27話 グロリアでの再会
盗賊騒動のあと、俺たちは何事もなく馬車を走らせ、無事にグロリアへ到着した。
ドロシーさんと一緒に、薬を依頼した友人の家へ向かう。
一般家庭よりも少しこじんまりとした家で、王立治癒院に通う資金を用意するのは難しいだろうとすぐに分かった。
「よく来てくれたねぇドロシー。そちらの方々は?」
「この人はオリオン君とライオウさん。
それとオリオン君の召喚獣のラミンちゃんと、従魔のコハクちゃんだよ。
今回、護衛を頼んだ冒険者さん。とっても優しい人たちだからねぇ。」
「そうだったんだねぇ。初めまして皆さん。
私はミラノ・ヒューズと申します。ミラノとお呼びくださいね。」
「それで、スーザンちゃんの旦那さんは?」
「もうすぐ治癒院から帰ってくると思うから、それまではお茶とお菓子を食べて待ちましょう?」
ミラノさんはそう言うと、キッチンから美味しそうな手作りのお菓子を出してくれた。
手作りのお菓子なんてほとんど食べたことがなかった俺にとって、それは初めて味わう“おふくろの味”だった。
甘さ控えめでサクサクしていて、一度食べたら止まらなくなりそうだ。
「コハクも食べたいでしゅねぇ……」
「コハクたちは今の状態じゃダメだもんな。
何か良い方法があればいいんだけど……」
匂いに釣られてコハクも食べたがっていたが、今の姿では食事はできない。
魂の状態になれば一応食べられるけど、さすがに今ここでそれをするわけにはいかない。
この姿のままでも食べられる方法を考えなきゃな……とぼんやり思っていた、その時だった。
ガチャ――
「ただいま―ってお客さん?」
「おかえり。こちらは話していたドロシーと護衛の方々だよ。」
「え?!じゃあ、本当に来てくれたの?!
あ、えっと!初めまして皆さん!私はスーザン。こっちは夫のロバートと言います。
この度は私たちのために王都から来ていただきありがとうございます!」
「スーザンちゃん、ロバートさん。今回は大変だったねぇ。
早速このお薬を飲んでもらえるかい?」
「……はいっ!ありがとうございます!」
家の扉が開き、ミラノさんの娘さんとその旦那さんが戻ってきた。
旦那さんは見たところまだ初期症状で、ドロシーさんの調合した薬があれば十分回復が見込めそうだと感じた。
毒素病の治療は本来王都で行うものだけど、誰もが治療費を払えるわけじゃない。
そう思いながら見守っていると、ロバートさんはドロシーさんから受け取った小瓶を一気に飲み干した。
即効性のある薬ではないようだけど、何度か飲むうちに症状が改善していくのだろう。
「このお薬は一日2回、毎日飲んでね。それでも症状が悪化したら教えておくれ。」
「ありがとうドロシー。本当に、代金は良いのかい?」
「いいんだよ。長年の付き合いじゃないか。これくらいはさせておくれよ。
ミラノはこれまで何度も私を支えてくれたじゃないの。そのお礼も兼ねてるんだよ。」
「ドロシー……ありがとう……本当にっ……」
涙を浮かべてお礼を言うミラノさん。
その両手をドロシーさんがギュッと握り返し、まっすぐに「感謝している」と伝える姿に、二人がどれほど長く支え合ってきたのかが自然と伝わってきた。
その様子を見ていたスーザンさんとロバートさんも、胸を撫で下ろしたように何度もドロシーさんへ感謝を伝えていた。
もし状態が悪ければ俺も手を貸すつもりだったけど、今回は必要なさそうだと判断した。
ライオネル王も同じ考えだったようで、こちらを見て静かに頷いていた。
「オリオン君、せっかくだから少し町を散歩してくるかい?」
「いいんですか?コハクに町を見せたいと思っていたのでありがたいです。」
「行っておいで。コハクちゃん、楽しんでおいでね。」
「はいでしゅ!ご主人様と遊んでくるでしゅ!」
和やかな空気の中、ドロシーさんは俺たちに休息の時間をくれた。
ラミンもコハクも外の町を知らないし、ライオネル王も今の時代の町並みを見たことがない。
ちょうどいい機会だと思い、俺たちは家を出て散歩に向かった。
「今も変わらず、のどかで良き町だな。この町にある巨大樹があるだろう?
あれは私の時代から存在している古い大木なんだ。私のころは、あそこまで大きくはなかったがな。
その樹木を中心に町を作ってはどうだろうか、という話が王城内で出てな。
私の右腕として仕えてくれた男が中心となって創り上げた町なのだ。
そして名づけの時、一番最初に町づくりを提案したその男の名を取って、グロリアと名付けられた。」
「ええ?そうなんだ。それは知らなかった。
長い年月をかけて大きくなって、すっかり町の象徴になったんだなぁ。
ライオネル王の時代からあるなんて、なんか感慨深いなぁ。」
「この町はじぃじの頃からある町なんでしゅかぁ!」
町に入った瞬間、外とは違う、のどかで柔らかい空気が肌に触れた。
町の中心にそびえる巨大樹はグロリアのシンボルだけど、
それがまさかライオネル王の時代、3000年前から存在していたとは思わなかった。
あの大木が町を護ってくれていると信じられているけど、3000年も前からあるなら、あながち迷信でもないのかもしれない。
そんなことをぼんやり考えていた。
「オリオン、冒険者ギルドで先ほどの盗賊の件を報告しておいたらどうだ?」
「あ、本当だ。一応報告しておいた方がいいかもしれないな。」
「ギルドに行くでしゅー!」
ゆっくり町を歩いていた時、ライオネル王に促され、先に冒険者ギルドを向かうことにした。
あの貴族たちがいつ到着するかは分からないし、念のため報告しておけば警備の強化にもつながるだろうしな。
そう思いながらギルドへ向かっていると、突然ラミンが俺の髪をグイッと引っ張った。
「いてっ!どうしたんだよラミン。」
「別のルートを探すのだ。」
「ええ?こっちからの方がギルドが近いんだって。」
「……ダメだ。向こうに行くぞ。」
「何でだよ……しょうがないなぁ…」
ラミンはなぜか別の道を行けと言い張った。
理由はまったく分からなかったけど、言い出したら聞かないし、
仕方なく左に曲がれる道へと進んだ。
その時だった。
「――オリオンじゃない?」
「え?」
「あなた、こんなところで何をやっているの?」
「ああ…‥リン。それにジョナも。久しぶり。」
突然、後ろから名前を呼ばれ振り返ると、そこにいたのはかつての仲間、
魔法使いのリンと、タンクのジョナの姿があった。
できればもう会いたくなかった相手だったんだけど。
まさか王都の外で会うなんて思わなかった。
「だから言ったのだ、バカたれ……」
「……ああ、なるほどね。」
ラミンは小さくため息をつきながらそう呟いた。
どうやらラミンは二人の存在に気づいていて、
俺が会わないように別ルートへ誘導してくれていたらしい。
それに気づくのが遅すぎて、少し申し訳ない気持ちになった。
「オリオン、まさかこの町に引っ越したの?」
「いや?依頼でこっちに来ているだけだよ。」
「依頼って……まさか冒険者続けているの?
……その黒騎士さんと?」
「……そうだね。俺は今、のんびり依頼を受けながら生活してるよ。」
「へぇ。まぁ、ろくな依頼を受けられないでしょうから……
黒騎士さんくらいが一緒にいた方がいいかもしれないわね。
どうやって口説いたの?見たところセルリア製のアーマーを装着してるようだけど。
どこのお金持ち?しかも綺麗な毛並みのペットも連れちゃって。どうしたのよ。」
リンは、俺がまだ冒険者を続けていることが信じられないと言わんばかりに、根掘り葉掘り聞いてきた。
俺の知っているリンは、こんなふうに詮索したり、皮肉を混ぜて話すようなタイプじゃなかった。
……はずなんだけど。どこか雰囲気が変わってしまったように感じる。
ジョナも同じだ。元々は穏やかで優しい顔をしていたのに、
今はどこか疲れ切っているような、影が差したような表情をしている。
二人に何があったんだろうか。
「……二人とも、なんか変わったな。
俺、ちょっと急いでいるから。じゃあ。」
「……ああ。じゃあな、オリオン。」
何となく、本当に“何となく”なんだけど、この二人とこれ以上一緒にいたくないと感じた。
胸の奥に、言葉にできない違和感がじわりと広がる。
俺がいた頃には感じたことのなかった空気。
ジョナのやつれた顔。
人に対して刺々しい言い方をするようになったリン。
もしかして、ラリッサやエドも……
同じように変わってしまっているんだろうか。
そう思うと、胸の奥が少しだけきゅっと痛んだ。
寂しいような、そんな気持ちが湧き上がっていた――……




