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28話 聞こえた悲鳴

「オリオン、大丈夫か?何なんだあの二人は。特にあの女性は感心しないな。」


「あー……あの人たちが前に入れてもらってたSランクパーティ、暁の翼なんだ。

魔法使いのリンと、タンクのジョナ。

あと、リーダーで剣士のエドと、サポート兼回復魔法士のラリッサって人がいるんだけど……

あの二人がいるってことは、全員どこかにいるんだろうなぁ。」



リンたちと別れてすぐ、ライオネル王が二人について尋ねてきた。

ライオネル王が怒るのも無理はない。

あの態度は俺が知っているリンとはまるで別人だったし、あそこまでやつれたジョナを見るのも初めてだった。

暁の翼に、何か良くないことが起きているのではないか。

そんな考えが頭をよぎった時、俺の胸に飛び込んできたコハクが顔をしかめて言った。



「コハク、あの二人の臭い嫌いでしゅ。臭いでしゅね。」


「ええ?臭いって……魔物退治の時に臭いがついたのか?」


「……そうではない。人の嫌な部分が表に出ている時にだけ漂う独特の臭いだ。

貴様たちには分からぬだろうが、我やコハクには分かるのだ。」


「へぇ……でも、前にも言ったけど、良い奴らだったぞ?

こんな俺を8年も置いてくれたんだから。」


「……」



“人の嫌な部分の臭い”なんてものがあるなんて、初めて知った。

それがどんな臭いなのか想像もつかないけど、コハクもラミンもあれほど嫌がるということは、相当強いものなんだろう。

リンもジョナも、何かがあったとしか思えない。

あんな嫌な気配なんて、俺がいた頃には一度も感じたことがなかったのに。



「年月なんて関係ないでしゅよ。臭いものは臭いでしゅ!

だから、ご主人様はコハクたちと一緒にいれば良いのでしゅ!」


「コハクー……ありがとな。」


「まぁ、あまり考えるなオリオン。人にはいろいろと事情があろう。

大事なのは今、誰と居て、何をしているかであろう?」


「ライオネル王……

うん、そうだね。ありがと。皆、優しいねぇ。」



コハクは「臭い」と文句を言いながらも、俺を慰めようとしてくれているのが分かった。

ライオネル王も、いつも通り穏やかで優しい言葉をくれる。

ラミンも、俺が嫌な思いをしないようにと先回りして動いてくれていた。

今の俺は、間違いなく恵まれている。

それを改めて実感して、胸の奥が少しだけ温かくなった。



「さて、もう忘れてギルドに急ごう。」


「そうだね。」



こんなふうに前向きに考えられるようになったのも、きっと皆のおかげなんだろう。

どうしても自分の価値を自分自身で見いだせずにいた俺にとって、側で肯定してくれる存在がいるというのは、本当にありがたいことだ。


暁の翼のメンバーも、加入した時からずっと俺を護ってくれていた。

「荷物持ちなんだから他のことは求めてないから安心して」と言われ続けてきたのも、あれはあれで優しさだったのだと思う。

何も出来なかった俺が悩まないように、気を遣ってくれていたのだろう。

だからこそ、力をつけて少しでも役に立ちたいと思っていた。

……まぁ、結局は自分からきちんとアピールできなかった俺が悪いんだけどな。



キャアアアアアアッ!!!

ギャアアアアアアッ!!!



「ん?」


「叫び声がしたでしゅねぇ。怖い声でしゅ。」


「行ってみるかオリオン。」


「うん。さっき来た道だったよな?」


「そうでしゅ!戻るでしゅ!」



考えごとをしていた俺の耳に、町中に響き渡る悲鳴が飛び込んできた。

何事かと思い振り返ったけど、正体は分からなくて。

ライオネル王に声のする方へ向かおうと言われ、何ができるか分からないまま駆け出した。

何かあったとしても、今この町には暁の翼がいるから、俺の出番なんて無いかもしれないけど。

それでも、大きな事態になっているなら手伝えることがあるかもしれない。そう思って走った。

だけど、辿り着いた先に広がっていたのは、想像を遥かに超える惨状だった。



「これは――

一体……な、何が?」


「ぐっ……はぁっ……はぁっ……」


「ぬぐぐっ……クソッ……」


「苦しいっ……誰かっ……」



道端で大量の血を吐き、のたうち回っているのは、さっきまで話していたリンとジョナ、そして見知らぬ男の三人だった。

知らない男は恐らく新しい荷物持ちだろうな。直感的にそう思った。

そして、この地獄のような光景を前に、エドとラリッサは絶望の表情を浮かべて立ち尽くしていた。

何が起きたのか、二人とも理解できていないようだった。



「エ、エド……ラリッサ、これは一体……?」


「オリオン?!な、何でお前がここに?」


「依頼でちょっと。それよりも何があったんだよ……」


「俺が聞きたいわ……!

この街から別の町までの護衛任務があって王都から来てたんだ。

Sランクパーティ以外は嫌だと言われたらしくてな。

それで少し前にグロリアに到着したんだが……

と、突然三人が吐血して苦しみだしたんだっ…!

ラ、ラリッサ!!見ていないでさっさと回復魔法をかけろ!!」


「は、はいっ……!!」



声をかけるつもりはなかったけど、この状況ではそうも言っていられない。

だけど、エドの説明を聞いても、状況はまったく理解できなかった。

突然倒れた?何が原因で?

そう考えていると、エドはパニックになりながらも、震えるラリッサを怒鳴りつけた。

そんなエドの声に、ラリッサは怯えたように杖を握りしめ、震える声で詠唱を始めた。



「大地に満ちる癒しの魂よ、我が祈りに応え、傷つきし者に安らぎを――ハイ・ヒール!!」


「ぎゃあああああっ!!やめっ……やめてくれっ!!」


「なっ……なんでっ?!」


「ぐるじぃっ……!」


「痛いっ……痛いっ!!体の中がっ……臓器が引き裂かれるっ…!!」



一瞬、顔色が戻ったように見えた。

だけど、それはすぐに“幻”だったと知らされることになった。

回復魔法が三人の体に触れるとドクンッと大きく脈打ち、次の瞬間、再び大量の血が溢れ出した。

俺の知らない新しいメンバーは、臓器が引き裂かれると叫び、地面を転げ回っている。


こんな光景、俺は初めて見た。

エドもラリッサも、周囲の町の人々も同じだろう。

この地獄のような光景を前に、悲鳴を上げて逃げ出していった。

すると、エドはさらにパニック状態に陥りラリッサを怒鳴り始めた。



「なんっ……何なんだよ?!何故回復魔法が効かない?!

ラリッサ!!お前ちゃんとやってるのか?!」


「やっ、やってますっ…!!でもおかしいんです!!

回復魔法をかければかけるだけ、その力がリンたちの体の中の“何か”に吸い込まれていくような……

そんな感覚があってっ……だからっ!」


「言い訳はいい!!もっと高位魔法を使え!!それでもSランクなのか!!」


「分かってっ……分かってますよっ……

ぐずっ……そんなっ……怒鳴らないでっ!

ううっ……

大地に満ちる癒しの魂よ、我が祈りに応え、傷つきし者に最大の安らぎを――グレーターヒール!!」


「やめっ……ラリッサ……お願いっ……やめっ……!」



怒鳴るエドに言われるがまま、先ほどよりも高位の回復魔法を発動。

だけど、意味不明な状況が目の前で起きていてラリッサはさらに追い込まれていく。

回復魔法がリンたちを包むと同時に、魔力が体の中へ吸い込まれていくなんて、どういう状況だよ……

その度に、三人は激痛に悲鳴を上げてるし、このまま続ければ死ぬ。

直感でそう確信し、俺は叫んだ。



「ラリッサ!!今すぐ魔法を止めるんだ!!

その魔法は逆効果だ!!

余計にリンたちを苦しめてる!!」


「ひいいっ……なんでっ……なんでなのよ!!

回復の上位魔法だよっ?!

傷も損傷している部位だって治せるはずなのにっ……なんでっ!」



カランッ――



俺の叫び声に体をこわばらせたあと、ラリッサは大粒の涙をこぼしながら膝から崩れ落ち、震える手から杖が転がり落ちた。

エドはエドでもう言葉も出なくなっていて、これは…非常にまずい状況だと変な緊張感が走った。


とはいっても、高位魔法が意味をなさない状況で、俺に何か出来ることがあるんだろうか?

そう考えた時、なかなか答えは出てこなくて。

ただ、目の前で苦しみ続けるかつての仲間を見ているのは、胸が締め付けられるほど、辛かった。

こういう時に何もできないなんて、いる意味ないじゃないか。

そう思わずにはいられなかった――……

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