守ってもらうんじゃなくて、俺が夕夏を守るつもりだから。……何があっても別れる気はないよ」
ここで弱気になったら駄目だ。夕夏を信じてるんから、できるだけハッキリ言った。綿貫くんに、というより自分自身に言い聞かすように。
我ながら潔いと思う。綿貫君はちょっと驚いた顔をして、「そうですか」と去っていった。
ひとりになってちょっとホッとする。一年の子にドキドキするとは情けない……。
でも、夕夏に敵が多いのは本当だろうな。今まで散々ゲイのカップルを引き裂いてきたから。
────これからは大丈夫。あいつは普通に高校生活を送っていけるはずだ。俺が傍で守れば何も問題ない。
そう決意する智紀を、廊下の角から見つめる影があった。
「ふーん。そんなこと言ってたんだ。あの転校生」
壁に寄りかかって腕を組む。生徒会の副会長、真弘。彼の後ろでは、綿貫が何度も頷いている。そして満面の笑みで前に出た。
「はい。ちょっと喋っただけなんですけど、須賀先輩って良い人っぽいですね。七瀬先輩を絶対守るって心に誓ってる感じして、かっこいいなぁ」
「いやまだ要観察だ。八尋、今度はもっと脅してかけてみな」
「もう嫌ですよ! 俺ばっかり恨まれるじゃないですか!」
和やかな雰囲気から一変、綿貫は真弘に抗議した。先程の接触も望んだことではなく、彼に命令されて仕方なしに行動したのだ。おまけに、会話の内容も。
「今度は真弘先輩が行ってください。俺は別に須賀先輩と七瀬先輩が付き合ってても良いですもん! むしろどうぞ、末永くお幸せにって思います」
「……そ。俺の言うこときいてくれたら、ご褒美やるよ?」
真弘に耳元で囁かれ、綿貫は黙って視線を逸らした。
嫌になるのは彼のお願いではなく自分自身かもしれない。全力で拒否できないことが一番歯痒い。綿貫は密かに臍を噛み、瞼を伏せた。




